暁の合唱

 

 

2008年5月は同じく日本映画専門チャンネルで放送。『暁の合唱』 も観ました。 戦前に書かれた石坂洋次郎原作の同名小説の3度目の映画化。

<ストーリー>
 舞台は倉敷。路線バスの車掌になった朋子(星由里子)。社長は山村聡なのだが、ブラジルで建設会社を始めるらしく不在。運転手の宝田明とコンビで乗務。ある日無賃乗車の客・黒部進を捕まえる。事務所に連れて行くのだが、事務員の新珠美千代から黒部は社長の弟だと教えられる。もう別れたらしいが、新珠は山村の愛人だった。

 黒部は町で映画館をやっている。モテモテらしく女友達もたくさんいるらしい。そんな自分に疑問を持っていたのだろう。女性関係を清算。誘われて黒部の部屋に行く星だが、そこにはセフレ? の原知佐子がいる。別れ話に付き合わされる。

 ある日、客の妊婦(菅井きん) が車中で陣痛。客の北林谷栄がバスの中で取り上げる。最初は妊婦に嫌悪感を持つのだが、出産を目の当たりにして女としての使命感に燃える。客が皆で産着代をカンパ。自分よりも貧しい身なりの菅井に幾ら出せば良いのか分からない星由里子は財布の中身を全部出そうとするが、北林から「そういう時は小銭で良いんじゃ。」 、と注意される。

 運転免許を取りたい星は宝田から運転を習う。免許の試験が終わった日、盲腸で倒れてしまう。手術に宝田が立ち会う。術後3日して黒部が見舞いに来る。宝田が立ち会ったことに軽いジェラシー。

 山村はブラジルに移住して事業に専念したいらしい。星由里子に黒部と結婚してやって欲しいと頼む。新珠には宝田との結婚を勧める。そうすれば自分は安心してブラジルで働ける、と言う。

 黒部は隣町の映画館にフィルムを運ぶ。いつもはバイクで運んでいたようだが修理中。免許取立ての星の運転で会社のジープで出撃するのだが、燃料を確認していなかったため途中の山道でガス欠。夜、雷雨で大ピンチ。黒部が歩いて助けを呼びに行く。しばらくすると心配した宝田と新珠が駆けつけてくる。宝田の車でフィルムを運ぶ星。途中で黒部を拾ってフィルムは無事に届けられる。雨が止み持ってきた燃料をジープに補給する宝田は「貴女との事、素直な気持ちで考えたいと思います。」

 黒部は山村に付いてブラジルに行く事にする。「自分は半人前だから、ブラジルで一生懸命働いてみたい。」 行けば2年は帰ってこない。

出発の日。駅で二人を見送る星、宝田、新珠。駅前の停留所に止めておいたバスに乗り込み出発するシーンに星の歌う主題歌がかぶりエンド。

                            

 
原作は30年くらい前に読んだ記憶があるのだが、肝心の本がどこかに行ってしまった。捨ててはいないから物置でも探せばあると思う。これ結構長い話だと思った。しかし内容の記憶が殆んどないので、原作をどの程度忠実に映画化したのか分からない。
フィルムを運ぶエピソードなんてあったっけ?

 星由里子扮する朋子は高校を卒業してから車掌になったから、まだ19〜20歳くらいという設定。若いので女性としても人間としても未熟。貧相な妊婦を嫌悪したり、カンパする時も周囲は50円〜100円なのに、「自分よりも貧しいから、」 と財布ごと(中身は500円) 出して北林に注意されたりしていた。おまけに初めての出産に立ち会って興奮、夜に事務所で宝田と新珠に恋愛論やら結婚観について大演説。あーこういうのオイラもやってしまうんだよな。気をつけないと。そういうのを笑って聞いてやる二人は大人である。石坂モノのヒロインは賢い女性が多い。ここまで穴のあるヒロインは珍しい気がする。
 様々な事件が起こるので、朋子という若い女性の成長物語と言えなくもない。しかし語り口が淡々としてあまり面白いとは思えなかった。

 監督がサスペンスの巨匠・鈴木英男。『殺人容疑者』 や『危険な英雄』 とか独善的ともいえる力強いタッチが魅力だと思うのだが、この作品では青春モノということもあって何だか腰の引けた印象を受けた。

 若い人に腰が引けるのは分かる気がする。初老男になったオイラも最近は20代、30代の人と合わせるのが辛い。元々気持ちの弱いオイラだが、最近は体力的にも苦しくなってきた。気持ちも弱い、体力もないでは若いエネルギーに耐え切れないのだ。
 この映画ではクライマックスはフィルムを運搬。ガス欠でピンチ、というものだが、宝田&新珠の“大人の二人” に救われるのはオッサンのオイラにも救いだった。

 大人といえば、社長役の山村聡はヒドイ。自分がブラジルに移住したいから、星に黒部との結婚を勧めたり、愛人だった新珠を宝田に押し付けようとやりたい放題。ラストではブラジルに移住してしまう。会社はどうなるの? いくらワンマンでもやり過ぎなんじゃないの?

 それでも新珠の演じた米子という女性は魅力的だ。未熟な朋子に比べて人生の機微を知り尽くしている感じ。黒部進の知り合いの芸者が、「あの人(米子)は一本筋の通った人。」 と評していた。

 宝田は最初、若くて美しい星に気があったようだが、山村の勧めとは関係なく新珠を選ぶのは賢明な選択。オイラも絶対に新珠派だな。こういう人は一緒にいてホッとさせてもらえるだろう。

 そういやこのバス会社はどの程度の規模なの? 映画の序盤では新人研修シーンがある。星を含めて6人いるのだが、ストーリーには全く絡んでこないし、他で写っているシーンもない。

 ウルトラマン黒部進をググるとこの作品は公称デビュー作のようだ。その前に本名の吉本隆志で『六本木の夜 愛して愛して』 にも出ているらしい。東宝アクションでは悪役の多い人だが、ここではヒロインの相手役だから、期待されていたのだろうか。

星の歌う同名タイトルが主題歌。少し調子ッパズレな感じもしなくはないが、透き通るような歌声は魅力。