第11録

『ドーナツの穴』 立ち稽古見学記

 

 

2012年1月7日(土)〜15日(日) 矢内文章さん率いるアトリエ・センターフォワード第6回公演『ドーナツの穴』 がシアター風姿花伝で行われます。

 

穴に埋もれた断片を拾い、平和を願う物語を作ろう

  

2011年、架空の国ウータンで医療活動をしている女医・今日子(勝平ともこ) 。1952年、独立国として歩き始めた日本で、もがくように生きる子持ちの売春婦で、後に今日子の祖母となるミナ(斉藤ナツ子) 。二つの時代を巧みに交錯させながら、賢明に穴から這い出ようと生きる人々を描く。 

 

11月26日(土) から立ち稽古がスタート。連日猛稽古が行われている。

 

12月10日土曜日。トータルアドバイザーを務める富士山和夫さん(OPTRAND  ENTERTAIMENT JAPAN)  のご好意で、立ち稽古を見学させていただきました。

 

↑ 舞台をイメージしたセット

↑ 作・演出の矢内文章さん

 

場所は渋谷駅近くの雑居ビルの7F。稽古は週6日、昼過ぎから始まり夜遅くまで。我々が12時過ぎに到着すると、13時からのスタートにあわせて、役者の皆さんはそれぞれストレッチで体をほぐしながら談笑していた。始まってもう2週間以上経っていることもあり、和やかな雰囲気。それでも稽古が始まるとピーンとした緊張感が走る。

 芝居の稽古って初めて観た。この日は終盤からラストまで。今日子が自分の道筋を決めて旅立っていくまで。板と箱を組んで作られた仮セットを前に、台本を片手に演じる役者の動きを追いながら、演出の矢内さんは立ち位置や台詞も微妙に変えていく。素人目でも最初はぎこちなさを感じたが、矢内さんが修正していくと、自然な感じに変わっていく。

 

これは地道な作業だ。本番ではライトが照り、キチンとしたセットが組まれ、大勢の観客がいる。そんな華やかな場所で演じるのに対し、稽古では何もない。稽古場として借りたフロアに幕を張り、舞台をイメージしたとはいえ簡素なセット。ライトもなく、蛍光灯だけの灯り。当然客もいない。動けるように全員ジャージやスウェット姿。ここに篭もって、1ヶ月以上稽古という地道な作業を繰り返す。モジベーションの維持だけでもエネルギーを使いそうだ。しかしこれをやり抜かなければ、客の前に立つ事は出来ない。客から金を取って見せるのだから、プレッシャーもかかるだろう。プロとしてやり抜くのは当然の事なのだが、これは本当に大変な作業だと思った。

富士山さんの話では、矢内さんは作・演出、自身も役人・安岡役で出演。それだけではなく責任者として全てを担当している。稽古のない日は、スタッフとの打ち合わせ等に忙殺されているそうだ。何がそこまでこの人を支えているのだろう。演出している時の矢内さんは穏やかな口調でソフトな印象だが、心の中では芝居への熱い思いがたぎっているに違いない。

 

↑ 今日子役の勝平ともこさん(右) 
左は舞台監督の深沢亜美さん

↑ 武井役の佐藤晴彦さん

↑ ツェリン役の堀口和也さん(左)
寺澤役の眞藤ヒロシさん(右)

↑ 土田役の上田和弘さん(左)
タケル役の小田伸泰さん(右)

↑美恵子役の柳下李里さん

↑ミナ役の斉藤ナツ子さん(左)
カオル役の勝島乙美さん(右)

 

勿論熱い思いは矢内さんだけではない。稽古を見ていても、役者さんたちからもそんな熱情が伝わってくる。出番が終わると、寺沢役の眞藤ヒロシさんやカオル役の勝島乙江さん、ミナ役の斉藤ナツ子さんらは、矢内さんから指示された事を、細かく台本に書き込む。少しでも役を自分の物にしようとしているのだろう。他の人も同様で、台本に書き込む人、演技を反芻して再確認する人、等。止まっている人がいない。とにかく皆必ず何かをやっている。

 主演の今日子を演じるのは勝平ともこさん、女医役というのもあるが、凛とした佇まいが美しい。ウータンで農業指導をする土田役は上田和弘さん、密かに今日子に思いを寄せるという役どころを明るく演じる。商社マン・武井役は佐藤晴彦さん、上田さんとのやり取りは息のあったところを見せる。看護士・美恵子役は柳下季里さん、威勢のいい台詞回しが小気味いい。ウータンの若者・ツェリン役は堀口和也さん、陽気な現地人を好演。タケル役は小田伸泰さん、格下の男を演じながらも、ミナへの思いを貫く姿が印象的。

 この時はまだ台本片手の段階だったが、役者さんそれぞれが演技を始めると、仮組のセットが本当にウータンという国に見えてくる。セットの入れ替えもしていないのに、1952年の焼け跡の残る日本に見えてくるから不思議。旅立っていく今日子がステージの外に消えていくのだが、本当にその先には青い空が広がっているのではないか、と思わされた。これがプロの芝居なのだな。3時間ほど見学させて貰ったのだが、立ち稽古だけでも見ていて飽きない。

 
11日には通し稽古も行われたそうだ。チームワークも良く、稽古も順調に進んでいる。こういう地道な作業が、どんな形となって舞台で結実するのか、本番で確認したい。公演が今から待ち遠しい。

 

 

アトリエ・センターフォワード第6回公演
『ドーナツの穴』

作・演出:矢内文章

2012年1月7日(土)から15日(日)  シアター風姿花伝

日時指定・全席自由
前売り3800円
当日4000円
お年玉デー3000円

7(土)
1900
8(日)14:00 
9(祝)14:00 19:00
10(火)19:00
11(水)19:00
12(木)14:00 19:00
13(金)19:00
14(土)14:00 19:00
15(日)14:00


キャスト

勝平ともこ
眞藤ヒロシ
斎藤ナツ子
勝島乙江(劇団青年座)
堀口和也
佐藤晴彦
小田伸泰(劇団俳優座)
柳下季里(劇団青年座)
上田和弘(流山児
事務所)
矢内文章