童貞ボクサーもヨロシク

 

ケイゾウ松葉というキックボクサーがいる。藤本ジム(元・目黒ジム) 所属。新日本キックボクシング協会ウェルター級10位にランクされているこの選手は46歳。勿論、他団体を含めて現役最古参だ。デビューが20歳の時だというからキック歴は26年。ブランクを作っているらしいが、それでも大したものだ。先週3日夜放送のサムライの情報番組『キックの星』 でインタビューが放送された。仕事はガードマン、独身らしい。最初は大阪で空手をやっていた。当時のスター選手・富山勝治(東洋ウェルター級王者)  を観て「俺もTVに出たい!」 と始めたそうだ。途中ブランクを作ったらしいが、その間は自転車で旅をしていたらしい。海外放浪もしていた。泳いだり走ったりと自己流のトライアスロンもしていたそうだ。旅から帰ってきてカムバックしたのが33歳。普通なら引退している歳だ。それでもリングに上がるのはどうして? という質問に「俺はまだこんなものではない。自分を信じている。もうこの一念です。」 と答える。年齢的な衰えか勝ち星には恵まれない。しかし「自分はチョッとずつでも伸びている。練習と試合とのギャップが少しずつでも埋まり始めている。」 と語る。そして「キックボクシングは自分が成長しているかを知る手立てです。何かオヤジっぽいな。」 と笑う。そんなケイゾー松葉選手は5日(日) ディファ有明で試合をした。今やトレードマークになった入場テーマソングは坂本九の『上を向いて歩こう』 。対戦相手は若いSHINGU選手。3戦3勝(1KO) と伸び盛りだ。「イキの良い、若い強い奴とやりたい。」 と語る松葉選手だったが、2R57秒でKO負け。戦績も25戦8勝(5KO)14敗3分と大きく負け越してしまった。負けちゃったけれど、ケイゾー松葉さん。ヘタレのオイラにはこんな鮮烈な生き方は出来ない……いや出来ないからこそ言いたい。
あんたカッコ良いよ!!

 日曜の試合に負けたケイゾウ松葉はまだ現役を続けるのでしょうか? 『中年の星』 として、まだまだ続けて欲しい気もしますが、練習風景の動きを見る限り、もう引退した方が良いと思うのはオイラだけかなぁ。素人目で見ても、周囲で練習している若い連中の方が動きが良かった気がします。思うにケイゾウ松葉選手は元々、勘の良い方ではなかった思います。それが歳をとってますますヘンになってきました。しかもキックもパンチも精彩が無い。特にシャドウでパンチを出した時、手が全然伸びていない。あれでは試合のときに相手を捉える事が出来ないと思います。当然、動体視力も落ちているだろうから、打ち合いも苦しい。30歳過ぎると、嫌でも体の耐久力が落ちてくるから、あまり打たれるとアブナイ。続けて欲しいとは思いますが、事故の無いうちに引退した方が良いと思います。ジムの方からは何も言わないのかなぁ? 協会や会長、トレーナーから引退勧告とか出ないのかな? 
 そうは言っても、ケイゾウ松葉本人にしてみれば、今の自分には全然、納得していないと思います。どうすれば納得できるのか? といえば、チャンピオンになるしかない。大映のボクシング映画『勝利と敗北』 の川口浩の台詞で「ボクサーの夢はチャンピオンだ。」 というのがありました。46歳まで現役を続けて、今辞めても彼には何も残らない。自分が何者だったのかという証が欲しい。しかも今さら後戻りは出来ない。「転回禁止の青春さ」 ってやつでしょう。「このままでは辞められない。」 という気持ちを持っていても不思議ではない。しかしこのまま続けていても、とてもチャンピオンになれるとも思えない。若い選手の踏み台のような試合が続くのが現実。そのことを一番知っているのはケイゾウ松葉本人でしょう。もしこの先、現役を続けるのなら一度で良い、若い選手に勝利して欲しい。かませ犬が逆に相手を噛み殺す。それが出来れば、彼もグローブを壁に吊るす事が出来ると思います。もう無理かなぁ。

 しかし彼を見ていると思い出すのは、映画『真夜中のボクサー』 の川谷拓三です。空に向って「チャンピオンになりてぇ〜!!」 と叫んでいたシーンは心に残ります。高橋三千綱の原作本を読むと、川谷拓三が演じたのは通称・ダレさんという万年6回戦のジュニアウェルター級(現在の名称ではスーパーライト級) の選手。映画では田中健が演じた主人公の先輩ボクサーという設定。本名が何と言うのか分からない。とにかくあだ名がダレさんだったという記述があります。普段はアブラ虫が這っているラーメン屋で働いている。パンチ力はイマイチな上にアゴが弱く、打たれると倒れてしまう。アゴをグローブでガードして、とにかく前に出てラッシュ。手数で勝利するいうパターンで6回戦に昇格したものの、最後は若い選手のかませ犬に使われる。逆に喰ってやろうと試合するものの、相手は本当に強くてKO負け。引退します。この本を読んだのは20年以上前ですが、ジムを去るときの台詞は今でも憶えています。
「引退してもトレーニングだけは続けるよ。いつでもリングに上がれる体を作っておくんだ。自分にだけは負けたくないからな。」
何とも切ない。ケイゾウ松葉を見ていると、このダレさんを思い出します。本物のケイゾウ松葉はオイラのイメージとは違うのかもしれませんが、あの映画の川谷拓三とダブってしまいます。