映画『YOUR SONG』

 

ラブストーリー、好きですか? オイラは嫌いです。そんなものは王者のオイラには縁の無い話でしかないからだ。大体、男と女にそうそうドラマチックな話なんてあるわけがない。しかし無理にでもドラマを持たせなければラブストーリーは生まれない。

 その辺の難しさを、映画『YOUR SONG』 で考えさせられた。

この作品は『OPTLAND ENTERTAINMENT JAPAN』製作作品。


3月22日の夜。会場は原宿のシアターバー『PADDOCK』



 この日は店を貸し切り、少数の関係者のみで酒を飲みながらの鑑賞会だった。縁あって出席。OPTLAND社長や監督挨拶があり、映画が上映された。

例によって、忘れないうちに内容記入。


                              

 
ストーリーは大学生・海斗の日常からスタートする。頭の中身はナンパと合コンの事ばかり。将来の夢もなくフラフラと街を彷徨う。七海との出会いは最悪だった。携帯で喋りながら歩いていると、傍らに置かれていた七海のギターに蹴つまづいてしまう。海斗は今ふうのヤング(死語)なので当然謝りもしない。睨まれても「ハァ〜っ!」 ってなもんである。この時七海が落とした手帳を拾う。中には自分で書いたのだろう、歌詞が書かれている。妙に気になった海斗。ある日具合の悪くなった七海を介抱したことで仲良くなる。海斗は七海を海に誘う。IT企業を経営する先輩の高級車を無断借用。「2〜3発殴られれば済むんだ。」 と嘯く。

 七海はストリートミュージシャン(らしい)。ギターは交通事故で死んだ恋人・タクヤのもの。恋人の死を吹っ切る事が出来ず、歌う事を止めて路上でジベタリアンをしていた。七海のしていた腕時計は壊れている。タクヤのものらしい。海斗はスロットで腕時計をゲット。七海の腕にはめてやる。「(恋人の死は)吹っ切れよ!」 と絶叫。「放って置いて。」 と言う七海とは喧嘩別れのような形になってしまう。その後、七海の姿を求めて街を彷徨うが、二度と会うことは無かった。

 数年後、大学を卒業した海斗は営業の仕事に就く。学生時代の自堕落な姿は無い。アポを取り、精力的に得意先を回る。しかし決まりかけた大きな仕事が頓挫してしまう。ヤケになった海斗は街でチーマーのような一団と喧嘩。多勢に無勢でやられてしまう。顔に傷を作っては営業仕事に差し支える。上司から叱責を受ける。
 落ち込んで歩いていると、どこかから歌声が聞こえる。ストリートミュージシャンが歌を歌っている。人気があるらしく観客でいっぱいだ。歌っているのは七海だった。最後の歌を歌う前、「今はどこで何をしているかは知らないが、私に勇気をくれた人がいる。」 左腕には海斗があげた時計。七海は海斗のおかげで立ち直っていたのだ。仕事をこなす海斗の姿に七海の歌う『YOUR SONG』 が被る。ラストは二人が出会った路上。佇む海斗の前に明るく立ち直った七海が歩いてくるシーンにエンド。

                              



 
スタッフ&キャストはメモを取らなかったので不明だが、 七海役のコはブログがあった。こういう若いコには頑張って欲しい。オジサンは応援しているぞ!(笑)

 監督はフジテレビのドラマ制作に携わっていた人らしい。そのせいか深夜ドラマの雰囲気があった。上映時間75分。製作費は150万円。スタッフやキャストは手弁当で参加したのだろう。当然セットを組んでいる予算も無いが、キチンとした作りで好感が持てた。


 しかし突っ込みどころは多い。海斗と七海の出会いは唐突だし、どうして海斗が七海にこだわるのかも説明不足。

 恋人が死んで七海の時間が止まってしまっているのを、壊れた腕時計が象徴している。数年後に路上でライブ中に出会うのも偶然。海斗があげた時計をしているのも二人の生活が全くリンクしていないためあまり効果を上げていない。七海の歌も最後のライブシーンに登場するだけ。プロデューサーのF山氏の話では、七海を演じた女優さんは歌が得意でミュージカルの舞台経験もあるらしい。それならサワリだけでも構わないから音楽シーンを挿入して欲しかった。最後の最後で歌わせて盛り上げようと言う意図は分かるが、観客は七海の歌の実力が分からないのだから、伏線を張っておく必要があったのではないか。随所に歌が挿入されれば、七海の人物設定に厚みが出来るし、作品の雰囲気に一本芯のようなものが生まれる。使用された音楽もオリジナルのもの。歌は上手いし好演していただけにこの辺は勿体無く感じた。どうやって立ち直ったのかの描写も無い。せめて再びギターを手にして、歌う事を暗示するシーンを出すだけでも良かった。そうすればラストのライブシーンも効果が出たと思う。

 しかし目を惹くシーンもあった。序盤の海斗は、ペライ(薄っぺらい)野郎。カルシウムが足りないんじゃないの? 携帯で喋りながらすれ違う若い女にちょっかいを出す。勿論女とは初対面。いきなりそんな事をされて「何あの人?」 気味悪がられるがお構いなしだ。金はないが、若さと時間はある。目先の女にしか興味が無い姿はわざとらしいと言えなくもないが、この辺は工夫している感があった。実際に盛り場(死語!) に行けばいるよ、こういう奴。
 ペライ野郎のドラマだから、ペライ姿しか出てこない。若者は総じてペラい生き物。ペラくなかったら若者ではないのだ。恋人の死から立ち直れない七海を励ますのも、絶叫型の紋きり芝居。最初は、海斗役の役者に力量が無いからだと思った。まだ新人なのでそれもあるだろう。しかし実際に上手く励ましの言葉をかけられる男など少ない。女の周りをチョロチョロ動き回るしか出来ないのが現実だろう。自堕落な海斗の姿。不器用な励まし方しか出来ない姿には「あー分かるなぁ、これ。」


 運命の出会い。ドラマチックな展開を作るのは難しい。この作品では喧嘩別れしてから二人の行動は全くリンクしていないから、関係が進展する事などありえない。これではドラマは生まれようも無い。設定からラストで出会うところまで、無理にくっつけたような強引さを感じた。それでもこの二人がメジャーで名コンビならそれでも良かっただろう。例えば、吉永小百合&浜田光夫。山口百恵&三浦友和なら観客はこの二人が特別な関係になると最初から理解しているからだ。しかし新人の二人ではラストの再会まで持っていくまでのパワーが足りない。この辺はホント難しい。しかし深夜枠のドラマなら及第点か。

最後に忘れても大丈夫なように気になったシーンを書いておく。

 営業マンになった海斗は外回りが多いので当然外食中心。いつもファーストフード店でハンバーガー食べていたのは笑った。勤勉な感じを出すのなら、駅の立ち食いソバや牛丼屋のカウンターで汁だく啜っていた方が効果的だった気もする。