エロは儚い 1

 

14日からラピュタ阿佐ヶ谷で始まった『60年代まぼろしの官能女優たち』 。独立プロの製作したピンク映画特集。

 初日の『淫紋』、 21時からの上映に出撃。この日は上映終了後、主演の内田高子さんのトークショーが行われた。助演した久保新二さんも乱入(笑)。 48席しかない小さな劇場だが超満員。場内は盛り上がっていた。

 淫ディーズ・・・・ではないインディーズのピンク映画。土曜の夜にこういう無名の作品を観に来るお客さんは、皆それなりの使い手なのだろう。恥ずかしながらオイラはこの手のジャンルに関する知識は皆無に近い。内田高子さんも62年にネグリジェ・コンテストからデビュー。“ネグリジェ歌手” と言われたくらいしか知識が無かった。

 この手の古い作品は現在のAVに比べるとエロには全く期待は出来ない。どこがエロなの? ポルノなの? と言いたくなるおとなしめな描写。しかし映画としては意外なほど(失礼!) まともな作りになっている事が多い。この日観た『淫紋』も同様。ピンク映画ビギナーのオイラでは登場する俳優さんは知らない人ばかり。そこに何だか妙な妖しさを感じる。低予算のピンク映画なのでパートカラー。普段は白黒で濡れ場になるとカラーに変わるのはご愛嬌。

                     

 
この日上映された『淫紋』 忘れないうちに書いておこう。

 舞台は戦時中の金沢。花嫁衣裳を着た波子(内田高子) が人力車に乗せられてやって来る。地元の名家に嫁いだのだが、一緒に来た父親は家の中には入れてもらえず、門前で返されてしまう。高子さんも正門からは入れては貰えない。横の木戸から入るように言われる。相手は病弱で寝たきりの長男。おっかない姑からはとにかく跡継ぎを産むようにプレッシャーをかけられる。寝たきりの長男にセックスが出来るのか? とも思うが、この内田高子さんはスゲ〜美人。こんな美人が食事から排泄の世話までしてくれるのだから、たとえ病弱でもハッスル!! ハッスル!!

 真っ昼間から励んでしまって、姑から嫌味を言われてしまう。(「とにかく子供を産め!」 、とい言ったクセに何言ってんだ!、というツッコミは無し)

 この家には次男で大学生・久保新二がいるのだが、名家の格式に馴染めず放蕩三昧。姑との仲は悪いが、女中のヨネは何かと面倒を見てくれる。新二は女郎の一星ケミと出来ているが、召集令状が来て徴兵。

 この家の使用人? だった大林がやって来る。軍部の名前をチラつかせて所有する杉林を手放すよう迫るのだが、姑は一蹴する。大林は憲兵と結託して一儲けを企んでいた。一度は引き下がるが諦めない様子。何か企んでいるようだ。

 長男は高子さんとヤリ過ぎたのか死んでしまう。雨の夜、一時帰郷していた次男に知らせるため女郎屋に行く高子さん。二人で夜道を歩く。「子供が出来なかったから、お払い箱になるよ。」 と冷たく言う久保新二。いきなりのカラー画面。高子さんに襲い掛かる。雨傘ごしに強姦してしまうシーンは見事。葬式が終わり納骨。高子さんは妊娠していた。父親は次男の子だが、姑は長男の子だと信じている。

 ここで急展開! 特攻隊に行く事が決まった久保新二が脱走してくる。 高子さんに未練があったらしい。一星ケミが大林の女になっていると聞いて絶望している。大林と憲兵は杉林を差し出せば脱走は無かった事にすると持ちかける。勿論これは手に入れるための嘘。

 久保新二は実はヨネの子供。死んだ当主がヨネに手を出して孕ませた。 ヨネは新二を匿う。杉林の登記を済ませた大林。後は邪魔な新二を始末するだけだ。この企みを知った一星ケミは、情事の最中に大林の喉元を刃物でバッサリ。ヨネに新二の居所を聞いた高子さん。会いに行くが、憲兵に跡を付けられ新二は射殺されてしまう。

 ラストは新二の子供を産んだ高子さん。家の前で姑が子供を抱こうとするが拒否。正門から堂々と入って見せる。そうして初めて姑に抱かせる。皆の笑顔でエンド。

                     

 
トークショーで内田高子さんが語っていたが製作費300万円。チープな作りは否めない。戦争という描写も記録映画のシーンをくっ付けているだけ。新二が脱走して来る展開は性急だが、76分でケリを付けなければならないから仕方ない。上映されたフィルムは16ミリスタンダード。左右は切り落とされていた。タイトル&クレジットも欠落してあるという残念な状態。しかし埋もれた作品なので貴重な上映。観に行って良かった。

 現在の内田高子さんはお幾つなのだろう。品の良いお婆さんという感じだった。内田高子として人前に出るのは四十年ぶりらしい。画面の中の高子さんは美しかった。ピンク界のソフィア・ローレンと言われたのも納得。オイラ好みのチョッとキツイ顔立ちの美人。引き込まれるような魅力がある。仮にこんな人が目の前にいたら平常心ではいられないよ。 カラーになると一掃際立つ色香。『007は二度死ぬ』 のボンドガール候補にもなっていたらしい。納得の美貌。

 71年にこの映画の監督の向井寛氏と結婚&引退。主婦業しながら向井氏のプロダクションの手伝いをしていたらしい。向井氏が亡くなり子供も独立。また女優業を再開したいような事を喋っていたけど、どこかの監督さん、映画関係者の方。使ってくれたら嬉しいなぁ。

爆笑したのはトークショーの最後。久保新二氏が乱入。この映画のときは18歳。劇団ひまわりにいたらしい。

「(内田高子さんの)ポスター見て、こんなお姉さんとイッパツやりてぇ、なんて思ってたらまさか共演するとは思いませんでした。」

本人の前でそんな事を語るとは、この人も豪傑だ。そんなシモネタ話にも動じない高子さんも素晴らしかった! ちなみに久保氏はこの映画が縁で一星ケミと同棲していたそうです。

 5月まで続くこの企画。今後も通おうと思います。ピンク映画は零細の独立プロが製作するので、キチンと記録が残っていないモノが多い。研究している人も少ないから、これに関する書籍も少ない。実際に劇場へ足を運んで勉強するしかないのだろうが、今はこの手の作品をかけてくれる劇場も少ない。それだけに貴重な上映。しかしまぁ、ピンク映画ってのは儚いねぇ。エロ漫画誌と同じで、カストリ雑誌的存在とも言えるのかな。