波止場でオイラが笑うとき 2

 

 

別スレでも書いたが、10月17日、幻の大宝映画『波止場で悪魔が笑うとき』 鑑賞。JRガード下地下にある新橋TCC試写室に出撃! 昭和37年、大宝が潰れた後に公開されたらしいが、どういう状況で作られ公開されたのか不明な、謎の作品を観るにはピッタリの場所だ。発見された3本の上映会も今回が最終回。

 タイトルが良い。“波止場” “悪魔” “笑うとき” このセンスはサイコ〜だ。『憲兵とバラバラ死美人』 、『海女の化け物屋敷』 に匹敵するインパクト・・・だと思う(そうかぁ?) 。


<ストーリー>

深夜の街、逃げる男。壁に潜むサイレントのジミー(鮎川浩) に撃たれる。道路に転げ倒れたところを運転手・岡本(月田昌也) と助手・信吉(牧真史) のトラックが轢いてしまう。逃げようとする二人。そこへ鮎川たちが「ひき逃げ」 と難癖をつけて仲間に引き込んでタイトル(だったと思う)。 

 海から帰った速水健次(牧真史) を待っていたのは弟・信吉の死。ルガー08で撃たれた。中谷刑事(二本柳寛) の話では麻薬の密輸に関係していたらしい。牧は雑誌編集長?(筑紫あけみ) から話を聞く。編集部に出入りしているトップ屋宇佐美(奈良優一) が警察よりも先に現場に急行。RMのイニシャルの入ったライターを拾っていた。ライターを借りた牧は岡本に会う。一緒に行ったバー銀河の踊子が緑川ルミ(泉京子) 。ライターのイニシャルと同じ。
 

ルミに誘われ陳峯徳(深見泰三) の組織に加わった牧。最初は偽の麻薬(中身は玩具) を運んでテスト、合格する。チンピラの三郎(コロムビア・トップ) と留(コロムビア・ライト) から岡本と信吉が仲間に引き入れられた時の話を聞く。岡本は牧に組織から抜けるように勧めるが、陳に命令されたジミーに岡本は殺されてしまう。

 牧は陳からルミを殺すように命令される。二人で車で海に行く。ルミは牧に殺される覚悟で来たのだが、牧に殺す事は出来ない。そこへ組織の用心棒が現れる。牧の銃には弾が入っていなかった。用心棒はルミに撃たれるがルミも傷を負う。そこへジミーがやって来るが、牧はジミーを殴り倒しルミを車に乗せ逃げる。牧が公衆電話から筑紫のところへ連絡している間に、ルミは単身車でボスの所に行く。ボスは香港に逃げる準備中。ルミはポスに撃たれる。そこへジミーがやって来る。ジミーはルミに惚れていたのでボスを撃ち殺す。ボスの金を持ち逃げしようとしたところに牧が駆けつける。牧の腕の中で息絶えるルミ。倉庫の階段(ロケ地は石川島) を登って逃げるジミー。追う牧。警官隊もやってくる。追い詰められたジミーは「一億円の葬式だ!」 自らの拳銃でこめかみを撃ち自殺。宙に舞う札束にジミーの笑い声。タイトルとエンドマークが被ってオシマイ。

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フィルムの状態が良くないらしく、途中2度ほど中断があった。主催者の方から上映前に「開始30分で一度切れます。」 と説明があった。客は全員この世界の“使い手” なので、誰も驚く者はいなかった。中断はあったが、上映時間は75分くらいかな。

 岡本の妹で信吉の恋人の由紀を演じたのが丘野美子。普段はガソリンスタンドで働いている。ヒロインというよりも顔見世程度の出演だった。顔見世といえば、刑事役の二本柳寛も同様。主演の牧真史(真介)はじめ、丘野、二本柳、組織のボスの深見泰三と日活映画で見る顔が出ているのでどこか日活SP作品っぽい感じもなくはない。しかし映画の出来としては“やっぱり” イマイチ(笑) 。

 最初は弟殺しの真相を追っていたと思うのだが、途中で有耶無耶になってしまった。信吉を殺したのは誰だったっけ? 08の拳銃だからジミー? ポスターではルガー08と書かれているが、これってルガーP08なの? それなら弾は9ミリパラペラム弾か。でもジミーの銃はP08ではなかったような。

 ジミーは障害があって、喋る事と耳が不自由という設定。古い映画なので平気で差別用語が使われていた。しかし映画の終盤、実はこれは嘘だという事が分かる。ずっと台詞がなかったが、ラストでは笑い声が響いていた。ということはタイトルの「悪魔が笑う」 ってのはジミーのことなの? それにしては出番が少ないし、特にライバル役という感じでもない。

 おまけに主人公が何をしたいのか、戦う敵は誰なのかが、はっきり描かれていない。弟の死の真相を究明するのが目的なのか? それとも麻薬組織を暴くのか? それなら陳を倒すべきところなのに出番は少ないし、牧が陳を追い詰めていく描写もない。ジミーも実はつ×ぼではなく、普通に聞こえているのではないか、と思わせる描写はあったが、どこかチャチな感じ。表情一つ変えずにサイレンサーの付いた拳銃をパンパン撃つところなどは良かったが、あまり貫禄がないので強そうには見えなかった。
 一応はヒロインの泉京子も信吉殺しに関わっているようだが、この辺の描写もないし牧との関係も濃密な感じがしない。 映画というよりも創世記のTVドラマのような印象の作品だった。

 既に各映画サイトやブログでも書かれているが、この作品は中川順夫監督作品。長らく中川信夫監督作品と思われていた。公開当時のキネマ旬報に誤って記述されていたためだが、公開されたかも怪しいこの作品は検証される機会もなかったためずっと中川信夫作品と思われていた。

 順夫監督をネットで調べると、戦前から活躍した人らしい。オイラにとってはTV『海底人8823』 の監督。日活では『港の乾杯 勝利を我が手に』 の脚本家。『やくざ非情史 血の盃』 の監督である。

 序盤で弟の死について、取調室で二本柳から牧が説明を受けるシーンがある。二本柳と牧を正面から撮ったり、壁に貼り付けてある鏡? 窓? のアップがある。凝った作りを強調したかったのかもしれないが、妙なぎこちなさを感じた。テンポもどこか間延びしている。『海底人8823』 っぽかった。こういう妙なトコが、この頃の順夫監督の持ち味なのだろうか。

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前回の日記でも書いたが、この上映会は好きだったな。オイラは独りで観て、終わるとサッサと引き揚げていたのだが、週末の昼下がりの新橋は平日と違って、どこかノンビリとした感じがしていた。有楽町まで歩く。 ガード下の居酒屋は開店時間だ。そろそろアベックや友人同士など、多くの客がひと時を楽しみにやって来るのだろう。駅近くに来ると家族連れも多い。マニアックな映画を観た後だけに、孤独感が増幅されたのは言うまでもない(涙) 。

 そんな気持ちを吹き払うように無理に笑うオイラ。有楽町・・・銀座。アキラの歌で『銀座の波止場』 なんてのがあったな。そう・・・ここは波止場。『波止場でオイラが笑うとき』 ってなもんだ(強引だな) 。