帰らざる日々 2

 

昼間、街を歩いていたら、後方から声をかけられた。「JOA王者の賀津さんですね、サインしてください!」 な〜んて事があるわけではない(当然!) 。声をかけて来たのは20数年前、当時在籍していた修行の場で、共に汗を流したSさんという先輩だった。多少老けていたが、当時とほとんど変わっていないのには驚いた。たしかもう50代半ばのはず。聞くと、海外放浪をしていたらしい。放浪癖があるというのは、当時から聞いていた。旅先で流しの経験もあるらしく、忘年会でギター片手に歌を披露していた事もあった。Sさんが姿を消したのはいつの事だったろう。もう良く憶えていない。フェードアウトしていなくなるのは、この世界では珍しい事ではないからだ。当時の知り合いと会っても、Sさんの噂も出る事は無かった。それでも今日、Sさんに呼び止められた時、すぐに分かったよ。この人はオイラの青春時代の1シーンに登場する、重要な出演者の一人だからだ。オイラが20歳の夏、共に苦しい思いをした戦友みたいなものだったからだ。

 Sさんは現在は無職。知り合いの家に居候中。しかし貯金があるので、今度はタイに行くつもりらしい。タイで何をするつもりなのかは訊ねなかったが、帰って来たらアパート借りて堅気の暮しをするそうだ。変な老け方をしていなかったのは、自由人として生きてきたからなのかもしれない。15分ほど立ち話をした。お互いに思ったのは「あの頃が一番楽しかった。」 、そうなのだ。80年代前半、あの頃は先の事などな〜んにも考えていなかった。毎日、苦しくて飢えた生活をしていた。オイラは学生だったが、楽しい事など一つもなく、金も女も無かった。世は女子大生ブームで毎週『オールナイトフジ』 観ながらレポート書いていたなぁ。過去、ここで何度も書いてきたが、学生時代オイラは女子大生と喋ったこともなければ、飲み会したことも出たこともない。本当に惨めな生活をしていた。これは今も同じか。でもあの頃はまだ夢があった気がする。自分はこれからどうなって行くのか。何の根拠も無い癖に、可能性みたいなものを勝手に感じでいた。Sさんと話をして当時の“思い” がこみ上げてきた。

 この後、用事を済ませたオイラは牛丼の松屋へ行く。いつもは290円のカレーなのだが、今日は奮発して350円で牛丼だ。帰宅してホーク1号でアキバに出撃するつもりが、これ書いてたらもう18時。面倒になって挫折してしまった。ダメ人間炸裂です。