真紅な海が呼んでるぜ(65年83分 脚本・雨宮隆、芹沢俊郎、松尾昭典 監督・松尾昭典)
 津川了次(渡哲也@新人!)は商船大学生。兄の雄作(二谷英明)は小松(菅井一郎)が社長を務める小さな海運会社のオンボロ貨物船の船長。二谷が菅井に隠れて密輸に手を染めていると知った渡は貨物船に乗り込む。香港から神戸へ向かう途中、渡は船倉で密航者・相原真弓(中原早苗)を見つける。中原は二谷の死んだ妻(中原・二役)に瓜二つであった。中原は元々は神戸のダンシングチームのダンサーだったのだが騙されて香港に売り飛ばされ売春婦をさせられていた。偶然、夜の町で会った二谷が船に密航させたのだった。船中で中原の面倒を見ていたのは二谷の腹心で渡とも仲の良い黒人船員・ルイ(チコ・ローランド@お馴染み)。船は神戸港に到着、港はナイトクラブや海運会社等を手広く経営する暗黒街のボス・本郷(金子信雄)が牛耳っていた。菅井の会社にも圧力をかけてくる。二谷の船の荷卸しために雇った日雇い人夫を金で釣ったり脅迫したりして仕事を妨害してきたりする。渡は亡くなった商船大学の友人・荻村の妹・葉子(松原智恵子)を尋ねる。松原は港で小さな食堂をやっていた。数年前、渡は夏休みに松原の兄と海に潜った時、水中銃を誤射、荻村を殺してしまった過去がった。この時の心労で松原の父親が亡くなり食堂は松原が切り盛りしていた。しかし食堂は金子の会社から借金があった。松原の美貌に目を付けた金子は借金をカタに自分の愛人になるように迫っていた。中原は金子の経営するクラブにダンサーとして働き出す。しかしそこはダンスをしながらカギを投げ、拾った相手と一夜を共にする売春もするクラブであった。初仕事の夜、中原のカギを拾ったのはチコだった。覚悟して部屋に行くとそこにいたのは渡。その夜、渡は中原を抱かずに船に帰る。中原が密航してまで帰国したのは自分を香港に売り飛ばした奴らに復讐するためだった。売り飛ばした一人・原島(下條正巳)の家に乗り込む中原。下條は過ちを詫び、当時は病気の妻と幼い娘を抱えて貧窮していたという事情を吐露するが気持ちは収まらない。渡が止めに入る。その時、下條の娘の桂子(伊藤るり子@新人)が帰宅してくる。るり子がダンサーを目指していてかつて自分が所属していたダンシングチームに入った事を知った中原は下條を許し渡と出て行く。もう一人、中原を売り飛ばした張本人は交通事故死していた。二谷が中原を密航させたのは死んだ奥さんに未練がある、と考えた渡は二谷との仲を取り持とうとするが中原は渡に惹かれていた。渡も同じなのだが二谷に気兼ねしていた。二谷は自分の事は気にしないで中原と一緒になるように渡に勧める。金子の松原への圧迫はヒドクなり拉致されてしまう。渡は借金を二谷に出させその金を持ってチコと金子の家に乗り込む。金を叩き付け、金子とその子分たちを叩きのめし松原を救う。中原は部屋を借り堅気の暮らしをしようとする。渡も中原を受け入れ一緒に暮らそうとする。二谷は渡とチコを使いに出す。行き先は亡くなったと聞かされていた二谷の妻の所。二谷の妻(中原)は二谷が航海にばかり出て留守がちの生活に耐え切れずに不倫して出ていったのだった。現在の中原の夫は病気がちだったために二谷が生活費を仕送りしていたのだった。密輸で儲けた金は中原の生活費だったのだ。いつもは送金していたのに今回に限り渡を使いに出した事を疑問に思った渡はチコに詰め寄る。渡が使いに出ている間に船は出航。渡を中原と一緒に暮らさせる二谷の思いやりだった。渡はチコと港に戻り船に乗り込む。中原は渡との生活に備えて街に買い物に出る。部屋に戻ると鏡台の鏡に口紅で書かれた渡の書き置きを見る。あわてて港に走っていくと船は出航したばかり。船上で中原の姿を二谷と並んで見守る渡。別れた二谷の妻のために渡も協力を誓うところでエンド。渡は船上で二谷に「あいつ(中原)は俺が帰るまで待ってるよ。」と言うと見送る中原が泣きながら「待っててなんかやるもんか・・・待ってるわよ、いつまでも待ってるわよぉ。」と返すのは印象に残る。しかしこういう現実感のない男女関係に騙されたオタクは当時絶対にいたはず!(笑)。
 この作品は『あばれ騎士道』に続いての渡哲也デビュー2作目。後にコンビを組む松原智恵子との初共演作でもある。そんな記念碑的な作品だがストーリーは平板。最初、渡は密輸を辞めさせるために船に乗り込むのだがその辺は大して重要ではないようだ。大体、二谷も密輸をしているのに後ろ暗い所がないし、渡に諭され簡単に辞める決意をするのに松原の借金、中原@妻の生活費などで金がいるとなるとまた密輸を続けるし最後は渡も協力するみたい。おまけに中原の復讐劇も松原の借金、松原の兄を誤殺してしまった渡の葛藤、二谷と妻との関係も全てが中途半端で未消化。何がやりたかった作品なのか良くわからない。しかし渡の相手が松原智恵子ではなく中原早苗というのは珍しい。ダンサー役ということでビキニ姿になって唄って踊るシーンもあるのは貴重なもの。映画は平板だがここだけは見もの。
(2002年12月6日記)

          麻薬3号(58年92分白黒 原作・五味康祐 脚本・松浦健郎 監督・古川卓巳)
 舞台は神戸。元町の裏社会に巣くうチンピラの倉田慎二(長門裕之)。根城にしているビルで麻雀クラブ・ロンを営んでいたが警察の手入れを受け閉店。赤新聞社・文化レポート社にくら替えする。長門のボスはビルのオーナー・おやじさん(松下達夫)。タブロイロド誌を作る事になったのも松下の指示。ある日東京から安部啓子(南田洋子)がやって来る。恋人・小田(植村謙二郎)を尋ねてきたのだったが長門は小田を知らない。以前、小田から来た手紙には長門の事が書かれていたらしい。文化レポート社は表向きは新聞社だったが実態は他社の新聞を切り抜いて貼り付けて発行するというインチキ新聞。インチキとはいえ新聞つくりは一人では無理なので長門は元女学校教師の通称・主任(大坂志郎)を2万円の高給で雇う。南田の美しさに惹かれた長門は植村探しを手伝う。麻薬の巣窟に南田を案内、聞き込みをするが収穫はない。客の中に医者くずれの作家・五味=原作者?(河野秋武)がいた。常連で麻薬中毒者でもある長門は番頭?の蔡(高品格)に打ってもらう。その光景をみた南田は怒って飛び出してしまう。植村はこの巣窟にいた。武庫川で殺しをやっていたのだが自首するつもりであった。長門は自首する前に南田に会うように言うが植村は会わずに警察に行くのであった。翌日の新聞に植村のことが載る。驚いて長門のところに来る南田。長門は南田を慰めるつもりで神戸の街&六甲山でデート、その夜二人は結ばれる。長門は世話になっている暴力団・浜川組の勢力下にある旅館・神戸ホテル(3食付600円!)に部屋をとり南田を住まわせる。南田は長門に堅気になるよう勧めるが長門は南田と一緒になるために金を作ろうと麻薬の仲間の取り引きの立会いに行く。相手はコレラで港に付けられなくなった船上で行われるらしい。コレラに感染したら危ないという長門に対し「俺たちはいつも麻薬を打っているから大丈夫」という乱暴な答えが返って来る(笑)。ビビる長門だが警察の船がいたため断念。ホッとする長門。翌日、文化レポート社に顔を出すと大坂が真面目に?仕事をしている。ビルの入り口には“小山忠夫”という見慣れない表札がかかっている。顔見知りの刑事(南博之)に尋ねられても記憶が無い。長門は地元で映画館等のレジャー施設を手広く経営している社長・鈴村(柳谷寛)から麻薬の取り引きの手伝いを頼まれる。その麻薬3号は貨物車の中に隠してあるのだが柳谷の麻薬は1部分メリケン粉のニセモノだった。柳谷はこれを組織に売りつけようとする。神戸港の倉庫街(『赤い波止場』、『紅の流れ星』で登場?渡哲也が撃たれる場所?)で取り引き。やって来たのは幹部の辰(近藤宏)、紫都(白木マリ)、他。柳谷は近藤と取り引きしている間、長門は人質?として白木に組織のアジトでもある料亭・ささめに案内される。この組織は二本柳寛がボス。二本柳は表向きはこの料亭の主人。普段は厨房に立ち料理の腕を振るっている。柳谷の持ち込んだ麻薬3号はニセモノということがバレ、長門は監禁される(柳谷は消されたのか?この後出番がない)。右手を包丁で刺されリンチにあうが長門の度胸を買った二本柳は長門に殺しを依頼する。長門は足を洗う事を条件に承諾したふりをして二本柳から拳銃を受け取る。銃を手にした長門は二本柳に突きつけるが、二本柳は「弾は入っていないぜ。」長門は白木を撃つ。入っていないというのはハッタリ、弾は入っていた。足を撃たれ重症の白木。医者を呼ぶわけにはいかない二本柳は長門にモグリの医者を連れて来い、と命令。医者の知り合いの無い長門は迷うが以前、麻薬の巣窟にいた河野を思い出す。近藤を伴い河野を捕まえた長門は白木の治療を頼む。河野の治療で白木は2週間程で全快するが治るまで長門と河野は地下室に監禁されてしまう。その間に南田は神戸ホテルを出て仕事(タイピスト?)を探しアパートを借りていた。長門に会いに文化レポート社に行くが大坂が仕事をしているだけ。南田は自分の住所を書いた紙を大坂に託す。二本柳は改めて長門に殺しを支持。近藤の運転する車に長門、白木、河野。近藤は長門が殺しの仕事を拒否したら長門を始末しろと命令されていた。長門は殺しを拒否。銃を近藤に突きつけ河野を逃がす。近藤は「こんな所で銃を撃つのはマズイ。」と言って砂浜で長門と壮絶?な殴り合い。決着はつかず引き分け。近藤は「極道はみんな足を洗いたいんだ。でもその度胸がないから足を洗おうとする奴の邪魔をするんだ。」と心情を吐露、銃をとる。撃たれると思い身を硬くする長門。近藤は「お前はここで死んだ。」と言い銃を海の方に撃ち長門を逃がす。銃声を車で聞いた白木。近藤が長門を始末したと思った白木は「私は(長門に)撃たれても憎いと思わなかった。」とこれまた吐露。長門は2週間ぶりに文化レポート社に戻る。ビルは警察の手入れを受けた後だった。おやじさん(松下)は麻薬の情報を文化レポート社の発行するタブロイド誌を使って流していた。表札の“小山忠夫”というのも組織の情報に関わるものだった。レポート社は解散、長門は持っていた金の一部を大坂にやる。大坂は南田から預かっていた住所を書いた紙を渡す。長門は南田に会いにいく。やっと会えた二人だが南田の様子が変。南田はいつかデートしたときに見た教会に行きたいと言う。教会に行く二人だがミサの最中、南田は意識を失ってしまう。長門が行方不明になり将来に不安を感じた南田は大量の睡眠薬を飲んでいたのだ。教会に何故か居合わせた河野が呼んだ救急車に南田を乗せ病院に向う長門。ラストシーンは神戸の街を走る救急車を俯瞰ショットで撮る絵にエンドマーク。
 裏社会に巣くうチンピラ・長門裕之の日常がダラダラと続く展開はストーリーは二の次という感じだが語り口は良いので面白く観られる。しかし南田がどうして植村を探しにやって来たのか明確に描かれていないし、一回デートしただけで親密になってしまうのは唐突な感じもする(後にホントに夫婦になるのだから構わないのか)。医者くずれの作家・五味は原作者本人の役回りなのか?逃げたはずなのに教会に居合わせるのも変。そんな事する必要は無いと思うけど。登場する麻薬の巣窟もあまり殺伐としていないのも変。善良な元教員役の大坂は良い味をだしている。最初は腰が低い大坂だがヤクザの長門に説教をするシーンは少し可笑しい。58年当時の神戸の街並みが映るのは今から観ると貴重な資料映像。しかし近藤が実は良い奴で長門を逃がしてくれたり白木は撃たれても怨んでいなかったりと設定が未消化で唐突な展開が目立つ。出演は他に柳谷の経営する映画館のモギリ嬢・君子(丘野美子@新人の表記あり)、ワンシーンだけだが麻雀屋からレポート社に看板を塗り替えるペンキ屋(西村晃)、売春婦?・ルミ(小園容子)の顔が見えた。
(2003年7月20日記)