第8話
男おいどん1997
毎回、トホホな青春を書いているオイラだが、1度だけ大晦日に女のコと過ごした事がある。1997年12月・・・・・・相手は時々飲みに行っていたカフェバーにバイトで来ていたヒカルちゃん。このカフェバーは最初、子持ちの同僚・ソリマチ君に誘われて行ったお店である。目がパッチリして、カワイイ娘だった。帰国子女の女子大生で、週に3日ほどバイトに来ていた。明るくて、物怖じせず、ハキハキと喋る娘だった。バイトとはいえ、オイラのような男にも笑顔を見せてくれた。正直、オイラは惚れていた。ここだけの話だが、彼女を何度も夜のオカズにした。惚れていたのはオイラだけではなかったと思う。店の常連の男達はヒカルちゃんが目当てで通って来ていたはずだ。
ある晩、オイラは独りでヒカルちゃんの店に行った。たしか12月中旬の月曜日だったと思う。時間は7時をまわっていた。珍しく店は空いていた。ヒカルちゃんとツーショットで話が出来た。滅多にないゾ。こんな事は!!とりとめのない話をして映画の話になった。ヒカルちゃんが「私、観たい映画があるの。」と言った。来週から公開が始まる、豪華客船が沈没する映画だった。後に世界的な大ヒットを飛ばした、あの映画である。オイラは半分冗談、半分本気で「観に行こうか?」と言ったら、何と!「いいわよ。大晦日に行きましょう。」と言ってきたのだ。ビックリした。ダメモトでも言ってみるもんだ、と思った。
オイラはさっそく段取りを組んだ。観に行く映画館は有楽町マリオンの『日本劇場』。映画の後は銀座で食事、ネットで大晦日でも営業しているフランス料理屋やイタ飯屋をリストアップ。指定席を買いに行った。買いに行ったのは、イブの晩である。イブの晩だからか銀座の街はアベックだらけ・・・その人ごみをかきわけるようにマリオンの1F窓口で指定席チケットを2枚ゲットした。いつもならアベックだらけのところなどに行くとミジメな気持ちになるだけなのだが、今夜だけはちょっと違うゾ。大晦日にはオイラだって、そこいらの女よりも数段以上にメンコイ娘と来るんだ!!買いに行ったついでにリストアップしたお店の場所を確認。食事の後、うまく行けばどこかでカウントダウンしたいな。お台場は混むな。車じゃないから、遠くはNG。都内を何ヶ所かリストアップした。準備は万端である。
そして迎えた大晦日。マリオンの入り口で待ち合わせをした。イヤ〜・・・メンコイ!!いつもは薄暗い店の中。明るい所で見るヒカルちゃんは20歳の頃の浅丘ルリ子や吉永小百合もかくや!!っていうくらいメンコかった。どう見ても素人には見えんゾ!!上映時間までまだ40〜50分ある。指定席を買ってあるので行列に並ぶ必要もない。時間まで2人で銀座を歩いた。こんなカワイイ娘と銀座を歩けるなんて・・・あ〜生きててヨカッタ!!報われない青春を過ごしてきたオイラはマジでそう思った。「コワイ・・・。」「気持ち悪い・・・」そんな陰口を叩かれたこともあった。オイラを馬鹿にした連中に見せてやりたいよ。上映時間が近づいてきたので劇場へ戻った。入り口は大行列だった。オイラたちはそんな行列を尻目に中に入る事ができた。ちょっとしたVIP気分だぜ、ムヒヒ・・・。
しかし映画はオイラにとって、あんまり面白いものではなかった。後にアカデミー賞を総ナメにした大作だが、ただただ長いだけのつまらない物だった。(この手の映画はあまり好きではない。)こんな作品よりもゴジラやガメラの方が3億6千万倍面白いぜ!と思う。しかしヒカルちゃんは感動していたようだった。
「GUTSさん、ありがとう。良い映画を良い席で見せてくれて・・・」
ヨッシャ!ポイント上げたぜぇ!!
アナ「浜田さん、GUTS選手、ここまでの調子は如何でしょう?」
浜田「そうですねぇ。映画が良かった分、ポイント取りましたね。やはり周到に段取りを組んだ
成果が現れてますね。大事なのはここからです。あわてずにジックリ行きましょう。」
しかし至福の時もここまでだった。オイラが「じゃあ、食事でも。」と言うと、何と!何とヒカルちゃんはこう言ったのだ。「ゴメン、これからちょっと約束があるの・・・」ガ〜ン!!
「何だとぉ!!このアマ!!このまま帰れると思っているのかぁ!!」
オイラは怒鳴った(もちろん、心の中で・・・)。しつこくするとマズイし、こういう時はどうすれば良いのか分からないオイラは努めて平静に「そうなんだ。じゃあ仕方が無いね。」と言った(・・・オイオイ)。
ここでお別れかな、と思ったらヒカルちゃん、「GUTSさん、タクシー?。途中まで乗せて行って・・・」だって。独りならオイラはJRで帰ろうかと思ったけど、仕方が無い。タクシーを拾って、ヒカルちゃんを送る事にした。「六本木に行って・・・」ヒカルちゃんは言った。六本木の交差点でヒカルちゃんを降ろした。降りるとき、「ゴメンねGUTSさん、今度ゆっくりネ!。」オイラは心の中とは裏腹に、努めて笑顔で「良いお年を・・・」と言った。ヒカルちゃんは人ごみの中に消えて行った。タクシーが走り出そうとした時、オイラは運ちゃんに言った。「停めて、オイラも降りるよ。」金を払って、オイラはタクシーを降りた。そしてヒカルちゃんの後を追った。大晦日の六本木は人で一杯だった。アーツやホーストみたいなデカイ外人が日本人の女をぶら下げて歩いていやがる。ヤンキー・ゴー・ホーム!!(アーツやホーストはアメリカ人ではないよ!)ヒカルちゃん、雑踏の中で、見つけた!
オイラは・・・・オイラは・・・そのままヒカルちゃんを尾行した。ヒカルちゃんは裏通りにある雰囲気の良さそうな感じのバーに入っていった。いかにも愛を語らう二人向けといった感じの店構えである。オイラはバーの前で立ち尽くした。中に入ろうか?いや、入ったら見つかってしまう。ヒカルちゃんの後を付けた事がバレてしまう。中でヒカルちゃんは誰と会っているのだろう。男かな?、ヒカルちゃん可愛いから、やっぱり本命の彼氏かな?正直、いるかいないか分からぬ彼氏に嫉妬した。こんな時、抜き射ちの竜やコルトの譲ならどうするかな?ジョーさん、アンタだったらこう言うときどうする??いやジョーさんはモテモテだから、こんな事にはならない。野呂圭介や近藤宏だったらどうするんだろ?いやいや、こんな事を言っている場合ではないな。急に恥かしくなってきたよ。ヒカルちゃんの尾行をして嫉妬している自分が恥かしく、情けない気持ちになってきたのだ。男として・・・いやオタクとして情けなかった。
オイラは回れ右をした。地下鉄に乗って、まっすぐ部屋に帰った。その夜は、缶ビールでカップラーメンをすすって寝た。銀座でフランス料理のつもりがカップラーメンとは・・・・トホホ。しかし中で会っていたのが彼氏だとしたら、ヒカルちゃんはどうしてオイラなんかと映画を観にいったのだろう?結局、オイラと行くのが目的ではなく、映画を(タダで)観るのが目的だったのだろうか。観に行く相手は誰でも良かったのだ。
オイラはヒカルちゃんの店から足が遠のいた。なんとなく行く気がしなかった。いや、ヒカルちゃんを尾行した自分が恥かしくて、顔を合わせられなかったのだ。ひと月ほどして、「飲みに行こうよ。」とソリマチくんに誘われた。オイラは久しぶりにヒカルちゃんの店に行った。店に行くと、ヒカルちゃんの姿が見えなかった。ホッとしたと同時に、寂しかった。店はそれほど混んでいなった。フロア席にサラリーマン風の連中が5〜6人だけ。カウンターにいたマスターに尋ねた。「ヒカルちゃんは今日は休み?」マスターはヒカルちゃんは正月明けに辞めたと教えてくれた。ショックだった。タクシーで別れた、あれが最後になるとは!あの店にいたであろう、彼氏とはどうなったんだろう?
ヒカルちゃん、今はどうしているんだろうか。もう大学も卒業したはずだ。疑って尾行した事をあやまりたいよ。いや、そんな事言える訳ないな。オイラに出来る事は、ヒカルちゃんの上に星が降って彼女が幸せになることを祈るだけである。
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