第13話
第二の性をぶっ飛ばせ
皆さんは初対面の女と会った時、まずどこを見ますか? オイラはまず喉を見る事にしている。喉仏があるかどうか確認するのだ。つまりコイツ本当に女かどうか、ジェンダーチェックってのをします。
あれは10年くらい前、会社の同僚ソリマチ君に誘われた合コンでの事。今でこそ2児の父となったソリマチ君だが、当時は合コン王であった。どこでマッチメイクしてくるのか、やたら合コンしまくっていた。ちなみに奥さんとは合コンで知り合ったらしい。あの頃、オイラも誘われて何度か参戦していた。そうはいっても容姿が不気味なオイラでは出ても全く良い事がなかった。数合わせの意味合いで参戦していたようなものだ。
その日は某企業OL4人組との対戦であった。トークに自信も無いし、数合わせという自分の役割を自覚しているオイラは周囲の雰囲気を壊さない程度に正面に座った女と当たり障りの無い会話をしていた。その女はマリ25歳(自己申告)と名乗っていた。小野みゆき似の男顔の美人であった。オイラは容姿が不気味だから女の子が怖がってしまう事が多い、時には露骨に不快な顔をされたりするのだが、このマリさんはそんな素振りも見せずに気さくに会話してくれた。この日は結構盛り上がって3次会まで行った。解散する時、オイラはソリマチくん達に気づかれない様に自分の電話番号を書いた紙切れをマリさんに渡して、彼女の電話番号を尋ねた。奥手なオイラとしては随分と思い切った事をしたと思う。しかし何か運命的なモノを感じたのだ。彼女は「電話するわ。」と言って自分の番号は教えてくれなかった。「こりゃダメかぁ。」と思った。
数日後、マリさんから電話がかかってきた。留守電に彼女のメッセージが入っていたのだ。内容は彼女の携帯番号と食事のお誘いだった。オイラは早速、マリさんの携帯に電話した。週末の夜に新宿で食事の約束を取りつけた。デートなんてした事がなかったから嬉しいと同時に不安な気持ちになった。上手くデートできるだろうか?思えば18歳の時、初めて行ったソープで本物の女体を前に緊張して股間のコルトが全く役に立たなかったことがあった。泡姫が奮闘してくれて何とか時間内に発射出来たものの、どうもオイラは初モノに弱い体質らしい。
初デートは新宿歌舞伎町、彼女の知っているタイ料理の店で食事した。この日は和やかな雰囲気で楽しく時間を過ごす事が出来た。不安だったが何とか上手くデビュー戦をクリア出来たと思う。これがきっかけで定期的に会う事になった。彼女はなかなかの美人なのでオイラは有頂天であった。頻繁に会いたかったが、彼女は「仕事が忙しい。」と言う事で月に一度ペースでしか会えなかった。しかし彼女はバブリーで付き合うのは金がかかった。一回のデートで2〜3万円かかるのは当たり前。デートして彼女が行きたがる所はイタ飯やフランス料理の店ばかり、一度『料理の鉄人』に出たという原宿のイタ飯屋に行って、その後にセンチュリーハイアットのラウンジで飲んだら総額5万5千円かかった事がある。誕生日とクリスマスでの付け届けも欠かさなかった。
今から考えるとどうしてそこまで貢いだのだろう。他にオイラのような男を相手にしてくれる女もいなかったから、少しでも一緒にいて女の匂いを嗅ぎたかった。貧乏なオイラとしては苦しかったが、当時は彼女の魅力にメロメロだったから、気に入られようと必死だった。これだけ金がかかるのだから月に一度が限界、頻繁には会えないよ。しかしこれだけ尽くしたのに彼女は何もさせてくれなかった。思い切って「キスして良いか?」と尋ねたら「舌は入れないでね。」と言われた事がある。そう言うことは問答無用でやれば良いのだろうが、オイラは風俗以外でしたことがない、免疫がなかった。しかし今時、風俗だってディープキスくらいオプションで付いてるゾ。何もさせてくれない女に大金使ってバカみたいだ。
こんな事が一年くらい続いた。ある日、ソリマチ君に「飲みに行こう。」と誘われた。いつもマリさんと行くような高級店ではなく、安い居酒屋で飲んだ。やっぱりオイラにはこういう庶民的な店の方が性に合ってる。しかしそんな落ち着く店でソリマチ君は衝撃的な事実を話してくれた。「君にそういう趣味があるのなら構わないけど・・・」と前置きをして彼は真実を語ってくれた。
彼の話によると、何と!マリさんは戸籍上、男なのだそうだ。合コンに来ていたOLたちが時々行くクラブで知り合った女装者だったのだ。「そんなバカな!」と思った。
彼女は胸だって出ていたし、ボディラインが女性的だった。ソリマチ君の話ではホルモン投与みたいな事をしているらしい。「マリには喉仏があったじゃないか。気が付かなかったのか?」オイラは女に免疫がないからネ、気が付かなかったよ。合コンに来ていたOL達は女だと思って貢いでくるオイラを笑い者にしていたらしい。マリも自分の女装が完璧なのが快感だったようだ。それを知ったソリマチ君が心配して教えてくれたのだ。
いくらモテナイからって、オイラは男と女の区別も付かないのか。自分が情けなかった。そして腹が立ってきた。マリを・・・いや本名は何と言うのか知らないが呼び出してブン殴ってやろうと思った。腕力には全く自信のないオイラだが、あそこまで女性化した野郎に不覚をとることはないだろう。オイラは電話の受話器を握った。しかし電話しようとした時、学生時代の友人で某ケンカ空手黒帯のアキラ君の言葉を思い出した。それは「オカマとは喧嘩をするな!」であった。オカマはキレルと何をするか分からないそうだ。喧嘩も死ぬまでやるらしい。だから中途半端な覚悟でやると大変な目に合うのだそうだ。
以来、オイラはマリとは連絡を取っていない。元々こちらから連絡しない限り、向こうから電話が掛かって来る事は無かったから丁度良かった。しかし使った金と時間もオイラにとっては膨大だよ。初対面の女に対して喉仏の有無を確認するようになったのはこの一件からである。
それにしても悔しい、そして情けない。オイラはどこまで最低なんだヨ。小さくなって生きているのに。
あぁ・・・こんなオイラの上にもいつかは星が降るのだろうか?
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