オタク道・・・ではない『侠客道』

２００８年１月に東映チャンネルで放送した『侠客道』 を観た。モノホンの元ヤクザ・安藤昇主演作。主題歌も歌っている。この作品もググると様々な映画サイト＆ブログで扱われている。

　舞台は昭和三十四年。西日本の地方都市。牛耳るのは石山健二郎率いる石田組。暴力団と言っても石田組は昔かたぎの組。「堅気の皆さんには迷惑をかけるな。」　 石山組長は強面だが筋は通す人らしい。現実にそんなヤクザがいるのかは疑問だが、フィクションだから野暮は言うまい。

　安藤昇はこの石田組の若頭。戦災孤児だったところを拾われて組員になった。この組は運送業・石田運輸を主な生業としている。地元の零細業者をまとめて正業をしているようだ。そこへ内田朝雄をボスとする巨大組織・城西会の下部組織の寺光組を率いる渡辺文雄が乗り込んでくる。渡辺文雄は大手の運輸企業と組んで、この街の物流を牛耳ろうとしている。
　狡猾な渡辺文雄は石田組の幹部・小池朝雄を取り込んで石山を殺し、縄張りごと乗っ取ろうとするが、安藤昇は石山の遺言を守り、組を解散。運送会社一本でやって行こうとする。渡辺文雄は石田運輸傘下の零細企業を脅迫。自分たちの下に入るように圧力をかける。恋人でクラブのマダムの宮園純子が殺され、堪忍袋の緒が切れた安藤昇は、小池朝雄が寺光組傘下の組を興す襲名披露に乗り込み、渡辺文雄と小池朝雄を倒す。

　サイドストーリーとして検事の天知茂が出てくる。安藤と同じく石山に拾われて書生をしていたのだが、石山の娘・小畠絹子と恋仲になる。激怒する石山。天知にヤキを入れる。子分の一人が「落とし前だ！」　と天知の小指を切ってしまう。石山は反対はしたものの、堅気の天知にそこまでする気はなかったようだ（矛盾している気がする）。　結局駆け落ちのような形で天知は小畠と一緒になる。しかしこの一件で天知はヤクザに対して異常な憎しみを抱くようになる。暴力団摘発に執念を燃やすが、城西会という巨大組織が相手では検察上層部も腰が引けてなかなか上手くいかない。
　渡辺文雄が石田組との抗争に備えて、大量の拳銃を仕入れたという情報を得る。ガサ入れするも空振り、ラストで安藤が大暴れしたのがきっかけで大量に押収。ラストはパトカーに乗せられる安藤にエンドマーク。

　主役は安藤昇でモノホンの迫力は相変わらずなのだが、見せ場は小池朝雄の方が多い。石田組の幹部とはいえ、安藤昇よりも格下扱い。それが不満なのだろう。思慮深い安藤に比べ、武闘派で威勢が良い。寝返った後は、小賢しく立ち回る。石田組を思うフリをしながら、渡辺文雄に石田組の跡目の確約を取り石山をあっさり刺し殺す。更に宮園純子を拷問、「どぶ鼠！」　となじられてして激昂。
「高い香水つけて、イイ匂いプンプンさせて、それで貧民窟の饐えた匂いが消えるとでも思っているのか！」
屈折した心情を吐露、これまたあっさり殺してしまう。ラストで安藤昇に追い詰められる。プライドも意地もかなぐり捨てて土下座、命乞いをしながら地面に落ちたドスを取って逆襲しようとするが、そんな小細工はモノホンのヤクザだった安藤昇には通用しない。 「詫びは親父のトコに行って言え。」　 冷たく言い放ちバッサリ。自分もあっさり殺されてしまうのだ。因果応報。屈折した心情を吐露する悪役・小池朝雄といえば、日活『殺人者を消せ』　を思い出す。


　内田は巨大組織の長なので、細かい下っ端のやることなど関知していないようだ。ヤクザとはいえ大企業なので悠々としている。石田組との対立も「石田はそんな男ではない。城西会に泥を塗るような真似はするな。」
抗争になると面倒なことになるからと、カッコイイ事を言ってみせる。しかしこの人がしっかり下の者を監督していればこんな事にはならなかった。

　憎憎しいのは渡辺文雄である。オイラの世代だと『食いしん坊バンザイ』　なのだが、東映では悪役が多かった。ＴＶ『バンパイア』　ではトッペイ（水谷豊）に協力する良い役だったのに（笑）。　巨大組織の看板をチラつかせて零細に無理を吹っかけて来るシーンには腹が立った。ウチも零細だったからね。血が流れるか流れないかの違いだけで、こういうのは現実社会では多いヨ。

この作品の見所の１つは新東宝出身者がポロポロ出ている事。検事の天知茂。その奥さん・小畠絹子。石田組員の一人にハンサムタワー・高宮敬ニの姿があった。この人東映では役に恵まれなかった。新東宝好きとしては複雑な気持ち。

　最後に１つ、宮園純子が殺される時、バックに西田佐知子の『アカシヤの雨がやむとき』　が流れるが、この歌が発表されたのは昭和三十五年らしい。ということは映画の舞台になった三十四年にはまだこの曲はない。時代考証が間違っている。

ヤクザ映画としては新味はないが、語り口が巧みなので一気に観る事が出来たこの作品。面白かった。

１月分はまだ残っている。ドンドン行こう！！