オタクの星座
先日、神保町の書泉グランドに行きました。地下の格闘技コーナーに行ったら、梶原一騎先生の遺作『男の星座』 の復刻版全5巻が売っていました。周知のようにこの作品は1984年〜87年にかけて『漫画ゴラク』 誌に『一騎人生劇場・男の星座』 というタイトルで連載、梶原氏が亡くなったため未完、絶筆という形で終わってしまいました。この復刻版は1冊1000円ですが、全5巻、計5000円。買っちゃったよ。出来れば巻末に、実弟・真樹日佐夫氏の『さらばアニキ』 も掲載してくれれば完璧だったのに。これ連載当時、読んでいました。梶原一騎先生の作品は日活映画同様に、オイラの人生を変えてしまいました。思い入れのある作品は多いですが、中でもこの『男の星座』 は好きな作品デス。この作品は梶原一騎本人の半生を描いたというフレコミの作品。大筋は事実ですが、細かい部分はフィクションでしょう。しかし見所は多い。
主人公・梶一太は酒癖が悪いし、喧嘩っぱやい上に粘着質な性格。浅草のストリッパー・八神カオルにストーカーのように付きまとう。普通なら相手にされるワケないのに、何故か半同棲生活してしまう。またこのカオルちゃんがイイ女なのよ。こんな天使のようなコいるわけないじゃん。ストーカーがどうしてこんなコと・・・王者のオイラにはとても信じられません。男女関係の描き方も古臭い。(カオルちゃんとの顛末は、東宝のエリート社員というライバルが現れて、一太は身を引く形で終わる)。
力道山や大山倍達氏とのやりとりは、映画化して欲しいくらい濃い。この作品のハイライトは、『空手バカ一代』 でも登場した有明省吾のモデル、天才児・春山章とオカマのオデン屋・ジャニーさんの死。何度読んでも泣ける。こんな硬派な漫画は当分、出てこないでしょう。少なくとも、今は流行らないと思います。
この梶一太という男は主人公でありながら、あまり人間が出来ていない。人間的に弱い部分が多い。例えば、前述したように短気ですぐにカッとなる。言わなくても良い事を言ってしまい、気まずい人間関係を作ってしまったりする。しかし一太本人は、そんな弱い部分を自覚しているのだ。だから!オイラはこの梶一太というキャラクターに感情移入してしまう。チキンのオイラにはケンカする度胸も体力もない。しかしオイラも弱い自分を自覚している。一太同様に、言わなくても良い事を言ってしまい、敵を作ったりしてしまう。オイラに友達がいないのは、このためなのでしょう。分かっているのです。分かっていても、ついやってしまう。バカですね。そのバカなところが共通しています。
おまけにスケールこそ違うが、オイラだって一太と同じ物書きの端くれ。そして共通している点がもう一つ、それは女性観だ。一太は女を信用していない。自分に自信がないから、ストリッパーのカオルを束縛したがる。男が出来たのでは?と疑心暗鬼になり、つい手を上げてしまう。この辺はありきたりなエピソードだ。しかし一太の女性観を象徴する出来事が起こる。
父親の遺産で開いたバーで雇った若い夫婦に、売上金の横領をされてしまう。一太は問い詰めて、男を半殺しにする。その時、女はビビって男を置いて逃げてしまうだろう、とタカをくくっている。しかし女は逃げない。それどころか男をかばって見せる。一太は女に逃げて欲しかったのだ。逃げるところを見て、所詮、女はそんなもの、というのを確認したかったのだ。女は一太の要求に従い、裸踊りまで見せて男をかばう。その純愛ぶりに一太は負けを思い知らされる。自分にはそんな女がいない。そんな女を作る事も出来ない。男として、いやオスとして横領夫婦にすら負けた事を思い知らされるのだ。分かる・・・梶原先生、あんたの気持ちは分かりすぎる程分かる。オイラも女は信用していない。信用というか・・・精神的に大キライです。それは生まれて一度も、オフクロ以外の女に優しくされた事がないからです。そう言うと、「優しくされたいのなら、されるような男になれ!優しくされたいなら、お前も優しくしろ!」その通りです。しかしオイラはオタクで偏屈だから、優しくするどころか女と知り合う機会もない。女どころか友達もいないからね。今年に入って仕事以外で人と会話をしていない有様です。女を信用していない一太・・・いや梶原一騎だが、本当は天使のような女の存在を渇望している。それが、浅草のストリッパー・八神カオルだったのでしょう。彼女は本当にイイ女だった。一太もそれが分かっているから、東宝のエリート社員と結ばれるのを祈って身を引く。
とにかく泣けるエピソード満載の『男の星座』 。ブルーな気分の時に読むととにかく泣けます。台詞回しも古臭いところが多いけど、これは本当に傑作です。泣けない男は男じゃないね。
ア〜ラ、エッサッサ〜!!
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