その壁を砕け(59年白黒作品、脚本・新藤兼人、監督・中平康)
 
深夜、東京で自動車修理工をしている小高雄二は新潟で看護婦をしている婚約者、芦川いづみを迎えに車を走らせていた。途中の田舎町で偶然、殺人を犯した男を最寄の駅まで乗せた事から自分に容疑がかけられてしまう。婚約者の無実を信じる芦川は弁護士の芦田伸介に事件の解明を依頼する。若手刑事に長門裕之。その上司に西村晃。被害者家族に渡辺美佐子。地方の村社会のドロドロした人間関係や冤罪の恐怖を描いた力作。事件の現場検証を丁寧に描いたシーンは特筆に価する。音楽を担当したのが東宝特撮映画でお馴染みの伊福部昭。重厚感のある音楽はドラマを盛り上げるのに貢献した。
(2000年9月15日記)

        『13号待避線』より その護送車を狙え(60年白黒、原作・島田一男 脚本:関沢新一 監督・鈴木清順)
 刑務官・多門大二郎(水島道太郎)は乗っていた護送車が狙撃され、囚人2名が死亡。水島は6ヶ月の停職処分を受けるが、単身、真相究明に乗り出す。護送車に乗っていた囚人の一人で仮釈放された 小沢昭一を追って熱海にやって来た水島は地元の暴力団を仕切っている渡辺美佐子と知り合う。渡辺は病気療養中の組長・芦田伸介の義理の娘であった。組の幹部・阿部徹は謎の男・秋葉の手先として人身売買組織に加担していた。当初、水島は渡辺を疑うが、渡辺も襲われたことで疑いが晴れ、協力して事件を追う事になる。水島と渡辺は阿部たちに捕まりタンクローリー車に乗せられ爆死させられそうになるが脱出したり、組織の手先だった小沢とその恋人・白木マリは殺されたりする。水島は警察と協力して組織を追い詰める。秋葉の正体は芦田であった。ラスト、鉄道車庫に追い詰められた芦田は引込み線に足をはさまれ汽車に轢かれて死ぬところでエンド。
 謎の男・秋葉の正体を最後まで伏せて話しは進むのだが、秋葉の正体が芦田でなければならない理由もなく謎解きとしてはイマイチだし、停職中の水島が命がけで事件を追う理由もよく分からない。他に殺し屋役で内田良平が出ていた。脚本は東宝特撮でお馴染みの関沢新一。関沢作品は堅実だが盛り上がりに欠けるものが多いが、本作はサスペンス物の雰囲気はあるので、それなりに面白く観られる。ラストの場所が鉄道車庫なのは関沢が鉄道マニアだったためなのだそうだ。
(2001年4月9日記)

        空の下遠い夢(63年89分 脚本・熊井啓 監督・牛原陽一)
 17歳の石川(和田浩治)は東南アジア一周旅行を計画。バンド活動(ドラムと歌)で資金を作る。足りない分はバンドの仲間や客たちのカンパ。兄・
捷夫(小高雄二)、その婚約者・伸子(笹森礼子)の援助で横浜から旅客船・チトラル号に乗り込む。和田は日本贔屓の観光客・ジェマ(藤村有弘)と同室になる。広い船の中で迷子になった山村(山内賢)とも友達になる。神戸から真理(和泉雅子)が乗船、和泉は貿易商の娘で3度もチトラル号で旅行をしているそうだ。和田と山内は和泉と中国人船員・リー・ピン(杉山俊夫)とも友達になる。最初は美しい和泉を巡って、和田と山内は殴りあいの喧嘩をしてしまうが、風呂に入って仲直り。親友となる。山内は父親が再婚、継母との折り合いが悪く、シンガポールにいる父親の親友・岩本(垂水悟郎)を頼って働きにいく途中だった。船は香港に着く。和田、山内、和泉は香港見物に出かける。杉山とその幼い弟も合流。藤村は和田たちのために車を借りてやる。藤村は急な仕事で飛行機で帰ることになる。シンガポールでの再会を約束して別れる。杉山の案内で香港見物をする和田たちは、香港と中共との国境にやってくる。杉山の父親は生存は不明だが、中共にいるらしい。杉山の弟は来月、ボルネオに行くらしい。ボルネオで働きながら勉強して出世して欲しいのが杉山の願いだった。チトラル号が出航するまで、和田、山内、和泉、杉山兄弟で楽しく遊んで思い出を作る。船はシンガポールに着く。3人は杉山とまたの再会を約束してシンガポールで船を降りる。山内は垂水のところへ行く。垂水は福田(芦田伸介)と港で荷役の会社をやっていた。山内は港で働く事になる。和田は和泉が日本人・真理ではなく、英国人牧師の娘・メアリー・ハミエルであることを知る。和泉は戦災孤児だった。父親の名前は分からないが、母親の名前は「きく」。チャイナタウンで拾われて養女になったのだった。和田と山内は和泉を誘い、日本人墓地にやって来る。手がかりは「きく」という名前だけ。それだけの手がかりでは探すのは大変だったが、偶然見つけることに成功する。墓前には菊の花が手向けてあった。芦田の事務所に、日本から取り寄せた菊の花があったのを思い出した和田は、芦田が和泉の父親ではないかと推理。3人は芦田の家に行く。家には垂水もいた。芦田は和泉の父であった。終戦後、ビルマから戻った芦田は和泉の母親を探したのだが、名前を隠していたために見つからなかった。やがて和泉を生んで死んだ。和泉は親切なイギリス人に引き取られたという噂を聞いただけだった。翌日、アジアで働く日本人たち(川上信夫、衣笠真寿夫、他)が芦田の家に集まり親睦パーティが開かれる。藤村も参加し、参加者全員で日本の歌を合唱する。パーティの最後、和泉はシンガポールで芦田と暮らしたい、と言う。最初は「(和泉を)ここまで育てて貰ったハミエルさんに義理が立たない。」という芦田だったが、垂水や藤村たちに諭され、一緒に暮らす決心をする。和田と和泉は「いつかまた」の再会を約束して踊る。翌日、藤村、山内、和泉たちにバス停まで見送られ、和田は一人旅立っていくのであった。
 香港、シンガポールにロケを敢行。ダラダラした感はあるものの、爽やかな後味の作品。しかし和田が海外に出たのは観光らしいのだが、この頃は現在と違い日本人の海外旅行って大変だったんじゃないの?17歳の和田が行くというのは不自然な気がする。不自然といえば、牧師の娘の和泉雅子が何度も外国航路の船で旅をしているのも妙だ。和泉の父親が芦田だったというのも安易。63年当時の香港やシンガポールの街が垣間見れるのは資料映像として貴重。特に中共との国境付近には軍艦が見えた。しかしこの辺の経緯について、キチンとした説明がない。シンガポールでは第二次大戦でたくさんの日本人が死んだ、という藤村の台詞があったが、和田は「若い俺たちには関係がない。」と一言で片付けてしまうのには笑った。胡散臭い外人役の藤村だが、いつもとは違って良い人でした。
(2005年7月14日記)