谷口千吉…男の世界だ 5 赤線基地
本日13時からラピュタ阿佐ヶ谷『赤線基地』 鑑賞。これ今地上波で放送したらタイムリーな気がする。
10年ぶりに中共から帰った三國連太郎。街は変わっていた。住んでいた家は基地になっている。畑も接収されている。友人で小学校教師をしている小林桂樹の学校が登場する。近くには米軍の演習場があり、爆破音や炸裂音がスゴイ。会話も出来ないほどである。演習が始まると授業にならないので、急遽写生の時間となる。生徒の1人が三國連太郎の弟。邪気がないので外でイチャつく米兵とパン助の姿を書き出す。街には英語文字の看板の店が立ち並ぶ。米兵相手の商売なので基地が無いと困る、という店主の台詞もあった。爆発音の中、校庭で無邪気に遊んでいる子供たちの姿に現在の普天間を観た気がした。
根岸明美の役なのだが、プレスシートの配役表を見ると“パンパン” だったか“パン助” だったか、どっちだか忘れた。平気で表記されていた。これって今は使っても良いの? 少なくとも映画が製作された昭和28年はオッケーだったってことだろう。時代だネェ。
映画の冒頭で「この映画は誰が悪いという責任を追及するものではなく、我々の身近にある差別を反省する映画である」 というテロップが流れる。パン助のことを言っているのか。当時は周囲にこういう人たちが多くいたのだろう。
米兵相手のパンパンという職業が性のはけ口、必要悪のような扱いである。彼女たちがいるおかげで自分たちの身内の女性の貞操が無事なのだ、というのが世間一般の考えだったようだ。三國の弟役で役人の金子信雄が達観したように説明する台詞があった。世間一般を代表した役とも言えるだろう。
にもかかわらず三國の家族は心の中でパン助をしている根岸たちを嫌悪している。たしかにね、身内にはなって欲しくない職業だ。根岸も遠慮して風呂はパン助やっている連中の集まる銭湯? に入りに行く。三國の母が「(一緒の風呂に入って)、変な病気でもうつされたら困る…」 というような台詞があった。とはいえ、根岸の払う家賃がないと生活していけない。
三國の妹(川合玉枝) は米軍基地に勤めている。小林桂樹と婚約中だが、小林の身内が基地勤務でパン助に部屋を貸しているという理由で婚約を破棄しようと言ってくる。正確には根岸は不特定多数の男を相手にするパン助ではない。ガールさんと呼ばれるオンリーなのだが、世間はそうは見ないのだろう。金子の台詞では土地も接収され稼ぐ手段のない家庭の多くは、ガールさんに部屋を貸している。家賃収入が無いと生活できないからだ。小林には破棄するつもりはないのだが、なんだか差別と現実が破綻している。三國が戦争に行く前に付き合っていた恋人・ハルエ(中北千枝子) もパン助。黒人の子供までいた。これなんかショックだろうな。当時は現実にこんなこともあったのかな。
しかし現在の目で見るとイマイチピンとこないし、差別を反省する、という観点が伝わってこない。今回のパンフレットによると、反米的として上映が一時見送りになったらしい。言われて観ると「そうかもねぇ。」 という程度にしか感じない。都内に住んでいると基地問題はどこか他人事だし(沖縄の方、失礼)、現代では“生活のために” パン助している日本人女性はいないからだ(アンダーグラウンドの世界は知らんが) 。
最後は東京に出る三國。バスに乗ると地味な格好の根岸がいる。東京に行くつもりらしい。要するに付いていくという事なのだろうが、この辺も唐突な感じがした。反省する映画としては、もう少し突っ込んだやり取りがあっても良かったと思う。
今回の特集で観た谷口作品は皆男っぽい作品ばかりだったので今回は違っていたので肩透かし。それでも90分があっという間。面白かったのは確かだから、まっ良いっか!!
数年後には日活で活躍する三國連太郎と金子信雄が兄弟役で出ていたとは面白い配役。
今回も『吹けよ春風』 同様、フィルムセンター所蔵作品。『吹けよ…』 の時ほどではないが混んでいた。30人くらいだったかな。30分前に行って16番だった。14時半終了。近くの定食屋でハンバーグカレーで遅い昼食。
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