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月夜の傘(55年白黒127分 脚本・井手俊郎 監督・久松静児)
郊外の住宅地の共同洗濯場に集まる4人の主婦(田中絹代、轟夕起子、坪内美詠子、新珠三千代)たちの家族の日常を描いた佳作。4人は洗濯場に集まると夫の悪口、家族の愚痴を言い合って井戸端会議に華を咲かす。小谷律子(田中絹代)の夫・耕平(宇野重吉)は中学教師。高校生の長男・高志(渡辺鉄弥)、次男・弘志(真塩洋一)、末っ娘・和子(加藤順子)がいる。無愛想な宇野と3人の子供たちの仲はあまり良くない。田中はいつも父子の仲裁役だ。村井かね子(轟夕起子)の夫・隆吉(三島雅夫)はサラリーマン@管理職クラス。息子・健一(茂崎幸雄)は高志(渡辺鉄弥)の同級生でもある。小野妙子(坪内美詠子)は未亡人で娘・雪子(二木てるみ)と轟の家に裁縫の仕事をしながら居候している。倉田美枝(新珠三千代)は新婚。夫・信男(三島耕)は27歳で家を建てたためローンに追われている。普段は出張が多く留守がち。新珠もミシンを使っての裁縫仕事で内職をしている。ストーリーは坪内が轟の世話で三島の部下・鈴木吾郎(伊藤雄之助)と見合いをする。伊藤は男やもめで小学生の息子・一郎(桜井真)を抱えていた。坪内も伊藤も見合いを断るのだが、お互いに日曜日に子連れで映画を観に行って偶然再会する。これがきっかけで付き合う事となる。ある日、宇野が渡辺の机からラブレターの下書きを見つける。慌てる宇野と田中。問い詰めると茂崎のために代筆をしたものらしい。茂崎はなかなかクラスメートに人気があるようで女生徒(高田敏江、大森暁美)が遊びに来たりする。しかし息子に好きな女がいると知って動揺する轟。しかし実際は心配するほどのものではなく健全な付き合いの様でホッとする。坪内の弟で大学生・川崎豊(宍戸錠)のクラスメート坂本(杉幸彦)は街で偶然見かけた新珠に一目惚れしていまう。宍戸に連れられて坪内の家に遊びに行った杉はここで新珠が人妻であることを知ってショックを受ける。杉の気持ちを宍戸から聞かされた新珠は商店街に買い物に行く。会社帰りの三島と会った新珠は杉の下宿の前でイチャついてみせる。近所に住む江藤とみ(東山千栄子)はピアニストだった息子を亡くして独り暮らし。毎日、息子の形見のピアノに触れている。生活のためか?東山はピアノを売ろうとするが業者に足元をみられ20万円相当のピアノが半額にしかならない。東山は轟に相談する。4人はみんなで金を出し合って買おうとする。轟とピアノの心得のある新珠や音楽好きな茂崎や渡辺は乗り気だが、20万円もするピアノは高価なため手が出ない。すると轟の家の家政婦・宮島弥生(飯田蝶子)は「年寄りが持っていても仕方が無い。自分の金を使ってくれ。」と言ってくる。轟は最初は断るが皆と協議した結果、使わせてもらうこととなる。ピアノはそのまま東山の家に置き、弾きたい時に行くという事になる。渡辺は弟・妹、茂崎らと鶏を飼うことにする。自分たちで材料を買い鳥小屋を作るがその際、宇野が大事にしていた庭のコケを台無しにしてしまう。偏屈な宇野は激怒、小屋を壊してしまう。宇野と子供たちの溝は深まるばかり、田中の必死の仲裁で子供たちは態度を軟化させる。夜、雨が降ってくる。田中は傘を持って駅へ宇野を迎えに行く。なかなか帰ってこない宇野を駅前で待つ田中は蕎麦屋に入っていく坪内と伊藤の姿を見る。どうやら付き合っているようだ。やがて宇野が駅から出てくる。宇野は大工道具の店に入り、鳥小屋の材料を買う。宇野も態度を軟化させたらしい。宇野に声をかける田中。雨上がりの町を二人で歩いていると川に月がかかっている。それを見つめる二人の姿を映してエンド。木造の家屋や喧嘩の絶えない家族の風景は現在から見ると昔の家族形態だが今見るとどこか懐かしい感じがする。静かなペースで流れるストーリーだが久松の絶妙な語り口は127分の時間を飽きさせない。ロケに使われたのは小田急線の梅ヶ丘近辺。現在は住宅が密集しているが、この頃は田舎町みたいだ。でも駅周辺のロケは西武線の恋ヶ窪駅では?洗濯場は共同で井戸水を使ってタライで手もみ洗いをしたり各家庭に縁側や物干し台、庭があるのは現在では見られなくなったもの。杉の下宿にはやたらと子供がいるのも少子化の現在では見られない光景。この頃のガキどもは団塊の世代ってやつネ。オイルショックでは苦労したネ(笑)。ピアノを買う話になった時、三島は「そんな金があるならテレビを買った方が良い。」、それに対し轟が「(テレビが)観たかったら蕎麦屋で観て来れば良い。」と返す。こういう台詞も時代を感じさせる。当然の話だがちゃぶ台を囲んでの食事シーンでもご飯はジャーではなく御ひつに入っている。(そういえばオイラが子供の頃はそうだった。)こういう生活シーンが懐かしく感じられる作品。(2002年7月3日記)
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