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誘惑(57年91分白黒 原作・伊藤整 脚色・大橋参吉 監督・中平康)
杉本省吉(千田是也)は55歳。若い頃は画家志望だったが才能がないため断念、現在は銀座すずらん通りにある洋品店スギモトの店主。妻・優子(左幸子)は既に亡くなり、娘・秀子(左=二役)とやもめ暮らし。千田は画家にはなれなかったが商売の才能はあったようで豪邸にお手伝いの婆さんもいて良い暮らしをしている。左は現代娘で「Art is
money。Life is sex」が口癖。前衛生け花に凝っていて生け花『水生流』家元・土方竜(長岡輝子)の孫・土方笛吉(波多野憲)がリーダーの生け花グループで活動している。拠点も波多野の部屋で隣の大広間では長岡が生け花の指導をしている。このグループのメンバーは派手で色っぽい桜木光子(中原早苗@可笑しい)、金山トミ子(高友子)、綾部得太郎(武藤章生)、大林英吉(杉幸彦)。昭和6年、千田には三谷栄子(芦川いづみ)という恋人がいたのだが当時学生だったために別れたという過去があった。浅草(浅草寺五重塔がバックに映っている)での最後の逢引で別れ際、千田は接吻しようとするが芦川が拒んだために何も出来なかった。この事が未だに心残りとなっていた。その後、傷心の千田が戸部(殿山泰司)の喫茶店に入り浸っているときに声をかけたのが優子(左)。これがきっかけで結婚した。スギモトの従業員は推理小説マニアの大橋参吉(小沢昭一)と化粧気のない無愛想な竹山順子(渡辺美佐子)。渡辺は千田に惹かれているようだが千田は「無愛想で化粧気のない女。最近、店の売り上げが下がってきたのはこの女のせいかな。」と思っている。千田はスギモトの2階を画廊(アートギャラリー)に改装しようとしていた。左たち生け花グループはこの画廊で展示会を開こうとしていたが資金がない。そこで知り合いの絵描きグループ『レインボーグループ』と共同開催を計画する。レインボーグループは松山小平(葉山良二)をリーダーとしている。メンバーは池上恭三(天本英世)、田所草平(安井昌二)、他にもいた気もするけど記憶無し。安井は通称・暴力画家。住所不定で仲間の部屋を転々としている。しかも絵の具を買う金も無いようで仲間の物を勝手に使って書くのでそう呼ばれていた。しかも身だしなみにも無頓着。風呂にも入らないようでシラミを飼っている(笑)。共同開催なのだが多少は営利を追及したい生け花グループに対し葉山は芸術性優先で理想ばかりを説く。水生流生け花の会員で保険の外交員をしている園谷コト子(轟夕起子)は左に頼んで千田を紹介してもらう。左は自分の縁談と勘違いするのだが保険の勧誘と知りガッカリ。何も説明せずに轟に会うように千田に頼む。訳も分からず轟を待つ千田は吸っていたタバコをスギモトの2階のバルコニーから投げ捨ててしまう。そのタバコがやって来た轟に当たってしまう。しらばっくれる千田。千田と轟は向かいの殿山の喫茶店で会う。小沢は「轟は千田と訳ありの関係では?」と推理。渡辺は「どうして分かるの?」。小沢は「推理です。」と答え読んでいた推理小説本をパサっと置く(笑)。轟は保険の勧誘に来たのだが千田に惚れてしまう。しかし千田はキツネ眼鏡をかけてペラペラと下品な喋りの40女の轟を快く思っていないようだ(笑)。轟は千田に猛アタック。渡辺は内心穏やかでない。スギモトに葉山と波多野がやって来る。改装中のギャラリーを見に来たのだ。遅れて安井も現れる。厚かましい安井は持っていた家財道具(ボロボロの鞄に薄汚れた着替えと画材が入っているだけ)を店番していた渡辺に預ける。その際、安井は渡辺の顔を見て「君、化粧したまえ。」。この一言でハッとした渡辺は安井に惚れてしまう。波多野、葉山、左、安井は近くのレストランで食事をするのだが安井は金も無いのにビフテキを注文。旨そうに平らげてしまう。仕方なく金は左が払う。内心ムッとする左。安井に惚れた渡辺は預かった荷物を自宅に持ち帰る。その際、安井のアドバイスが耳に残っていた渡辺は途中、化粧品を買い化粧をする。見違えるように美しくなる渡辺に下宿の小母さん(田中筆子)、小父さん(浜村純)もビックリ!!ところが安井の荷物にもシラミがいたようで皆痒くなってしまう。あわてた浜村がDDT(時代ダネ)を持ち出す始末。美しくなった渡辺は接客態度が良くなる。今まで愛想のかけらも無かったのが客に笑顔でお世辞を言う姿に驚く千田。「女というのは不思議な動物・・・」と分析する小沢。葉山が画廊に左を訪ねてくる。招待状等の通信費の金策が上手く行かず展示会は無理という葉山。左は通信費を半分、生け花グループで負担すれば良いと提案。葉山はテキパキとした左を「女房にすると尻に引くタイプ。」と心の中で分析。左は葉山を「二枚目だけど貧乏では結婚相手としてはイマイチ。」と分析する。通信費を半分負担というのが他の生け花グループのメンバーたちから反発を食う。波多野や武藤、杉はそれほどでもないのだが高だけは猛反発(中原は飄々としてどうでも良い感じで可笑しい)。左は泣き出して外へ飛び出してしまう。出口で葉山と出くわす。左は葉山の顔を見て逃げ出す。泣いている左を「どうしたんだ。」と追いかける葉山。子供の鬼ごっこのような追跡劇(笑)となり近くの寺?の境内近くの電話ボックスで捕まる。興奮した左と葉山は接吻する。左が飛び出したことで波多野たちに責められた高も興奮、泣き出して左と同じように飛び出してしまう。追いかける武藤は左&葉山と同じように追いかけっこ、同じように電話ボックスの所で接吻してしまう。ボックスの中には左&葉山がいた。驚く左。数日後、千田の画廊が完成、こけら落としとして千田の旧友の岡本太郎、東郷青児たちの展示会(六人展という名称なので他は誰?)が行われる。千田は左に婿を世話しようと画策。取り引き先の五和銀行・本山支店長(深見泰三)の部下の保井五郎(宍戸錠)と製靴会社?の小月常務(日野道夫)の部下・戸越茂雄(二谷英明)が婿さん候補。夜、画廊でパーティが行われる。出席したのは生け花グループやレインボーグループの面々の他、轟の姿も。岡本太郎、東郷青児、大徳寺公英、勅使河原蒼風、阿部金剛、寺田武雄、野村守夫、松本弘二、等、本人出演。二谷や宍戸も出席。渡辺がホステスを務めていた。パーティではダンスが行われる。轟は千田と踊りたいのだが相手にされない(笑)。左に気のある波多野、二谷、宍戸は左と踊りたいのだが左は葉山とくっついている。千田は葉山とベッタリの左が気になる。しかも左から葉山を紹介された時、どうも誰かに似ている気がして仕方が無かった。安井はダンスなど簡単だ、とばかりに轟と踊るのだが無手勝流の安井のダンスに轟はついて行けない。しかも安井の服にシラミがいるのを発見。ダンスを止めて逃げ出す。安井に惚れている渡辺は安井と踊るのだが安井は渡辺の事を憶えていないようだった。ガッカリする渡辺。小沢は中原と踊るのだが中原は惚けた調子で小沢にバーやレストランをオネダリ、閉口する小沢。中原はこの後、他の中年紳士とダンスしながら同じようにタカっていた(笑)。パーティが終了した頃、葉山たちレインボーグループの面々が自分たちの作品を会場に飾りだす。狙いは岡本たちに見てもらうためだ。千田は岡本たちに「みんな君たちに見てもらおうとしているから見るな。」というのだが岡本たちは安井の絵に注目する。彼らの目から見て安井の作品は素晴らしいものだった。これがきっかけになりマスコミでも注目され安井の絵には高値がつく。安井は自分の絵が注目されている事も知らずにどこかへ行ってしまう。葉山の家に安井の書いた作品が数点残っていた。その中に女性の肖像画あった。それは千田のかつての恋人栄子そっくりだった。安井に代わり絵の仲介をしたのが葉山であった。葉山は絵の才能は無かったが商才があり安井の絵を出来るだけ高値で売る。感心する千田。『生け花グループ』と『レインボーグループ』の展示会が行われるが訪れる客は皆、安井の絵が目当て。腐る左たち。葉山は盛況となった展示会の受付に妹の章子(芦川=二役)を連れてくる。かつての恋人に瓜二つの芦川を見て驚く千田。葉山と芦川は栄子の子供だったのだ。しかも栄子は5年前に亡くなった、と聞く。芦川は自分を見る千田を不審に思うが母親が残していた手紙から千田がかつての母親の恋人であった事を知る。手紙には最後の逢引きの時、千田からの接吻を拒んだ事を後悔していた事が書かれていた(拒んでも強引に接吻して欲しかったようだ・・・女心は複雑である)。行方不明だった安井が渡辺の下宿を訪ねてくる。自分が売れっ子の絵描きになっている事を知らない安井の面倒を渡辺が甲斐甲斐しく見てやる。やがて二人は結婚。結婚式が行われる。その夜、酔った中原が芦川を連れて帰宅。芦川も酔っているため千田の家に泊まっていく。その夜、隣の部屋に栄子の娘である芦川が寝ているので寝付けない千田。酔って気分が悪いのか芦川の部屋から苦しそうな声が聞こえてくる。様子を見に行く千田。芦川の寝顔を観ていると栄子の姿とダブってしまう。千田はかつてする事が出来なかった接吻を眠っている芦川にしてしまう。あわてて部屋を出る千田。芦川は眠ってはいなかった。千田との接吻を拒まなかったのは母親の代わりを務めたのだった。母親の手紙には「たとえ私が拒んでも、私はあなたに接吻して欲しかった。」と書かれていた。30年前の母親の無念を晴らした芦川、目に涙。「お母さん、それは済みました。」翌朝、何事も無いように振舞う千田と芦川。芦川は昨夜の結婚式の二次会?でジンフィズを飲みすぎたようだ。「あれは甘いから飲みすぎてしまうんだ。」とアドバイスする千田。左は葉山と結婚する事を決める。かつて千田が栄子(芦川)と逢引きしたのと同じ浅草寺のベンチで接吻する二人。葉山は絵描きは諦め千田の跡継ぎとして洋品店のマスターになるようだ。ラストはトレードマーク?のキツネ眼鏡を違うタイプのものに変えた轟が千田に生命保険の勧誘に訪れる。千田と殿山の喫茶店に入っていく。その姿を2階のバルコニーから見守る芦川。芦川が白いカーテンを引くとそこへエンドマークが被る。
中平康監督の才気溢れるお洒落な作品。登場人物たちの心理描写をそれぞれの独白で表現したりするのは笑える。しかし無愛想な渡辺が安井の一言で美しくなったり不潔な安井に簡単に惚れてしまうのは安易な感じもするし、小沢昭一にあまり見せ場がなかったのは小沢ファンとしては残念。轟や中原が自分たちの役を誇張した演技で見せてくれるのは楽しい。観ていて面白かった作品。出番は少ないが芦川いづみは可憐でタマラン。
(2003年11月19日記)
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