第5話
青春残酷物語

 

唐突ですが、オイラは宗教が嫌いです。核兵器以上に、この世の中で必要の無いものだと思ってマス。(宗教関係者の方、これ見ていたらご容赦を!)
 あれはそう・・・・80年代後半頃の事だった。当時、オイラは学校を出たての新入社員だった。初めて配属された部署にヒトミさんという庶務担当の女性がいた。年齢はオイラよりも一歳年上。当時W浅野で人気の浅野温子似のお姉ちゃん、いやお姉さんだった。明るくて、オイラのようなブ男にも気さくに接してくれた。風俗のお姉ちゃんにしか優しくされた事の無いオイラにとって、笑顔を見せてくれる初めてのアマチュア女性だった。そうはいっても完璧な片思いである。ヒトミさんには婚約者がいるらしい。学生時代の同級生だそうだ。年が明けて、ヒトミさんは寿退社していった。オイラはヒトミさんの幸せを祈った。東京の空の下で寄り添いながら幸せに暮らしている、そう思っていた。ヒトミさんがいなくなって一年ほど経ったある日、電話がかかってきた。ヒトミさんからだった。「ご飯でもたべない?」ビックリした。寿退社したヒトミさんから、食事の誘いがあるなんて・・・・一体何があったんだ?
 土曜日の午後、渋谷で待ち合わせをした。渋谷・・・・ホテル街があるな・・・・・あわよくば、憧れのヒトミさんの身体に触れることが出来るかもしれない・・・いや、そんな事があるわけないな。そんな悶々とした下心を持って渋谷に行った。109の2階の入り口で待ち合わせをした。一年ぶりに会うヒトミさん。結婚しても美しさは少しも衰えていなかった。輝いていた。若妻の色気がブレンドされて、ますます女っぷりが上がっている。股間のコルトが、ズボンの中で大きくなって痛かったよ。近くのオシャレな感じのイタ飯屋で食事をした。オイラはオタクでブサイクだから、こんなお店今まで入ったことがないよ。憧れのヒトミさんと、2人でご飯が食べられる。
あ〜、生きててヨカッタ!!食事をしながら話をした。オイラは近況報告をした。ヒトミさんはオイラの話を、優しく微笑みながら聞いてくれた。ヒトミさんは人妻になっても、やっぱり憧れのオイラのお姉さんだ!!話が一段落したところで、ヒトミさんは言った。
 「今日、来てもらったのはね。GUTSクンに大事な話があるからなの。」
どうしたんだろ?オイラは思った。賢明な常連の方々なら、もうお分かりだろう。そう・・・・・宗教の勧誘だった。オ○ムではない。「最高ですかぁ?!!」でもない。創×学会でもない、
聞いたことも無いインディーズ団体だった。まさか・・・・まさかヒトミさんが宗教に入るなんて・・・そんなバカな事が!(オイラは学生時代、同級生や先輩からしつこく宗教の勧誘を受けて困った事がある。だから、宗教に対して良い印象を持っていない。)
「私ね。今は毎日が楽しいのよ。」ヒトミさんは言った。なるほど、輝いて見えたのはこのせいか。しかし、誰だ!誰がヒトミさんをこんな風にしてしまったんだ!!幸せに暮らしていると思っていたのに・・・・・・・・ダンナさんとうまく行っていないのかな?その時、後ろから声をかけられた。「ちょっと良いですか?」振りかえると、三人組の若い男たちだった。一人は知っている。部署は違うが、同期で入社したタクヤだった。意地のワルイ奴で、オイラは嫌いだった。三人はオイラを取り囲む様に座った。「みんな仲間なの、GUTSクンにも入って欲しいのよ。」
ヒトミさん、オイラは宗教は嫌いなんだよ。そう言っても、彼らは自分たちの宗教の素晴らしさを説き始めた。腹が立ってきた。
 ヒトミさんに・・・・この三人組に対して・・・・・そしてヒトミさんをこんな風にしてしまった奴に対してである。そして・・・・悲しくなった。ヒトミさん、オイラを宗教に勧誘するために電話してきたのか。ブサイクなオイラを差別しない、『999』のメーテルや『星の金貨』の酒井法子みたいな心の美しい人だと思っていたのに!!信じていたのに・・・・憧れていたのに・・・・好きだったのに・・・・・惚れていたんだよ!!オイラの心に、強い怒りの感情が湧き上がってきた。「ウォー!!」オイラは気合と共に三人組に殴りかかった。1人はワンツーからピーター・アーツばりの右ハイキックでぶっ飛ばし、あっけに取られている2人目を、三沢の幻の必殺技エメラルドフロウジョンで床に叩きつけた。3人目はタクヤだった。もともと気に入らない奴だったし、ひょっとすると、コイツがヒトミさんを引きずりこんだのかもしれない。そう思うと、手加減は無用だ。
ヒクソン・グレーシーばりの神速タックルでテイクダウン、馬乗りになった。怒りを込めたマウントパンチが雨アラレ!!「止めてぇー!」ヒトミさんの悲鳴が聞こえる。タクヤがぐったりと動かなくなった。顔がざくろの様に潰れている。オイラは立ち上がると、両手の親指と人差し指で三角マークを作り高々と上げると「ディーッ!!」と絶叫した。
 
 頭の中では、自分たちがぶちのめされているとも知らない3人組はニコニコと気持ちの悪い笑顔で教義の素晴らしさを説いている。オイラはひたすら断った。怖かった。見苦しいまでに断った。ヒトミさんの前で・・・女の前で情けない姿を見せるのは、男としてサイテーだ。分かっているのだが、人一倍臆病な性格のオイラにはこうするしかなかった。3人の男達は言葉使いは丁寧だが、口元はサディスティックな笑みで歪んでいた。「こいつ、ビビッてるぜ。」、「もう少しで、こいつ落ちるな。」奴らは内心、そう思っていただろう。1時間か、いやもっとあったのか。とにかく長時間吊るし上げられた。しかし最後まで入信するとは言わなかった。薄暗くなった頃、ようやく解放された。天気は良かったのに、最悪な土曜日だった。

 その後、ヒトミさんは離婚して、会社を辞めたタクヤと郷里のY県で布教活動に励んでいるらしいと、風の噂で聞いた。もう会う事もないだろう。あんなカッコ悪い姿を見せちゃったから会えないし会う気もない。あの時の自分の姿を考えると、ホントに情けないし恥ずかしい。き然とした態度でヒトミさんのマインドコントロールを解く努力をするべきだったのではなかったのか?ホントに好きだったのなら入信でも何でもやって、少しでもヒトミさんの側にいるべきだったのでは?そしてヒトミさんを守るべきだったのではなかったのか?
今はこれしか言えない。ヒトミさん、何をやっても良いよ。
タクヤはイヤな奴だが、とにかく幸せに・・・・・さようなら