海底から来た女(59年76分白黒 脚本・石原慎太郎、蔵原弓弧 監督・蔵原推繕)
 季節は夏。海岸の別荘で過ごす俊夫(川地民夫)は金持ちの次男坊。婆や(本間文子)と二人暮し。プレイボーイの兄の克彦(水谷貞夫)と違い、孤独癖がある川地の趣味はヨット。川地は近所に住む小説家・堤(内田良平)から「君のヨットに髪の長い女がいた。」と聞かされる。内田はノイローゼ気味なので一笑に付す川地だが、念のために確認に行くと喰いちぎられた魚の死骸が散乱していた。早朝、ヨットを見に行くと船上で寝そべる髪の長い美しい女(筑波久子)がいた。問い詰めると、魚を素手で捕獲し、食べたという。怪しいが美しい筑波に強い事は言えない。漁師村では生け簀の魚が荒らされる事件が起きる。更に漁師の一人が行方不明となる。いなくなる直前、髪の長い女と一緒だったらしい。翌日、川地が自分の部屋に帰ると、筑波がいる。「どこから入った?」と尋ねると、「窓から。」と答える。窓の外は崖。下は海である。その日は川地の部屋に泊まるが、女に免疫の無い川地は何も出来ない。翌朝、筑波に導かれるように、海へ行く川地。岩場で内田に会うのだが、筑波を見て何故かギョッとする内田。筑波と海へ潜る川地は巨大な鱶を目撃する。更に海底で行方不明になった漁師と思われる二の腕を発見する。漁師村へ知らせよう、と言う川地に「その必要は無い。あの漁師は殺されても仕方の無い事をした。」とワケの分からない事を言う。村へ知らせる川地。村の源爺(横山運平)は筑波を見て何故かギョッとする。犬も筑波に猛然と吼える。筑波も横山を知っているのか?避けるように姿を消す。漁師の藤作(浜村純)も何か知っているようで、川地に筑波の素性を尋ねるのだが、何も知らない川地は適当にゴマかす。川地は水谷の仲間のガンちゃん(武藤章生)たちと山へ行く。筑波が気になる川地は気が進まないのだが、以前からの約束なので仕方が無い。川地と入れ替わりに水谷が別荘にやって来る。プレイボーイの水谷は筑波をヨットに誘うが、嵐に巻き込まれ水谷は死んでしまう。一緒に乗っていたはずの筑波は行方不明。浜辺に打ち上げられたヨットの残骸、内田がやって来て、「兄さんが筑波と一緒に海へ出た。」別荘に帰ると犬が吼えている。まさかと思って部屋に行くと、筑波がいた。無事だった事を喜ぶ川地と抱き合い接吻、ベッドへなだれ込むが、横山や浜村、榎木兵衛、草薙幸次郎等、村の漁師たちがやって来たため窓から逃げてしまう。横山たちは川地に「筑波の居所を教えろ。」横山の話では筑波は鱶の化け物だというのだ。横山が若い頃、横山の兄が鱶を殺した。筑波はそのツガイの鱶らしい。筑波は横山の兄を殺し、浜村の弟、その息子を殺していたのだ。本間の話では川地が山に行っている間、川地の部屋に筑波が来ていた気配があった。朝、部屋に行くと床が塩水で濡れていたらしい。川地は筑波を逃がそうとする。ヨットで逃げる約束をする川地だが、本間に喋ってしまったため、部屋に閉じ込められてしまう。夜11時、猟師たちは川地のヨットに隠れて筑波を待つ。緊迫の時間が過ぎて筑波が泳いで来る。上がってくる筑波を漁師たちがモリで刺す。傷を負った筑波は鱶に姿を変えて海の中に消えてしまう。部屋を脱出した川地が駆けつけると、ヨットには血がベットリ。「人殺し!」と叫ぶ川地に横山は「この血は人間のじゃねぇ。魚の血だ。」泣き叫ぶ川地。筑波がいなくなり、意気消沈の川地は東京へ帰ろうとする。道で内田と会う。初めて筑波を見たとき、鱶に姿を変えたのを目撃したというのだ。今でも信じられないという川地に「君が見たのは本当だった。あの子は本当に君のためにいたのだ。君は選ばれた人だったのだ。美しい夏の夢だったんだ。」。筑波を求めるように海底を彷徨う川地の姿にエンドマーク。
 石原慎太郎原作の『鱶女』を映画化。太陽族ホラーとでもいう作品。今ならCG使って筑波久子が鱶に変身するシーンでも作るところだが、そういうのはありません。しかし怪しい雰囲気万点で、鱶の化身を演じた筑波久子の魅力爆発!ナイスバディで美人、色っぽい筑波久子でオイラは勃起してしまった。出来ればもっと川地との濃厚なシーンを期待したいが、この時代の作品では無理(残念!)。不気味なのは内田良平である。ニヒルな殺し屋役の多い内田がここでは神経質な小説家?を演じているのだが、何かを拭い取るようにいつもハンカチで顔を拭っている。ところがラストで「あの子は本当に君のためにいたのだ。」と励ます時は、ビシッと糊の利いた浴衣を着て、憑き物が取れたようにシャッキッとしているのだ。不気味度満点!この人は一体何だったの?難を言えば、川地の家は金持ちだが複雑な家族関係らしいのだが、その辺にあまり時間を割いていないので、設定が説明不足という点か。おかしいとは思うものの、惚れた弱みで庇ってしまう川地が演じた俊夫の気持ちは、王者のオイラには理解できる・・・トホホ。
(2005年1月28日記)

        学生心中(54年99分白黒 脚本・八住利雄 監督・森永健次郎)
 
眞樹茂(木村功)は建築学科の学生。同級生の秋岡五郎(織本順吉)、木山伸二(中原哲七)と中原の兄・木山圭太(小林桂樹)が現場監督をしているダム工事現場に見学に行く。木村は元気が無かった。両親のいない木村は田舎で墓参りに行ってきたところ。父は戦死。母親が木村を育ててきたのだが心労で他界していた。木村は父の弟で大会社の社長をしている浜本寛治(宇野重吉)の家で世話になっていたのだが生前、宇野は木村の母親に求婚していた事実を知ったのだった。元気が無かったのはそのため。一人山道をさまよう木村は山小屋で歌を歌いながらやぎを散歩に連れている宮比佐子(宮城野由美子)と出会う。宮城野は麓のよろず屋の娘だった。東京に帰って来た木村だが宇野と母親との事がしこりとなり木村は宇野の家を出る。木村に惚れている宇野の娘・節子(遠山幸子)は引きとめるが宇野は織本の下宿に転がり込む。織本は苦学生でアルバイトに明け暮れる毎日。金持ちの宇野の家を出た木村を「贅沢だ。」と責めるが中原は桂樹に頼んで丸の内の工事現場のバイトの世話をする。現場監督の大磯(田島義文)は最初ひ弱な木村では務まらないと断るが、責任者の高山(河上信夫)は木村の叔父が会社の大株主でもある宇野と知り内勤の楽な部署に入れようとする。それを嫌がった木村が気に入ったのか田島は木村を現場仕事に雇い入れる。田島は口は悪いが面倒見の良い男で何かと木村を気にかけてくれる。ある晩、木村は田島に連れられてキャバレー・ZAZAに行く。そこのホステスに宮城野がいた。大学の卓球部の試合を観に行った木村は選手として活躍する宮城野を見る。宮城野の実家は貧窮しており地元の有力者から借金をしていた。そのために宮城野は学費や生活費を稼ぐために夜はホステスをしていたのだった。これがきっかけで二人は付き合うようになる。宮城野は京子(南寿美子)と暮らしていた。下宿のおばさんの息子・龍一(金子信雄)は暴力団さくら組のチンピラで時折、家に帰って来ては宮城野にチョッカイを出す。宮城野は粗暴な金子を嫌っていたのだが金子は宮城野に惚れているようだ。恋仲となった木村と宮城野はデートを重ね愛情を深めていく。デート帰りに独り夜のお堀端を歩く木村を金子が襲う。後ろから棒で頭を殴られた木村は重傷を負い宇野の家に担ぎ込まれる。当初、大した事はないようだったのだが日が経つにつれて眼の調子がおかしくなる。その頃、織本は相変わらずバイトに追われていた。ワニの着ぐるみを着てビラ配りをしたりヌードモデルの勧誘に学内で女学生(絵島美紀)に声をかけるが断られたり。織本は吉井教授(美川洋一郎)に呼び出される。バイトばかりの生活ながら成績優秀の織本は教授から大学院行きを薦められる。金子に殴られた後遺症で木村の目がついに見えなくなる。遠山は宮城野に「目くらになった木村の面倒を経済的に見られるのは自分だ。」と宣言する。金子は宮城野の部屋に押し入る。宮城野を強姦しようとするが失敗。この時、金子は宮城野に「木村を襲ったのは自分だ。」と吐露する。木村は目の手術を受けるが治らない。多少は視力が戻ったようだが?女中・みつ(柳恵美子)が「また目くらになる。」と口を滑らしてしまう。ショックを受ける木村は失踪する。宮城野の義母が上京してくる。「家の借金のかたに有力者の家に嫁に行って欲しい。」。雪の中、失踪した木村は桂樹の工事現場の事務員(小田切みき)から宮城野が結婚すると聞かされる。絶望した木村は初めて宮城野とあった山小屋にやって来る。小田切から木村らしい男が来た、と聞いた宮城野はもしや、と山小屋にやって来る。抱き合う二人。木村の目は完全に見えなくなっている。お互い自殺を覚悟していたのだが抱き合い接吻をした二人。「私はアナタの目だから・・・」一緒に生きて行こうと思い直す。下山しようとするが外は猛吹雪。道を知っている宮城野は助けを呼びに行こうと一人外に出るのだが途中で力尽き倒れてしまう。目の見えない木村は不安になり外に出るのだが倒れてしまう。朝、雪が止んでいる。宮城野が倒れている。その横には木村。二人とも死んでいる。新聞には“学生心中”の見出しで報道される。丸の内の現場事務所で二人の死を嘆き悲しむ桂樹、田島、織本、中原。事務所の外に出る田島。丸の内の現場が映りエンド。
 『かくて夢あり』に続く製作再開した日活2作目の現代劇。出来の方は平凡なもので特筆すべきものはない。99分という時間は退屈だった。小柄で華奢な体格の木村は病弱な二枚目役が似合う。困りごとがあると泣きそうな顔になるので田島に「そんな顔をするな。」と注意されていた(笑)。
(2003年9月24日記)

        「キャンパス110番」より 学生野郎と娘たち(60年90分白黒 原作・曽根綾子 脚本・山内久 監督・中平康)
 羽田空港、真木(仲谷昇)博士が帰国。芳土大学理事長・長岡(清水将夫)が大学テコ入れのために学長に迎え入れる。麻雀荘“共存クラブ”の2階にある学生・奥山(伊藤孝雄)の部屋が皆の溜まり場。伊藤は成績優秀だが苦学生。山本(長門裕之)は新劇の演出家志望。吉野(岡田真澄)は学生ながらレンタルバイク屋・『海賊クラブ』を経営している。麻雀ばかりしている市会議員の息子・黒川(武藤章生)。行動派のノエミ(中原早苗)。伊藤の恋人でクラブ・CARZUCA CLUBでバーテンをしている晃子(芦川いづみ)の他、由枝(清水まゆみ)が主だったメンバー。共存クラブの店主・完三(殿山泰司)、その妻・タケ子(賀原夏子)の娘・笹子(安田千永子)は惚れっぽく浮気性ですぐに男とくっついて結婚&離婚して出戻ってくる。芦川はCLUB経営者のドラ息子・靖夫(波多野憲)に付きまとわれる。芦川も苦学生で学生寮に住み毎日学校とクラブでのバイトに追われていた。この頃、全国で大学生は毎年13万人が卒業するものの4割は就職出来ずにいた。学生たちは大学に行くものの何のために通っているのか分からない状況だった。長門は芦川や中原、岡田たちに出資させて作った映画が売れずに皆から吊るし上げを食う。おまけに長門は映画部の金も使い込んでいた。長門はOLから大学生になった西怜子(楠侑子)から金を借りようとする。楠はOL時代に貯めこんだ金で大学に行き学生たちに高利貸しをして稼いでいた。その冷酷な手口から通称・「金貸し婆さん」と呼ばれていた。しかし楠からの借金は中原たちに止められてしまう。殿山はその金を立て替えてやることで長門を安田と結婚させようとする。背に腹は変えられない長門だが安田との結婚は嫌。ところが安田は長門に「妊娠した。」と偽る。観念した長門は安田と結婚する。理事長のパーティが行われる。出席した学生たち。パーティ会場の隅で岡田は中原たちに「女たらし!」と吊るし上げを喰う。岡田は中原の他にも海賊クラブで働く女の子にも手を出していたようだ。新学長の仲谷は「大学は就職予備校ではない。」やる気のある学生を選別するために授業料4割アップ宣言をする。長門は結婚したものの安田の浮気癖に悩まされていた。学校へは行かずに安田の監視をしながら脚本・「呪われた青春」の執筆をしていた。中原や伊藤たちは授業料4割アップの反対運動を起こす。保護者の7割の反対署名を仲谷に叩きつけるが仲谷は動じない。「就職に影響するから反対運動は止めるように。」冷静な仲谷。他の学生たちも就職に影響する事を考えて伊藤たちについて行かない。運動は消滅してしまう。女子寮では盗難が頻発していた。犯人は寮生の渡辺(役者名忘れた)。生活苦のための窃盗だった。芦川はバーテンからホステスになる。波多野は芦川に『仕事を世話する。』とホテル・築地苑に連れ込み強姦する。この時、芦川は処女だったらしい。この一件から芦川はコールガールに堕ちていく。ある日、伊藤と芦川は海へ遊びに行く。伊藤との会話から芦川の実家は八王子の薬屋だったのだが父親は亡くなり姉は水商売をフラフラしている事が分かる。中原は岡田から呼び出しを受ける。海賊クラブの女の子と横浜南桟橋に行ってみると岡田がいた。海賊クラブを処分した岡田は貨物船に乗ってイタリアに行くのだった。中原たちに見送られて旅立つ岡田。伊藤は仲谷から呼び出しを受ける。伊藤の卒業論文が認められ大学院に行く事を勧められる。しかし貧乏な伊藤は学費を払う事が出来ないため就職を希望する。理想主義ばかり唱える仲谷は伊藤に就職の世話などするわけもない。「しっかりやってください、幸運を祈ります。」と握手するだけ。伊藤は「僕らに必要なのは就職口です。」と訴えても「「しっかりやってください。」と言葉だけ。芦川はおそらくコールガールで稼いだのだろう金を伊藤に渡し大学院に行けと言う。安田は長門の監視をかいくぐりクリーニング屋の若いのと駆け落ちしてしまう。やがて卒業式。式の夜、伊藤と武藤は武藤の父が時々利用している料亭に行く。コールガールを呼ぶのだが現れたのは芦川。驚く伊藤たち。芦川はショックで飛び出してしまう。絶望した芦川は波多野のいるホテルへ行く。好色な笑みを浮かべる波多野を後ろから鈍器で殴り殺してしまう。そして睡眠薬を大量に飲み自殺してしまうのであった。引き取り手の無い芦川の遺体。中原の提案で女子寮で葬式が行われる。清水や仲谷が弔問に訪れる。伊藤は仲谷の焼香を拒否する。「俺たちにとって学費が1000円上がる事がどういう事なのか、あんたには分からないんだ。」日本の大学に失望した仲谷は学長を辞める。芦川の遺体を前に泣き崩れる伊藤を中原が殴り飛ばす。「本当に好きだったのならどうして捕まえとかなかったんだ。ノートばかりこねくり回していただけじゃないか。」中原は大学を辞めてしまう。校門を出て行こうとする中原は願書を取りに来た高校生とぶつかる。「あんたは何で大学に行きたいの?」困った顔の高校生。空を飛ぶ飛行機に「うるさい!ロッキード。」叫んだところでエンド。
 特に主人公を設定しない集団劇とでも言うべき作品。この頃の大学生ってそんなに貧窮していたの?仲谷の理想ばかりで現実性のない学長ぶりにはムカつく。ハードなシーンは無いものの強姦されてしまう芦川いづみは可哀相だ。中原の台詞ではないが伊藤がもう少ししっかりしていれば自殺などしなかったのに、と思う。タイトルから大学生たちの能天気な日常を追う話かと思ったらチョット違うのは意外。岡田や長門、中原の芝居は喜劇っぽいのに湿っぽい幕切れは変な感じ。
(2003年10月15日記)

        影なき声(58年白黒作品、脚本・佐治乾、秋元隆太、監督・鈴木清順)
 松本清張原作の小説を映画化、二谷英明が主演した事件物。新聞社の電話交換手をしていた南田洋子は殺人現場へ間違え電話をした事から、犯人(宍戸錠)の声を 聞いてしまう。しかし捜査は進展せず、事件は迷宮入り。南田は寿退社をする。 数年後、記者の二谷は街で南田を見かける。南田は失業した夫(高原駿雄)を抱えて貧窮しており、交換手時代の生き生きとした姿はなかった。やがて殺人事件が発生、容疑者として逮捕されたのは南田の夫であった。 二谷は高原の無実を証明するため、事件を追う。映画の冒頭で「電話交換手は聴覚が優れている。中でも南田洋子は交換手の中でも声を聞き分ける能力が高い」・・・という二谷のナレーションが入るが、これがストーリーに全く生かされていないのが残念。二谷はかつて南田に片思いしていたという設定もあるのだが、これもストーリーに生かされず、平凡な事件物で終わってしまった。監督は鈴木清順だが、この映画ではそれほどおかしな事はしていない。
(2000年9月30日記)

        カミナリお転婆娘(61年68分白黒、脚本・若井基成、春原政久 監督・春原政久)
 江口鮎子(清水まゆみ)は大企業・江口商事の社長令嬢だがカミナリ族。カワサキの125ccを乗り回している。父・増一(坊屋三郎)、母・直江(三崎千恵子)から見合い話を勧められているのだが、清水にはその気が無い。見合いの相手はチキンラーメンでお馴染みの日清食品の次男坊(タイアップか?)。まだ30歳前でやり手の課長らしい。東京駅前の公衆電話から、見合いを断る算段を親友で酒屋・尾張屋の娘・堀尾ミチ子(千代郁子)と長電話。清水は「自分の恋人は自分で選ぶ主義」。電話を終えて、受話器を戻すとお釣りの10円玉が大量に出てくる。止まらなくて困っているのを後ろで待っていた三村幹夫(沢本忠雄)が電話機を叩いて止めてみせる。清水は溢れた10円玉を沢本と分けるのだが、自分のバイクと間違えて沢本のバイクで行ってしまう。あわてた沢本は清水のバイクで追いかける。日劇前を走る東京高速道路株式会社の路上で追いついた沢本に、ナンパと勘違いをした清水は悪態をつくが沢本は爽やかにあしらってみせる(沢本は去り際、清水に片手を振って「チャオ!」・・・笑)。清水は千代の他、歯科医をしている矢崎弥生(小桜京子)と見合いをぶち壊す計画を立てる。それは清水が他に恋人を立てるというものだった。そこで思いついたのが昼間出会った沢本。爽やかな沢本に一目惚れした清水は千代、小桜の協力を得て沢本を探す。手がかりは清水と同じカワサキの125ccに乗っている事。ヘルメットに書かれたイニシャルがM・Mという事だけ。早速、陸運局で登録者の住所を調べ、しらみつぶしに当たっていくのだが、中々見つからない(同姓同名の役で左朴全がいた)。その頃、沢本は西銀座5丁目にある馴染みのバー・黒猫にいた。日清食品の社員の沢本はバイクで営業に回っている。バーテンの井上金太郎(大泉滉)とは仲が良いらしい。沢本はバイクなので酒は飲めない。代わりに飲むのは「蛇口ストレート」・・・水道水である。夜、帰宅した清水は両親に見合いはしない、と宣言。祖母のミヤ(藤村有弘)は清水の味方。藤村は若い頃、死んだ旦那と西部に駆け落ちをした事があるらしい。清水は沢本が見つからないために、ニセの恋人を立てることにする。相手は千代の知り合いの店のバーテン。偶然にも大泉であった。藤村の手引きで坊屋と三崎を日比谷公園に誘い出し、二人の見ている前で大泉とイチャついてみせる。この事で見合いは中止となる。元々、清水の見合いの相手・・・日清食品の30歳前のやり手課長というのは沢本であった。沢本も父親から見合いを勧められていたが、「自分の妻は自分で探す」と突っぱねていた。沢本も清水の事が忘れられずにいた。お互いに見合いの相手同士だと知らずに大泉を中継してすれ違いをしていたのだ。清水は休日に沢本を探しに多摩テックのモトクロス場に行く。沢本も清水を探して多摩テックに来ていた。しかしお互いに微妙なスレ違いで会う事が出来ない。偽の恋人を演じたのがきっかけで清水に惚れた大泉は、沢本に頼んでラブレターを代筆してもらう。行動や言動がどこかヘンな大泉に、坊屋も三崎も清水の相手として・・・江口商事の未来の社長として不安を持っていたのだが、沢本の書いたラブレターはキチンとした内容だった。内容に感動した坊屋と三崎は大泉と清水の結婚を了承する。そんな事は知らない清水は沢本探しをしていた。藤村から大泉との結婚が決められた事を聞いた清水は驚いて大泉の所に向う。大泉は日清食品の慰安旅行に同行、箱根に行っていた。坊屋、三崎は箱根へ向う。清水、千代、小桜たちも藤村を乗せてバイクで箱根へ向う。箱根までもう少しという所で、清水たちは食中毒で動けなくなった園児の乗った相模鉄道の観光バスと遭遇する。運転手、ガイド、乗客の子供たち全員が食中毒になっていた。清水たちは自分たちでバスを動かそうとするが上手くいかない。そこへ偶然、バイクに乗った沢本が通りかかる。再会した二人は協力して医者を呼び園児たちを救う。そして二人は箱根のホテル・小涌園へ乗り込んで、それぞれの両親の前で恋人宣言、お互いに見合いの相手だと分かり結ばれるのであった。ガックリした大泉だが、藤村に「そのうち私が良い娘を世話してやる。」と慰められる。ラストは園児たちに見送られた沢本と清水がバイクで走り去り、芦ノ湖をバックにエンドマーク。
 春原監督お得意の喜劇映画。すれ違いの沢本と清水は良いのだが、二人の結びつきが余りに安易。でもそれを言ったら、映画は成り立たないネ。清水の祖母が藤村有弘なのは笑える。この映画が製作された頃は、多摩テックにはモトクロス場があったのは貴重な資料映像だ。しかしこの時代は現在のような本格的なモトクロスマシン&オフロードマシンが無かったために、走っているバイクはスーパーカブに毛の生えたような普通のバイクばかりだ。主役の清水まゆみは日活ヒロインとしては和田浩治の相手役くらいしか目立つ活躍が無かった人だが、SPとはいえ主演作品で観るとワイルドな魅力タップリで思わず、じょんじょろりん!!
(2005年11月6日記)

        関東無宿(63年、脚本・八木保太郎、監督・鈴木清順)
 56年製作の『地底の歌』の再映画化。主人公・鶴田光雄(小林旭)、伊豆組長(殿山泰司)、殿山の娘(松原智恵子)、松原の友人・花子(中原早苗)、ダイヤモンドの冬(平田大三郎)、辰子(伊藤弘子)、吉田組長(阿部徹)、おかる八(伊藤雄之助)が扮した。堅実な野口博志作品に対し、清順作品はストーリーだけ守っただけで登場人物それぞれを自由に遊ばせている感じ、旭の眉毛が異常に濃いメークだったり、中原が男好きな感じで良い味だしているし、何と言っても殿山泰司の俗物ぶりが楽しい。深作欣司監督の名作・『仁義なき戦い』の金子信雄を彷彿とさせる。旭が賭場で人を斬ると襖が倒れ真っ赤なホリゾントが現れるシーンは有名!しかし登場人物に魅力を持たせた反面、侠客の虚しさという面が前作に比べ中途半端になってしまった。
(2001年5月2日記)

        硝子のジョニー野獣のように見えて(62年白黒、脚本・山田信夫、監督・蔵原惟繕)
 稚内の漁村の娘・深沢みふね(芦川いづみ)は知的障害者だ。芦川はいつか不幸な自分をジョニーという男が救いに来てくれるという夢を信じている。貧困のために人買いの秋本孝ニ(アイ・ジョージ)に売られるが、一緒に売られたよしえ(和田悦子)と脱走、和田は捕まるが芦川は列車に飛び乗り脱走に成功する。無賃乗車の芦川は列車の中でジョー(宍戸錠)に助けられる。宍戸は元々は名の知れた板前だったのだが、競輪にとり憑かれて予想屋をしながら若い競輪選手・宏(平田大三郎)を後援、二人で各地を転々としていた。しかし平田は競輪を辞めて恋人・和子(松本典子)と暮らす事を考えていた。自分を助けてくれた錠をジョニーと思い込んだ芦川はどんなに邪魔者扱いされても錠について行く。錠は渋々ながらも芦川の面倒を見たり、追って来たアイ・ジョージからも守ってやる。しかし平田売り出しに金の要る錠は女郎屋の女将・おきく(武智豊子)に芦川を売ってしまう。平田は錠が芦川を売って作った金を持って松本典子と逃げてしまう。平田に去られた錠は生活のために再び板前になるが、無気力な日々を過ごす。芦川は武智の店を脱走するが、アイ・ジョージに捕まってしまう。アイ・ジョージは人買いのトラブルから駅で刺されて重傷を負う。入院したジョージは人身売買の罪で警察に捕まってしまうのだが、ジョージに同情した芦川はつきっきりで看病をする。ジョージは元は流行歌手だったのだが、家出した愛妻・千春(桂木洋子)の行方を捜すために流しのギター弾きとなり落ちぶれて人買いになった事がジョージの口から語られる。退院して逮捕される日に刑事から桂木の行方を聞いたジョージは刑事を殴り倒し脱走。桂木のところへ向かう。桂木は場末のバーの酌婦をしていた。失踪した理由は自分に対するジョージの重い愛情に疲れたためだった。ジョージが脱走して再び独りぼっちになった芦川は線路を歩いて稚内の生家に向かう。線路上で行き倒れになった芦川は国鉄?警察?に保護されて稚内の生家に送られる。しかし家は廃屋となっており、芦川の母親も兄弟も夜逃げして行方不明となっていた。同じ頃、芦川の事が忘れられない錠とジョージは各々、稚内に向かうのだが絶望した芦川は海に入って自殺してしまう。錠とジョージは海に飛び込んで芦川を探すが見つからない。荒れた海岸で立ち尽くす二人。しかしそれぞれの孤独を抱えて二人は別々の道に去っていくのであった。
 人に妻に家族に裏切られた3人の話。錠とアイ・ジョージを日活アクションのヒーローと絡めた見方をして傑作と評する人は多いが、オイラにはそういう難しい考え方は解らない。それでもこの作品は傑作だと思う。3人の 描き訳も見事だし、いわゆる社会のレールから逸脱した3人の姿は中途半端な形でしかレールに乗れないオイラから観て感情移入出来る。特筆すべきは芦川いづみである。いつもはしっかり者のお姉さん役の多い芦川がここでは頭の弱い女性役を好演。目をクリクリさせたあどけない表情は絶品である。どこまでも不幸な姿にチョット泣いてしまったよ。芦川いづみを語る上で外せない作品の一つ。他に競輪場前の食堂の女将で錠に惚れている由美(南田洋子)が出ていた。
(2001年7月4日記)

        川っ風野郎たち(63年88分白黒 脚本・中島丈博 監督・若杉光夫)
 北野あり子(和泉雅子) の家は母・サカエ(三崎千恵子) 、兄・順(山内賢) 、妹・みち子(斉藤洋子) 。父親は事故で死んでしまった。勤め先からは20万円の慰労金が出ただけ。山内は昼は工場勤務。夜は定時制高校に通っている。和泉は高校進学してスチュワーデスになる夢を持っていたが、経済的に進学は難しい。山内はクラスメートの宇田川(北島則男) に誘われ日用品や食料の行商を始める。朝は早いが工員よりも稼げる。売るものを売ってしまえば学校にも通える。進学を諦めた和泉雅子はデパートの就職試験を受ける。勉強は出来るらしく試験は出来たようだが、片親という理由で不合格。自分よりも出来なかった友人が合格していた。自棄になった和泉は山内のクラスメートで不良の松本典(山田幸男) のグループとツルんで夜遊びを始める。
 山内のクラスメートは皆それぞれ事情を抱えている。
 優等生の金子(桝谷一政) は昼は工員だが大学進学を希望して猛勉強中。大学を出て一流企業に就職を目指しているが、仕事中に怪我、指を2本切断してしまう。それでもめげづに勉強に打ち込む。
 松本典(山田幸男) の家は飲み屋をやっているようだが、特に目標もなく仲間とツルんで自堕落な生活をしている。
 山内を行商に誘った宇田川(北島則男) は大会社に就職しようとするが、試験場に行くと試験は既に終わっていた。定時制には受験資格がなかったらしい。仕方なく、まだしばらくは行商を続けるようだ。
 馬場里子(松原智恵子) は土地の有力者・醍醐(松下達夫) の商店の店員。住み込みなので女中代わりに使われて昼も夜もない生活。学校以外で自分の時間もないため部屋を借りて転職を考える。夜、山内の家で勉強する松原との会話を横で寝ていた和泉は聞いてしまう。スネた和泉はその事を友人で松下の娘に喋ってしまう。怒った松下とトラブルになったのだろう、松原は松下の家を出る。松下は学校に圧力をかけて退学。担任の池(山内明) は「条件の良いところに転職するのは当然の事。」 と庇うが、おそらく安い賃金でこき使っていたのだろう。松下は復学も認めないように学校にねじ込む。山内は行商の途中、松原と再会する。八幡? 小岩? の美容院に勤めていた。条件も良いらしく生き生きとしていた松原は定時制に復学したいと言うが、学校には松下の圧力がかかっているから難しい。弱腰の山内に幻滅。喧嘩別れしてしまう。松原はクラスメートに相談。桝谷が生徒会を動かして学校に復学を認めさせる。
 夜遊びをする和泉は山田のグループに乱暴されそうになる。山田が助けるのだが、これが転機になったのか、アメリカ密航を企てる。死んだ父親が買ってくれた英語辞書を手に船に潜り込むのだが、乗った船は国内航路。神戸で捕まってしまう。引き取りに行く山内。和泉に定時制進学を薦め、試験を受けるため自転車に乗った二人が学校に向かうシーンにエンドマーク。

 作品の舞台になったのは浦安近辺だと思う。猫実行きの京成バスが走っていたし、誰の台詞かは忘れたが「八幡駅で…」 というのがあった。映画の製作された63年はまだ東西線も京葉線も開通していないので最寄の駅は京成八幡か国鉄・元八幡だったのだろう。和泉の生活する近所には川があって船が係留されていた。

 松原智恵子は山田幸男に誘われて入った喫茶店で週末だけバイトしている和泉雅子と会うシーンがある。和泉雅子と松原智恵子。『君は恋人』 以外で、この二人が共演しているのは、もしかしてこれだけではないのか? この二人が同じフレームに収まって台詞のやり取りをするのは珍しいシーンであろう。映画の出来としては可もなく不可もない出来。和泉雅子は『非行少女』 の次の作品だったので雰囲気がそのまま、という感じ。

 この頃の定時制の高校は卒業してもあまり良いことは無かったのだろうか? 卒業しても就職できなかったら、という不安を吐露する台詞があった。弱腰の対応に松原は幻滅。行商仕事や和泉の家出で奔走している間にクラスの仲間が団結。復学出来るようになるが、これでは山内の立場ないなぁ。美人の松原が好きだったようだが、これでは相手にされないだろう。弱腰だった山内の気持ちはなんか分かる。
(2010年6月29日記)

        感傷夫人(56年92分白黒、 脚本・寺田信義、 監督・堀池清)
 大学で美術の研究をしている秋山豊(安井昌二)は山岳部の先輩・藤崎の1周忌に呼ばれて新橋近くの藤崎邸に行く。偶然、新橋駅で藤崎の父(宇野重吉)と会った安井はタクシーに同乗して藤崎邸に向う。宇野は未亡人となった妙子(月丘夢路)の行く末を心配していた。月丘は30歳、美貌の未亡人。5歳になる娘・よし子(二木てるみ)がいる。安井と月丘はプラトニックだが互いに惹かれあっていた。1周忌にやって来たのは山岳部の仲間で建築技師の木島昇(宍戸錠)、OLの立松正子(北原三枝)、東山道子(香月美奈子)、関庭左門(清水将夫)の妻・元子(東山恵美子)。宍戸は香月に惹かれていた。北原は以前から安井に惹かれていたのだが安井と月丘が相思相愛ということも感ずいていた。ある日、会社帰りに同僚の男性社員たちとビアホールで飲んだ北原は偶然、安井の姿を見かける。北原は同僚たちと別れ安井に声をかける。二人でビアホ−ルで飲んでから咲子(山岡久乃)のバーへ行く。酔いつぶれた北原を介抱しているうちに安井と北原は欲情のまま関係してしまう。そんな時、以前から病弱だった宇野が亡くなってしまう。宇野は亡くなる前に安井に手紙を残していた。それには月丘と結婚して欲しいと書かれていた。北原との事がある安井は素直に受け入れる事が出来ない。一度は月丘と結婚を考える安井だったが北原が妊娠している事を知り北原と結婚しようと考える。一度は郷里に帰ったのだが独りで子供を生んで育てる決心をした北原は姿を消す。宍戸と香月の結婚披露宴会場にも現れない北原。月丘は会場の入り口で安井に別れを告げ一人、雪の降る町に消えていくのであった。
 安井とセックスをした北原は処女だった設定だが、あんな美人がバージンとは今どき信じられないが56年当時はそんなものなのか?しかし月丘は色っぽいけど子持ちなのは萎えるけど、こういう人妻ものはハマリ役だ。オイラが安井の立場なら迷うことなく北原三枝を取るヨ。しかし一度セックスしただけで妊娠とは命中率高過ぎ!北原は子供を盾に結婚を迫れば良いのにそこまで悪女ではないようだ。でも独りで育てるのは大変だよ(笑)。男女関係の描き方は古臭いし典型的なメロドラマ?三角関係もの?北原か月丘で迷った挙句、どちらとも一緒にならないラストは中途半端で不満が残る。出来の方も平凡。
(2003年7月1日記)