肉体の反抗(57年89分白黒 原作・脚本・陶山鉄 監督・野口博志)
吉行英子(筑波久子)は銀行員。病弱の母親・まさ(鈴村益代)を看病しながら夜はアルサロで働いている。筑波には同じ銀行に勤めている館野一郎(大坂志郎)という婚約者がいる。筑波には高校生の妹・隆子(高木由子)がいるのだが学校へも行かずにフーテンのような生活をしていた。三宮のラーメン屋・万来軒の2階に入り浸りチンピラの一人・ビリー(岡田真澄)に貢いでいた。岡田はダチの保釈金が要ると高木をそそのかし元町の貴金属店で20万円のダイヤを万引きさせるが失敗、警察に捕まってしまう。ショックで鈴村は他界、大坂の父・泰造(美川洋一郎)から婚約破棄を言い渡される。大坂は筑波を励ます。高木は釈放されるが筑波に反抗、家出してしまう。筑波は警察に捜索願を出す。数日後、横浜の水上警察署から連絡が来る。高木の水死体が発見されたのだ。横浜にやって来た筑波は警察署へ。検死の結果、自殺と発表されたものの豊田部長刑事(水島道太郎)は事件に巻き込まれたのでは?という疑いを捨てられなかった。納得できないのは筑波も同じ。警察から出てきた筑波に信子(谷和子)、克子(津田朝子)に声をかけられる。津田?は聾唖者だった。二人は高木の友人。横浜で売春婦をしているのだが津田は男に襲われて?危ないところを高木に助けられた事があった。二人は筑波を若戸町にある自分たちのアパートに招待する。そして知っている情報を筑波に教える。高木は岡田に殺されたのではないか?混血で二枚目の岡田は売春組織でタマ転がしのような事をしていて高木は船で海外に売り飛ばされそうになって海に飛び込んで死んだ、というのだ。筑波は横浜に留まり真相を探る決意をする。銀行を辞め住んでいたアパートも引き払い岡田が来るという伊勢崎町のキャバレーで働き出す。銀行の退職金を届けに来た大坂はバカなことは止めて神戸に帰ろうと説得するが「私は鬼になるのよ。」と答える筑波。店にやって来た岡田に近づく筑波。自分を北海道から家出したズベ公と偽る。岡田は筑波をホテルに誘う。PM11時、山下橋のトーワホテルで結ばれた二人。岡田は筑波に真珠のブレスレットをプレゼントする。それはかつて筑波が高木に買ってやった物だった。偶然、キャバレーで再会した水島も復讐は止めるように警告するが聞き入れない。筑波は岡田と付き合う。砂浜で抱き合う姿を谷と津田に見られる。谷は「裏切り者」と罵り筑波を殴るが無抵抗な筑波。岡田は高木の時と同じように世話になった人の保釈金が要る、と言い筑波を売春クラブに連れて行く。表向きは“ルーブル美術研究所”となっているが2階は売春クラブの拠点だった。ボスは岩本とき(利根はる恵)。筑波はマリという源氏名で売春婦となる。利根には東京で下宿している大学生の息子・通雄(青山恭二)がいた。青山は利根が売春クラブの元締めだという事を知らない。筑波は利根に会いに来た青山を外人墓地で声をかける。喫茶店でお茶、純情な青山は筑波にメロメロになってしまう。翌日、東京駅八重洲口で待ち合わせ銀座でデートする。青山の下宿先の娘・橋本ひろ子(服部千代子)は青山に惹かれていたのだが青山は筑波の虜になっていた。筑波に夢中になった青山は二人で泊りがけで出かける。筑波にプロポーズする青山に筑波は「(自分は)外人相手の高級パンスケ。」と語る。そしてバイラーの靖さん(西村晃)を紹介する。西村から利根の正体を聞いた青山はグレて家出。心配する利根。青山は日活コルトを手に入れてチンピラとなっていた。筑波は青山を操り自分を陥れた岡田を殺すように命令。岡田には青山の話をして揺さぶりをかける。組織のハメット(ハロルド・S・コンウェイ)がやって来る夜、利根は筑波たち売春婦に休みをやる。岡田も来る事を知った筑波は青山に連絡。拳銃を持った青山が乱入、「マリを泣かしたお礼をするぜ!」銃撃戦になる。岡田の弾が利根に当たり利根が死ぬ。水島たちが駆けつけた時、ハロルドは逃走、岡田は死んでいた。青山は重傷を負うが生きている。その光景を外から冷たい視線で見ている筑波。復讐は成功したが青山とのセックスが忘れられない筑波は“ルーブル美術研究所”を整理、売春婦たちや家政婦のオバさんに金を分けて一人で青山の帰りを待つ事にする。そこへ大坂がやって来る。復讐は終わったのだから神戸に帰ろうという大坂に以前、水島に言われた台詞「復讐に体を使うと肉体の抵抗にあう。」と語る。心は大坂だが体は青山を忘れる事が出来ない。「私は汚れた女」と大坂を追い返す。大阪は無言で去っていく。嵐となり泣き崩れる筑波。左手首にしていたブレスレットを引きちぎる。裸になって嵐の中、庭に出る筑波の姿でエンド。
男を操って復讐を果たす女の話。今ならグラビアアイドルを主役にセックスシーンをふんだんに入れてVシネあたりでやりそう。特に記憶に残る作品ではないが57年当時の神戸や横浜の街並みが拝めるのは貴重。筑波久子も美人。しかし筑波が忘れられないという青山とのセックスはどんなものだったのだろう・・・気になる。
(2003年8月13日記)

          ニコヨン物語(56年白黒、脚本・川内康範、井上梅次、監督・井上梅次)
ニコヨンとは日雇い労働者のことである。1949年、第3次池田内閣が戦後の深刻なインフレと失業者対策から緊急失業対策法を作った。東京都は失業対策事業として日雇いの日当を二百四十五円に決め、公共の土木事業を日雇いであてることになる。ニコヨンの由来は100円が二個と、プラス40何円ということからきたそうである。物語は失業して山谷にやってきた大坂志朗がニコヨンとなり働く話し。ドヤで知り合った三國連太郎から貯金や仕事にありつくコツ等のニコヨン生活の知恵を伝授されたり、貧乏に耐えかねて睡眠薬で一家心中を図るが薬を買う金がなくて未遂で終わる親子の話しなどが綴られる。ラストはニコヨン仲間で団結、メーデーに参加するところで終わる。
共演は丹下キヨ子、利根はる恵、殿山泰司、柳谷寛、中原早苗と渋いキャスティング。共産党が喜びそうな内容だが、井上梅次の語り口は手際良く一気に観られる秀作。(2000年11月3日記)

          日本列島(65年白黒、脚本・監督・熊井啓)
1959年、在日米軍通訳・秋山(宇野重吉)は元北海道の女学校英語教師。ある日、宇野は上司のスペンサー大尉から1年前に迷宮入りになったリミット曹長殺人事件の再調査を命じられる。新聞記者・原島(二谷英明)、警視庁刑事・黒崎(鈴木瑞穂)の協力を得て事件を追う。宇野はリミット家のメイド(高山千草)からリミットの日本人妻・小林厚子(木村不時子)の行方を聞き出す。木村はかつての宇野の教え子だった。リミットの死後、落ちぶれて病床に伏している木村は亡くなる間際、謀略組織幹部(大滝秀治)とドイツ製印刷機器の名を口にする。リミットは謀略のための偽札作りに関与していたらしい。下山事件、松川事件・・・・・リミット殺し。全て米国の謀略ではないか?という味付けでドラマは進む。しかし真相が明らかになろうという時に米軍から捜査中止の圧力がかかる。この事で宇野は米軍を辞めてしまう。そんな時に宇野の知り合いのスチュワーデスが殺される。容疑者はアメリカ人牧師・サミエル。麻薬の運び屋を拒否したために殺されたのだ。しかしこれも捜査途中で圧力がかかり、サミエルが帰国。刑事部長(加藤嘉)は警視総監(下元勉)から捜査中止命令を受ける。小学校教諭・伊集院和子(芦川いづみ)の父(長尾敏之助)は旧日本軍少佐で戦時中、偽札作りの技術者をしていた。戦後まもなく謎の外国人の一団に拉致、行方不明になっていた。宇野は単独で事件を追う内に行方不明の芦川の父が組織に加担している事を知る。リミット殺しに関係していると思われる謀略組織の幹部(大滝秀治)の元部下・佐々木(佐野浅夫)も殺され手がかりもなくなってしまうが、芦川の父が沖縄にいるらしいという情報を得て、単身沖縄に飛ぶ宇野。しかし宇野も芦川の父も謎の外国人の一団に拉致、数日後、死体で発見される。全てが闇に葬られようとなるが、二谷は真相解明を誓い、沖縄支局に転勤していくのであった。
吉原公一郎原作『小説日本列島』を映画化。『帝銀事件死刑囚』同様に骨太な作り。実際に起きた事件を上手く絡ませ、米国に弱腰の日本政府の姿を描いた社会派・熊井啓の115分の力作。宇野が教師を辞めて米軍通訳になったのは米兵に暴行され殺された妻の仇を討つためで米国に敵意を持っているはずなのに、あまりその事は描かれない。どこかで爆発しても良かったのに最後まで抑えた演技が印象的。
出番はあまり多くはないが先生役の芦川いづみはキレイだ。宇野の甥っ子に見せる笑顔は実に魅力的。
(2001年8月16日記)

          ニ連銃の鉄(59年白黒 脚本・川内康範、中西隆三 監督・阿部豊)
昭和29年、舞台は函館。鉄太郎(小林旭)は『二連銃の鉄』の異名を持つ鉄砲撃ちの名人。ラッコの密猟で5年間の刑務所暮らしから出てきたばかり。酒場で飲んで流しの演奏をバックに気持ちよく『爆薬が150屯』を歌う。流しに払ったら金が無くなった旭は飲み代を射的屋の親爺(冬木京三)と賭け射的で稼いで支払う。旭は50連発全てを命中させるという神業を見せる。それを見物していた犬養船長(二本柳寛)。二本柳は密輸やラッコの密猟を生業とする通称・地獄船の船長だった。旭の神業に地回りのヤクザ(弘松三郎、他)たちが因縁をつける。素手なら負けない旭だが刃物で刺されて重傷を負う。そこを二本柳とその子分の加藤(近藤宏)たちが助ける。旭が二連銃の鉄だと見抜いた二本柳はスカウト目的で助けたのだ。二本柳たちは旭を雇われマダム・美也子(南田洋子)のいる飲み屋に連れていく。医師(大森義夫)に手当てをしてもらい南田と会った旭は愕然とする。5年前、旭は稚内にいた。旭にはヨシ子(南田・二役)という恋人がいたが、健次(岡田真澄)に強姦されてしまう。美也子はヨシ子と瓜二つであった。この時、旭は強姦された南田に対し「俺を思うなら命に代えても操を守るべきだった。強姦されたお前は健次(岡田)のものだ。」と酷な事を言って別れた(捨てた)のだった。この時、旭は青柳船長(阿部徹)の船でラッコの密猟をしていた。南田を捨てたショックで旭は警察に自首。密猟の罪で逮捕される。阿部たちも逮捕されてしまう。旭はヨシ子(南田)を捨てた事を後悔していると、美也子(南田)に吐露する。翌日、旭は南田にお礼の手紙を書き残し古巣の稚内に戻る。ヨシ子は岡田と一緒になっていると思っていたが岡田は別な女と結婚、稚内で射的屋を営んでいた。岡田からヨシ子は郷里の島に帰ったと聞かされた旭は二本柳に頼み込み船で島に渡る。ヨシ子の実家には美也子がいた。美也子はヨシ子の姉であった。5年前、ヨシ子は島に帰ってくると自殺してしまったのだった。「死ぬことでアンタへの操を立てたんだ。」と言って旭を責める南田だが、旭に惚れた南田は許す。そして旭は二本柳の船に乗りラッコ撃ちの妙技を見せる。旭が帰ってきたことを知った阿部は旭を付け狙う。二本柳の船の乗組員の一人・政(内田良平)はイカサマ賭博を旭に見破られたことで旭を恨んでいた。阿部に情報を流して旭を殺そうとするが返り討ちにあう。旭と阿部はサシで殴りあい旭が勝利する。そして二本柳から船に乗る誘いを断り去って行くのであった。
『爆薬に火をつけろ』同様にこの作品も渡り鳥以前に製作されたもの。この頃の旭映画は物語のパターンも確立されておらずヒロインもルリ子ではない。監督も何故かベテラン阿部豊とスタッフも手さぐり状態だったのか?阿部との一件も殴り合いでカタがツイてしまうのも単純というかこの頃はまだ工夫がない。見方を変えれば旭も阿部も男らしい(笑)。
出演は他に南田の酒場の女給・文子(堀恭子)、その恋人の船乗り・五郎(沢本忠雄)。稚内の酒場のマダムに奈良岡朋子が出ていた。沢本は真面目なのか気が弱いのか博打好き?。すぐに博打をして借金をこしらえて堀や南田に迷惑をかける。こういう役どころは渡り鳥シリーズ以後、ヒロインの兄、等に拡大され悪玉に騙される役として継承される。映画の出来は無難なものであるが、男女関係が現在のものと違い封建的で前時代的。何故、南田が強姦した岡田のものにならなければいけないのか?旭の考え方は理解できましぇん。
(2002年10月8日記)

          人間狩り(62年白黒、原作・脚本:星川清司 監督・松尾昭典)
長門裕之はヤクザの大物、小沢栄太郎を逮捕する事に異常な執念を燃やす刑事だ。長門は幼少時代、 母親を強盗に殺された過去を持つ。犯人逮捕に異常な執念を持つのはこの為だ。知能犯の小沢は取調べの時も警察や長門をあざ笑い、尻尾を出す事はない。しかし口を滑らせて15年前に強盗殺人を犯した事を喋ってしまう。調べてみると時効まで36時間の猶予がある。小沢を逮捕するには共犯の大坂志朗を探して捕まえなければならない。大坂は家族とともに善良な庶民として暮らしていた。大坂逮捕に悩む長門だが、結局大坂を見逃してしまい、小沢を逮捕することに失敗するのであった。長門の恋人に渡辺美佐子。大坂の娘に中原早苗が扮した。渡辺美佐子はかつて長門が手がけた事件の犯人の恋人だった。長門との関係に疲れた渡辺と時効直前の大坂の家族の葛藤を巧みに絡めた刑事ものの傑作。
(2000年12月12日記)