倖せは俺等のねがい(57年91分白黒 脚本・新藤兼人 監督・宇野重吉)
 
工員の須藤五郎(フランキー堺)と百合子(左幸子) はめでたく結婚。4年間貯めた金18万5300円で新居を購入した。新居で過ごす初めての夜、4人の姉弟が押しかけてくる。長女・陽子(高野通子)、一郎12歳(草山英明)、正次10歳(毛利光弘)、道夫6歳(進藤光則)。左の遠縁の子供らしい。向島でバタ屋をしている父親が亡くなって親戚連中は左に押し付けたのだ。全く付き合いのない親戚の子供を押し付けられて困った二人は、親戚を呼びつける。やって来たのは、はげ山(滝沢修)、ちょびひげ(清水将夫)、がま口(武智豊子)、おでこ(北原文枝) 。皆、金持ちなのだが、のらりくらりで子供たちを押し付けて帰ってしまう。フランキー&左は子供たちに住所を書いた紙を持たせ、4人の親戚たちのところに送り返す。工場の仲間(草薙幸二郎、梅野泰靖、高田敏江、中原早苗、他) を呼んで結婚パーティを開き新婚生活がスタート。ようやく静かな生活になった二人だが、後ろめたさが残る。二日目の夜、陽子と道夫だけ戻ってくる。聞くと4人とも親戚の所には行かなかったらしい。大森海岸で寝たらしい。様子を見に帰ってきたのだ。一郎と正次を探しに出るフランキー&左。二人は鶴見銀座の支那そば屋で客(殿山泰司&日野道夫) の前で、得意の落語をやって支那そばをご馳走になっていた。フランキー&左は4人を引き取り、一緒に暮らすのであった。

民芸映画社製作作品なので、顔ぶれがやたらと賑やかだが、特にどうということもない出来。二人きりになったフランキーと左がイチャついたり、食卓を囲むシーンがやたらと長いのが気になる。晩飯も魚を七輪で焼いて、冷たいご飯と味噌汁(味噌汁も温めない) という質素な物。当時の庶民はこれが当たり前だったのだろう。共働きとはいえ、工員の月給では1万円なかったと思う。4年で18万5300円貯めたのだから大したものだ。ロケ地は神奈川県の鶴見辺りらしい。
(2010年6月29日記)

        しあわせはどこに(56年79分白黒 脚本・西河克己、池田一朗 監督・西河克己)
 橋爪淳子(芦川いづみ)は幼い時に父親は戦死、母親は空襲で亡くなった。横浜にいる伯父・省吉(殿山泰司)、伯母・かね(北林谷栄)夫婦に引き取られている。高校卒業後、職探しをしているが両親がいないためか、なかなか勤め先が見つからない。芦川は芝田建設の入社試験を受ける。一次試験はパスし面接に臨むが、親がいない事を尋ねられ好感触を得る事が出来ない。面接会場を後にした芦川は半べそ。廊下でハンカチを落としてしまう。それを拾ったのが、芝田建設の取引先?の矢沢慎太郎(二本柳寛)。面接試験の帰りの電車の中、芦川は持っていたお菓子の箱を松尾吾郎(葉山良二)に取り違われてしまう。葉山の置いていった箱を開けると靴が入っていた。家では殿山が北林に芦川の就職を反対している。殿山は悪い男で、美しい芦川を青線の飲み屋に売り飛ばしてしまおう、と画策していたのだ。芦川に同情した二本柳は専務の芝田(清水将夫)に頼んで芦川を採用してもらう。芦川は専務室の秘書になる。営業の志村徹夫(宍戸錠)は面接試験のときに芦川の美しさに一目惚れしたらしく何かと声をかけてくる。錠は一見、爽やかな男風であるが、実はプレイボーイでイヤな奴(笑)。葉山は芝田建設の設計技師であった。錠の紹介で再会、靴は葉山のところに戻るが、お菓子は葉山は食べてしまっていた(笑)。この事で知り合った二人は惹かれあうが、芦川の先輩秘書の亀井紀代子(堀恭子)は以前から葉山が好きだった。初出勤の夜、錠は芦川と葉山を誘いナイトクラブへ。錠は芦川と踊る。葉山は技術屋だからこういう所に不慣れで、ただ飲むだけ。日曜日、三人は相模湖にドライブ、ヨットに乗ったりして楽しく過ごす。後でそれを知った堀は面白くない。錠の部屋で錠、芦川、葉山、堀で飲むことになる。先に行って準備している錠と芦川。以前から芦川が気になっていた錠は芦川を襲う。そこへ葉山と堀がやって来る。錠の部屋を飛び出す芦川を追う葉山だが、芦川は丁度通りかかった二本柳の車に乗って行ってしまう。二本柳は何か理由があるらしく、何かと親身になって芦川に接する。芦川にフラれた錠は腹いせ?に掘を襲う。堀も葉山が芦川追って行ってしまったので、ヤケになって錠と寝る。一方、殿山は芦川を売り飛ばそうとする。前金を受け取った殿山の後を追った北林はトラックに撥ねられて死んでしまう。病院のベッドの上、死に際で北林は芦川に「母親は生きている。」。北林の箪笥から山根からの手紙が出て来る。芦川の母・文代(山根寿子)は戦時中、疎開した芦川に会いに行く途中、憲兵?兵隊?(高品格)に小屋に連れ込まれ強姦されそうになる。揉み合っているうちに高品の銃が暴発、高品は死んでしまう。この事で刑務所に入っているのだ。殿山はその手紙を取り上げ、芦川を青線に連れて行こうとするが、芦川はやかんのお湯をかけて家出。芦川は北関東刑務所に面会に行くが、山根は3年前に出所して大磯の療養所・愛好園で働いている事が分かる。大磯に行く芦川だが、1年間前に盗難事件の濡れ衣を着せられ、療養所を辞めて行方不明になっていた。途方にくれる芦川は偶然、測量に来ていた葉山と再会。家を逃げ出して住むところのない芦川を自分の下宿に連れて行く。葉山は工事現場で寝泊り、芦川を下宿に住まわせる。この下宿には1階でタバコ屋をやっている大家・たき(田中筆子)がいて、芦川や葉山に親切。葉山は殿山の家に芦川の荷物を取りに行く。興奮した殿山を叩きのめし、荷物を取って帰る葉山。錠から葉山と芦川が同棲していると聞かされた堀は芦川が清水から預かった重要書類を隠してしまう。清水から叱責を受け途方にくれる芦川。隠した書類が重要書類と知った堀は怖くなり、錠に相談。悪党の錠はこの書類をエサに芦川を犯そうとするが、葉山に救われる。葉山には郷里の鳥取の県会議員の娘との見合い話しがあったが、芦川にプロポーズ。芦川は受け入れる。見合い話を断り、芦川との事を実家に報告するために夜行列車に乗る葉山。見送りに来る芦川。偶然、山根と乗り合わせる葉山。葉山は山根を知らないが、山根は芦川に見送られているところを見ているので、葉山の事が気になる。山根は葉山の見合いの相手の県会議員の家で働く事になっていた。葉山の留守中にどこで嗅ぎ付けたのか、殿山がやって来て芦川を連れて行こうとするが、田中の目があり断念。山根の素性に気が付いた葉山は芦川を鳥取に呼ぶ。山根と会った芦川だが、殺人の前科のある自分がいては葉山と結婚できない、と考えた山根は「自分は母親ではない。」と芦川を突き放す。途方にくれて砂丘を歩く葉山と芦川。物陰から見送る山根。東京に帰る芦川だが、ヤクザ(衣笠一夫)が「殿山が交通事故。」と偽り、芦川を誘い出す。芦川を強引に売り飛ばそうと殿山はヤクザ(衣笠一夫、他2人)の手を借り芦川を拉致したのだ。そこへ上京した山根が芦川を訪ねてくる。山根は葉山が自分の前科も全て受け入れて芦川との結婚を決意している事を知って、尋ねて来たのだ。偶然、駅で葉山と再会、2人で芦川のところへやって来るが、田中から芦川が連れて行かれたと聞き、横浜の殿山の家に向う。後から芦川を訪ねて来た二本柳も田中から話を聞いて横浜に向う。殿山の家にやって来た葉山と山根。芦川を人質に抵抗する殿山たちを葉山が叩きのめすが、乱闘の際に殿山に刺されそうになった葉山をかばい、山根が刺されてしまう。そこへ二本柳が駆けつける。殿山たちは警察に捕まる。入院した山根だが、傷は大した事はない。山根は母である事を名乗り二人を祝福。二本柳は山根の昔の恋人であった。二本柳が芦川に親切だったのは、家の都合で結ばれなかった事を後悔して、芦川を自分の娘のように思っていたからだった。ラストは街を葉山と歩く芦川。葉山が芦川に言う。「幸せは苦しみと隣り合わせ・・・幸せは苦しみの中から探し出すもの。」の台詞でエンド。
 この頃の西河克己が得意としたメロドラマなのだが、二本柳と山根の関係、葉山と山根が夜行列車で乗り合わせたり、と設定や展開がご都合主義的。この辺はメロドラマの定石だから良いとしても、最後は葉山のアクションでケリが付くのは安易な気がする。79分でまとめたせいか、出来は平凡。この頃の芦川いづみはまだ後年のお姉さん顔になっていないので、序盤の面接試験で見せる泣き顔はM女的だが、東京駅ホームで葉山を見送る姿などは新妻っぽくて非常に魅力的だ。こんな人が恋人や奥さんなら、この先の人生楽しいだろうな、と考えさせられてしまう。観客にそう思わせる事が出来るのだから、やっぱりこの人は良い女優さんだ(笑)。錠の住んでいる部屋は作りは和室なのだが、テーブルにベッド、ジューサーや酒、グラスなどが充実していて、独身のサラリーマン男性の住む部屋としては豪華。今で言うトレンディドラマに出てきそうな部屋だ。そう考えると、この手の作品は当時の流行の最先端を行っていたのだろう。
(2004年12月29日記)

        地獄の接吻(55年97分白黒 脚本・高岩肇 田辺朝治 監督・野口博志)
 深夜、探偵・志津野一平(川津清三郎)の運転する車に浜崎準吉(菅井一郎)が轢かれそうになる。菅井は挙動不審で何かに追われているよう。保護して自分の事務所に連れて行く。訳を尋ねても口ごもるばかり。そこへ佐川(田島義文)、津田(弘松厳@三郎)ら数人の男たちが乗り込んで来る。菅井を引き渡せと言う田島たちを河津は立ち回りで追い返すものの菅井は姿を消してしまう。菅井の座っていた椅子には手荷物預かり所の札(A−15)が落ちていた。菅井はクラブ・パンドラに姿を現す。ホステスをしている菅井の娘・ゆかり(島秋子)を尋ねてきたものの店の前で会うのを迷っている。店内には新聞記者の楠見信夫(安井昌二)がゆかりに菅井の行方を尋ねていた。「知らない。」というゆかりに「(菅井が)来たら知らせてくれ。」と名刺を渡し去っていく。菅井は造幣局の技術部長でナンバー無しの紙幣1000万円分を持ち逃げしていた。翌朝、新橋の水上バス乗り場にいた菅井から男装のちゃりんこ(スリ)・山本秀子(高友子)が持ち逃げした金の一部10万円をスリ取る。五島巡査(川越一平)に捕まりそうになるものの偶然いあわせた川津のポケットに入れて難を逃れる。これをきっかけに高は川津の押しかけ助手となり事務所に居候を決め込む。夜、事務所に菅井の友人と名乗る老人の変装をした・三田村剛蔵(水島道太郎)が田島たちを引き連れて尋ねてくる。菅井が置いていった札を受けとってくるように菅井に頼まれて来たというのだが川津は菅井本人に渡すと言って断る。水島は引き上げるが高は水島の部下の持ち物をスリとる。電話番号の書かれたメモからクラブ・パンドラを知る川津。パンドラのマダム・戸川由美(利根はる恵)は戦時中に生き別れた妹を捜していた。パンドラは水島たちの隠れ家だった。菅井は水島@素顔に拉致されてしまう。菅井に番号なし紙幣1000万円を300万で引き取るというと菅井は500万でなければ売らないと言い張る。事件を追う安井は田島たちに刺されてしまう。川津の事務所に逃げ込むが彼の左手は義手だった。川津と安井は戦友で戦場で川津は安井に命を助けられた事があった。左手はその時に無くしたものだった。安井は亡くなってしまう。菅井は水島のところを逃げ出すのだが撃たれてしまう。警察に保護された菅井だが記憶喪失になっていた。菅井の娘の島も安井を殺したナイフで刺殺されてしまう。水島たちは菅井を拉致、ナチスの使ったという自白剤を使い紙幣のありかを吐かせる。紙幣は小田急線の世田谷代田駅の手荷物預かり所にあった。しかし預けてあったカバンの中身は紙幣ではなく雑誌。その頃、川津は男の格好をしている高が女だと知り驚く。菅井は自白剤の副作用で死ぬ。川から菅井の死体が上がる。引き上げ現場に駆けつけた川津は野次馬の中に水島@素顔の姿を発見。近づいてタバコの火を借りる。水島は左利き。事務所に来た老人の水島も左利きだったことから同一人物と推理する川津。パンドラにやって来た川津(昼間なのに営業中)。事務室に踏み込む中には水島がいた。取り囲まれて紙幣のありかを尋ねられるが立ち回りとなりこれをかわす。しかし後ろから銃を突きつけられ菅井も閉じ込められていた地下室に監禁される。水島は菅井と同じように自白剤を使って紙幣のありかを吐かせようとするが川津に惹かれていたマダム(利根)が地下室に火を点けて川津を救う。川津の事務所に逃げてきた二人。事務所にいた高と利根はお互いに川津のことが好きなのが分かる。利根は高との会話から高が幼い時に生き別れた妹であることも悟る。夜・事務所に水島たちが乗り込んでくる。撃ち合いとなる。五藤巡査の他、警官隊が駆けつけるが利根は亡くなってしまう。死に際、利根は川津に自分が高の姉だと言う事は高には言わないでくれと言い残すところでエンド。
 『俺の拳銃は素早い』に続く探偵・志津野一平が活躍するシリーズ2作目(全5作)。この時代の探偵活劇にしては展開もスピーディで面白く観られる。パンドラのセットも結構豪華でフロアショーで歌手が歌ったりダンサーが踊ったり、後に裕次郎や旭が活躍する全盛期の日活アクションの片鱗が既に伺える。高友子はこの作品から川津の助手としてレギュラー入り。こういう美人は男装も似合う。しかし事件の依頼があるわけでもないのに事務所を構え車を乗り回している川津はどこから収入を得ているの??菅井の役名はワイズ出版発行の書籍『日活1954−1971』によると“浜崎”になっているのだが映画では“カラサワ”と呼ばれていた気がするのだが再見して確認したいナ。
(2003年8月16日記)

        自分の穴の中で(55年125分白黒、脚本・八木保太郎、監督・内田吐夢)
 
志賀多美子(北原三枝)の父は亡くなり、家は後妻の伸子(月丘夢路)が仕切っている。兄の順次郎(金子信雄)は妻・桂子(利根はるみ)に逃げられ病気で寝たきり。株の売買をしている。株屋の藤田(清水将夫)が出入りしている。志賀家は父の残した遺産を切り売りしている。楽な暮らしではない。北原は月丘に医師の伊原章之助(三国連太郎)との結婚を勧められていた。三国は仕事も出来るが遊び人で女性関係が派手。看護婦(歌川まゆみ)ともデキている。病床の金子の前で月丘を誘惑する始末。北原は女の扱いに慣れている三国が嫌いではないが、月丘との仲を疑っているため、結婚には乗り気ではない。月丘は三国に誘われ食事をしたりするが、肉体関係はない。北原には三国の他に小松鉄太郎(宇野重吉)という男友達がいる。宇野は気楽な自由人。サラリーマンをしていたのだが、会社を辞めてブラッと旅に出たりしている。北原が好きなのだが、気が弱いために求婚できない。北原は月丘に言われて京都に行く。最後の財産である京都の家を処分するためだ。北原は三国を呼び出し、京都行きの列車の中で会う。箱根で降りて一夜を共にする。翌日、三国と別れた北原は一人で京都に行き、財産処分の手続きを済ませる。帰りの車中で旅に出ていた宇野と偶然再会、一緒に東京に帰る。その夜、宇野は酒場で三国と会う。女連れの三国は、北原と箱根で一夜を過ごした事を面白おかしく語ってみせる。憤慨した宇野は三国を殴るが、大柄な三国に払いのけられてしまう。険悪な雰囲気の二人。店のボーイが飛んでくる。宇野は店を出るが、戻ってくる。女と踊っていた三国は軽く身構えるが、宇野は「悪かった」と一言。右手を差し出す。三国は不機嫌な表情で握手するもののお互いに絶交宣言をして別れる。京都から帰った北原。財産を処分して得た金を月丘ではなく金子に渡す。月丘に「自分たちの世話はしないで、実家に帰った方が良い。」 宇野は船会社に職を得て、九州に行くことになる。北原が宇野のアパートを訪ねたときは引越し準備も済んでキレイに片付けられていた。宇野は北原に告白する事なく、九州に行ってしまう。志賀家に逃げた金子の妻・桂子(利根はるみ)が訪ねてくる。今晩泊めて欲しい、利根に未練ありありの金子は病気の体で夜這いをかけるが、拒否されてしまう。既に利根には男がいるようだ。翌朝、月丘に金の無心をしてさっさと帰ってしまう。ショックの金子は危篤状態になってしまう。金子は北原に、家の財産は株で無くしてしまった。家も抵当に入っている事を吐露して死んでしまう。金子の葬式が済み、月丘は実家に帰ることにする。三国は学会で看護婦(歌川)とアメリカへ。一人になった北原。頭上を飛行機が飛んでいきエンドマーク。
 石川達三の原作を映画化。自分の穴から抜け出せない人々を描いた作品のようだが、あまりその辺は伝わって来なかった。三国は嫌な奴だし、宇野は善良なだけ。125分は長かった気もする。毎度の事だが北原三枝は良い。未来的な顔立ち、現代でも通用する抜群のスタイル。この人が出ていると、50年代とは思えない感じになってしまうから不思議。志賀家は渋谷区松濤にあるという設定。家の前は建設中の体育館らしき建物があったがどの辺だろ?
(2007年8月2日記)


        清水の暴れん坊(59年総天然色作品、脚本・山田信夫、松尾昭典、監督・松尾昭典)
 悪徳市会議員を殴って東京に転勤してきた熱血漢のラジオ局のプロデューサー、石松俊雄(石原裕次郎)が麻薬密売事件に巻き込まれたのをきっかけに、麻薬撲滅番組を制作、組織を追い詰めて行く。組織のチンピラに無名時代の赤木圭一郎が扮した。赤木の姉に芦川いづみ、裕次郎の同僚に北原三枝。内容は平凡な明朗アクションだが、テープレコーダを懐に忍ばせ隠しマイクで暗黒街に乗り込むアイディアは面白い。気楽に観ている分には結構楽しめる。泣いたり笑ったりの赤木の表情は魅力的。赤木を観るだけでも一見の価値あり。
(2000年9月23日記)

        邪魔者は消せ(60年83分 脚本・熊井啓 監督・牛原陽一)
 麻薬Gメン・秋津信太郎(赤木圭一郎)が組織に潜入、摘発するまでを描いたアクション物。
羽田空港に降り立った組織の連絡役・志村(待田京介)はGメンの松田(葉山良二)に追われ逃走するが組織の幹部・横倉(内田良平)に口封じのため射殺される。待田から摘出された弾はブローニング32口径。待田は香港の麻薬王グレイグ(ヴェルナル・バーレ)と岩瀬(金子信雄)をボスとする日本の組織との連絡役をしていた。赤木は網走帰りの前科者というフレコミで組織に潜り込み、仲良くなったチンピラの杉田(杉山俊夫)と協力、敵対する組のチンピラ・佐川(野呂圭介)らと賭場で乱闘する。このことで信用を得た赤木は待田の後釜として組織のメンバーに採用される。しかし金子の仲間の真島(清水将夫)の部下で元刑事の長塚(穂積隆信)は赤木の正体に疑問を持つ。警察が金子を内偵していることを知ったヴェルナル・バーレは金子たちを抹殺、証拠隠滅を狙う。麻薬と称し時限爆弾をバレーボールに仕込み部下の三輪厚子(渡辺美佐子)を使って赤木に渡す。ここで穂積と渡辺は葉山たちに逮捕されてしまう。しかしボールが修学旅行の女学生たちのボールと摩り替わったと勘違いした渡辺は葉山に真相を話す。葉山は緊急配備するが本物はやはり赤木の手に。赤木は金子や内田のところに持っていくが、ここで野呂とそのボス・矢部(高品格)が乱入。ボールを横取りしようとするが失敗。ここで高品の口から赤木の正体がバレてしまう。高品は密輸ルートを探ろうと赤木をマークしていたのだ。金子たちの隠れ家を包囲した葉山たちだが赤木がいるために踏み込めない。爆弾の存在を伝え投降するように呼びかけるが逆上した内田は拳銃で金子たちを抑え立てこもる。改心した穂積は葉山の静止を振り切り単身乗り込む。これがきっかけで警察が突入、金子は逮捕される。敵対していた赤木と穂積が和解、握手をするが穂積は内田の銃弾に息絶える。そして内田は葉山に射殺されるのであった。
 序盤はブローニングの弾丸が事件の鍵になるのかと思われる展開。内田のブローニングで赤木と穂積が用心棒としての腕をアピールするシーンがあるのだが、途中でどうでも良くなったようであまりこの辺が出てこなくなる。赤木は主役なのだがストーリーが平板なせいか明確なヒーローという感じがしないのが難。しかも潜入捜査のはずなのに平気で麻薬取締官事務所に出入りしたり、取締官事務所の事務員で赤木の恋人でもある桜井道子(清水まゆみ)も捜査に参加、ホステスとして麻薬組織に関与しているキャバレーで働いているのは何とも不自然だ。爆弾の仕掛けられたバレーボールが女学生たちの手に渡る?のも上手い処理をされていないのでサスペンスを盛り上げる効果はない。クライマックスで隠れ家に金子たちと立てこもった内田が切れて金子との上下関係が逆転するさまも、工夫しだいでは面白く出来たのかもしれないがこれも上手く表現されてはいない。一番マズイのは赤木のライバル的な役を演じたのが穂積隆信だったこと。穂積は良い役者さんだが、日活俳優でもない人にこういう役をやられても違和感しか起きない。穂積は警察官でありながら麻薬組織の手先になったことで逮捕され、妻の高田敏江はそのショックで自殺したという過去を持つ。渡辺美佐子と内通しているという設定。結構、見せ場も多かった。作品そのものは平板で正直、あまり面白くなかった。しかし渡辺から情報を得ようとモーションかけたり、清水とデートをする赤木の姿はちょっとした青春映画を観ているようだ。デートと言えば赤木と清水は主題歌『ふたりの渚』をバックに浜辺でいちゃつく。その際、赤木は清水のオデコにキスをするのだが、「お前ら恋人どうしなんだろ!どうしてオデコなんだよ。」と突っ込みたくなった。まぁ赤木の人気を考えると口づけはマズイか!?ちなみにラストシーンは杉山俊夫らとバイクを飛ばす赤木。赤木は清水とノーヘル二人乗り。この時代はこれがまだOKだった。良い時代だネ。この映画、赤木主演の総天然色作品なのに添え物映画の雰囲気があるのは何故なんだろ?
(2002年3月28日記)

        春婦傳(65年96分白黒 脚本・高岩肇 監督・鈴木清順)
 天津で売春婦をしていた晴美(野川由美子)は友田(杉山俊夫)を情熱的に愛するが、日本で結婚し奥さん連れて戻ってくる。嫉妬に狂った野川は弁解をする杉山と接吻、杉山の舌を噛み切る。野川は杉山を忘れるため、人里離れた慰安所に志願する。野川は「自分の体をいろんな男にぶつけたい。」。軍のトラックに乗せられ慰安所に向かう途中、
八路軍の襲撃を受ける。兵隊が一人死ぬ。このトラックには三上真吾(川地民夫)がいた。川地は大隊本部付の上等兵で、戦闘で負傷して北京の病院に入っていた。退院して戻る途中だった。野川が働く慰安所・日の出館は大隊の兵隊1000人を野川を入れて11人で相手しなければならない。この日の出館は午後1時から4時半まで兵隊、5時から8時は下士官、8時以降は将校の時間。野川は来た初日から働き出す。他の客の相手をしていると、副官の成田中尉(玉川伊佐男)が乱入。先客を追い出してしまう。玉川に噛み付く野川だが、レイプまがいの玉川のプレイに杉山との愛欲を思い出し感じてしまう。玉川は暴力的な男で兵隊は人間扱いしない。野川たち娼婦は犬や猫扱い。威張り散らして嫌な奴なのだが、セックスは上手いらしい(笑)。川地は玉川の当番兵になる。午後1時、兵隊たちが大勢やって来る。殆んど公衆便所状態、一人片付けると、次から次へと相手をしなければならない。野川は娼婦の自分を見る川地の目つきが気に入らない。夜、玉川の相手をする野川。野川は傍若無人な玉川を憎んでいるのだが、体の相性は良いので感じてしまう。野川はそれが悔しい。玉川は自分が憎まれている事を承知している。憎んでいる人間を屈服させる事が快感のようだ。自分には国や軍隊の権威があるので、誰も逆らえないのを知っているので傍若無人。野川は玉川に忠実な川地を誘惑、反抗させて玉川の自慢する権威をズタズタにしてやろうとする。野川は川地を逆レイプしようとするが、「バカにするな。」と殴られてしまう。深夜、外に出た野川は偶然、川地と会う。風邪気味の川地を介抱するのだが、川地が童貞である事が分かる。結ばれる二人だが、真面目な川地は玉川のオキニと関係した事を悔いる。そんな川地を野川は情熱的に愛する。川地の同僚の宇野一等兵(加地健太郎)は反戦思想の持ち主。元は少尉だったのだが、反軍思想で降格。軍法会議に回されても当然だったのだが、それでは部隊に傷が付くので、降格処分になったらしい。木村軍曹(藤岡重慶)にイビラレ、監視されている。中国人慰安婦・つゆ子(初井言栄)と仲が良いらしく、初井のところで思想本を読んだりしている。中国人娼婦は日本人娼婦よりも値段が安いのだが、加地は日本人と同じ料金を払っていた。先発していた分遣隊が八路軍に襲われた情報が入り、玉川の指揮で出撃する。加地は初井に内地にいる親への手紙を託し出撃。駆けつけた時は既に遅く、26名の分遣隊は全滅していた。玉川たちが全滅した26名を弔い、付近にいた中国人を虐殺する隙に、加地は馬で脱走する。野川の仲間の娼婦・さち子(今井和子)に結婚話が来る。相手は開拓農家の息子、もうイイ歳らしいのだが、嫁の来てがないらしい。日の出館責任者(江角英明)は「借金さえ払ってくれれば構わない。」今井もその気になり、明るい雰囲気。自分たちの責任になる事を恐れた玉川は脱走した加地を戦死扱いで処理。淋しい初井は加地の持っていた本を開くと、「理想のつらぬかれぬ国には、いさぎよく別れを告げる」という手紙が挿んであった。夜、玉川が酔い潰れた隙に逢引をする野川と川地だが、夜回りの兵隊たちに見つかり、西側の営倉に入れられてしまう。玉川と寝る野川だが、頭の中では玉川を殺す事を考えてしまう。玉川の刀を手にした時、敵襲を受ける。西側が襲われたらしい。川地は優秀な射手なので、営倉を出され戦闘に借り出されていた。他の兵隊から「あいつは今夜死ぬかもしれない。」と聞いた野川は川地の所へ走る。前線で傷を負い重傷の川地とめぐり合う野川。虫の息の川地と死ぬ覚悟の野川だが、八路軍に捕まる。手当てを受け一命を取り留める川地。八路軍は日本と違い、国際法で捕虜の権利を保障していた。政治部員(下元勉)が「日本人は捕虜で戻ったら処刑される。こちらに協力して欲しい。」。脱走した加地もやって来て説得するが、真面目な(飼い慣らされた)川地は拒否する。野川も川地を説得するがダメ。川地と野川は置いて行かれてしまう。食べ物もなくなり、飢え死にするしかない、野川と川地。そこへ日本軍が通りかかる。保護される二人。野川は日の出館に戻る。川地は軍法会議にかけられるらしい。かけられれば銃殺である。そこへ農家に嫁に行った今井が戻ってくる。嫁いだ農家の息子は狂人だった。「私たち(娼婦)はまともな結婚など出来ない。」。全てに絶望した野川は忘れるために客を取る。客は玉川だった。「俺の顔にドロを塗った。」との側を殴りつける玉川に、野川は川地を助けてくれ、と懇願する。怒る玉川。川地の仲間の兵隊・村木(野呂圭介)たちは「死ぬために帰ってきた。バカな奴だ。」藤岡は「帰る前にさっさと死ね。」。野川は川地に面会に行く。川地は野川から、明日軍法会議にかけられる事を知らされる。川地は「(逃げるから)手榴弾を手に入れて欲しい。」、野川は川地が生きるためなら、と隊本部に行く。玉川に会いに来たと言って潜り込み、手榴弾を手に入れる。玉川は自分たちの成績に傷が付く事を恐れ、川地を軍法会議に連れて行かず藤岡に殺させようとする。その時、敵襲。野川は川地を護送する牧田補助憲兵(高品格)に飛びかかる。川地は高品を殴り倒し、野川から手榴弾を受け取る。野川は川地と逃げようとするが、川地は手榴弾で自殺しようとする。「死んじゃいけない!」と絶叫する野川。川地の表情を見て何かを悟った野川は「私も死ぬ〜!」手榴弾を持つ川地に抱きつき心中してしまう。川地は戦病死として処理される。堤見習士官(平田大三郎)など部隊のエライさんは川地を「日本一の大馬鹿者!」と非難するが、下っ端の兵隊たちは心の中で「川地は勇敢だった。」、「野川は良い体をしていた.」と同情的。ラストは「日本人すぐに死にたがる。死ぬのは卑怯よ。」初井の台詞で終わる。
 野川の演じた晴美は本当に良い女だ。現実にはこんな女は存在しないだろうが、ここまで愛されたら幸せだろう。劇中の初井の台詞ではないが、助かるチャンスは幾らでもあったはず。それでも隊に戻って死んでしまうのだから、川地の演じた三上はバカな男だ。軍隊のアホらしさが随所に出てくるが、これは学徒出陣で兵隊に行った清順監督の経験か?玉川伊佐男の演じた副官・成田はサディストだね。自分は階級が上だから誰も逆らえない。軍隊の権威をカサにしてやりたい放題。こういう野郎は『兵隊やくざ』の勝新にやっつけて欲しいヨ(笑)。でも一般社会でもこういう野郎は多い。だからオイラは組織とか会社とかイヤなんだよ。オイラは脱走した加地健太郎みたいになりたいけど、頭と要領の悪いオイラが軍隊入れられたら、最前線に送られて一発で戦死だろうなぁ(涙)。
(2005年1月19日記)

        勝利者(57年総天然色作品 脚本・井上梅次、舛田利雄  監督・井上梅次  主演・三橋達也)
 
ボクサーの三橋達也はタイトルマッチでKOされて引退、現在は婚約者の南田洋子の父、清水将夫の援助で銀座でナイトクラブ『チャンピオン』を経営している。豪華なナイトクラブのオーナーとして順風満帆の人生。それでもチャンピオンの夢が捨てられない三橋は、イキの良い若者をスカウトしては知り合いのボクシングジムの会長、殿山泰二に預けてプロボクサーにし、チャンピオンを狙わせる。三橋はチンピラボクサーの夫馬俊太郎(石原裕次郎)をスカウトし鍛え上げる。しかし裕次郎と同じように後援していたバレリーナの北原三枝に惚れてしまう。北原は三橋に惹かれていた。この三角関係のもつれから裕次郎は三橋と袂を断ち、所属ジムを移籍してしまう。怒った三橋は今まで撮ってきた裕次郎の試合の8ミリをチャンピオンのジムの会長、阿部徹に渡してしまう。8ミリには『右アッパーを打った時、ボディがガラ空きになる。』という裕次郎の弱点が記録されていた。タイトルマッチ、その弱点を点かれピンチに陥る裕次郎。しかし北原三枝に懇願された三橋は殿山泰二を通して裕次郎に指示を出す。そして見事、逆転KO勝ちを納める。
 この映画の主演は三橋達也だが、裕次郎売出しに貢献した記念碑的な作品。未見の方にはオススメの、よく出来た映画である。
(2000年11月25日記)

        勝利をわが手に・港の乾杯(56年白黒、脚本・中川順夫・浦山桐郎、監督・鈴木清太郎(清順))
 当時の流行歌手・青木光一の歌う『港の乾杯』を主題歌にした65分の小品。元船員の三島耕の弟・牧真介は競馬の騎手だが、ヤクザの芦田伸介の女・南寿美子に惚れてしまう。芦田は南が欲しければ八百長レースをする事を強要する。一度は八百長をした牧だが、2度目を拒絶したためリンチを受ける。そのピンチを救いに三島が乗り込んでくる。クライマックスは錆びれたキャバレーでの三島と芦田の殴り合い。本作の助監督・蔵原惟繕の名作・『俺は待ってるぜ』を彷彿とさせるが、映画の出来は自主映画レベルで殴り合いもチャチ、プロの作ったモノとして観ると全然良くない。ラストは再び船に乗れる事が決まった三島を刑事の河津清三郎が逮捕に来るところでエンド(芦田とその手下を殺したのか?この辺が不明なのには不満が残る。)。
 脚本に浦山桐郎。助監督に蔵原惟繕。河津清三郎が特別出演、おまけに実際はノータッチだったが監修には巨匠・田坂具隆監督がついたという豪華版・・・・なのだがプロットに魅力的なものがなく退屈な作品。大体、三島が船を降りた理由は仲間の不祥事をかばったものらしいのだがキチンと語られていないし、事件の発端は南が牧を誘惑した事だから南は悪女であってもいい筈なのに、普通のヒロインと化しているのも観ていて妙な感じ。この辺の書き方が浦山にしては乱暴だ。(案外、書いてあったのを清順が勝手に変えたのかな?)しかし芦田に追い込まれる牧の心理描写はなかなか緻密だし、本作は鈴木清順(清太郎)監督のデビュー作。それだけでも記録に値する一篇。他に三島の船員仲間に菅井一郎、牧の仲間に佐野浅夫が出ていた。
(2001年4月18日記)

        散弾銃(ショットガン)の男(61年、脚本・松浦健郎、石井喜一 原案・陶山智 構成・松浦健郎 監督・鈴木清順)
 舞台は天竜川の大森林の中にある人里離れた村。この村に散弾銃を担いだ流れ者の二谷英明がやってくる。この村には伐採所があり働いているのは荒くれ者の作業員ばかり、所長の田中明夫も胡散臭い。村には何故か西部劇に出てくるような酒場があり、南田洋子がマダムをしている。この酒場には用心棒・小高雄二がいて、こいつも胡散臭い。駐在所まで20キロあるため、村の治安は保安官の高原駿雄が守っている。高原の妻は何者かに強姦、殺害されていた。高原は妻の仇を討つために志願して保安官になったのだが、非力なために作業員たちから舐められている。村長の浜村純も弱腰で村は無法状態である。伐採所所長の田中明夫は裏では麻薬の密造をしていて村民の佐野浅夫が運搬役をしていた。伐採所の用心棒が江原高志、郷
^治、野呂圭介の3人組。(この3人の悪役ぶりは相変わらずで楽しい。)二谷は高原と同様に恋人が強姦、殺害され、犯人を追ってやってきたのだ。犯人が3人組だった事がわかった二谷と高原は、田中を脅して麻薬を持ち逃げした3人組を追う。3人は麻薬組織のボス・嵯峨善平と取引しようとするが、嵯峨は小高に逮捕される。小高の正体は麻薬取締官だったのだ。二谷は海岸で3人を追い詰める。散弾銃と鉄拳をふるい3人を倒した二谷は警察に引き渡し、村を去って行くのであった。ヒロインを演じたのは我らが芦川いづみ。高原の妹役で出ているのだが大した見せ場はない。
 日本版西部劇とも言える作品で、日本なのに銃を持っていたり山の中なのに酒場があって女や保安官がいるのはどう考えても変なのだが、そう言ったウソを開き直って押し切ってしまうパワーは素晴らしい。映画としては清順らしさは見られないし西部劇としては型どおりだが、その分キッチリとした作りで良く出来ている。山をバックにアコーディオンを弾きながら二谷が歌を歌うシーンはちょっと笑える。
(2001年4月26日記)

        しろばんば(62年白黒 脚本・木下恵介 監督・滝沢英輔  出演・芦川いづみ、島村徹、渡辺美佐子、宇野重吉)
 地方の名家の子供、洪作(島村徹)は曽祖父の妾のぬい婆さんに厳しく育てられている。洪作は近所に住む伯母さき子(芦川いづみ)の事が大好きである。さき子は洪作の母親代わりになって、洪作の面倒を見てくれる。やがて学校の先生になったさき子だが、肺病を患い亡くなってしまうのであった。井上靖の同名小説を映画化。20数年前にテレビ神奈川?で一度しか観ていないので、細部の記憶はない。日活なのに、なぜ脚本が木下恵介なのかも不明。しかし『無鉄砲大将』同様に芦川いづみのお姉さん(伯母さん)ぶりは最高である。オイラも甘えたいぞ!(またこういうパタ〜ン?!) 
(2000年12月11日記) 

        人生とんぼ返り(55年117分白黒 脚本・監督・マキノ雅弘)
 舞台は大正10年大阪。段平(森繁久彌)は新国劇の頭取(雑用係り?下働き?)。元は殺陣師&役者だったようだが今は舞台には立っていない。典型的な髪結いの亭主で女房のお春(山本五十鈴)に食わせてもらっている。亡くなった極道者の友人の娘・おきく(左幸子)を引き取り左は山本の髪結いの店の手伝いをしている。五十鈴は働き者でヒモ状態の森繁の面倒も良く見てくれる。新国劇では初の時代劇『国定忠治』の公演を控えていたが座長の沢田正二郎(川津清三郎)や演出家?の倉林仙太郎(水島道太郎)は立ち回りに納得がいかなかった。リアリズムを重視した新しいものをやりたいのだがイメージが涌かない。殺陣師になって河津たちに認められたい森繁は殺陣のアイディアを提案するのだが「歌舞伎の真似」と酷評されてしまう。劇団の連中とヤケ酒をあおる森繁は地回りのヤクザ(高品格)たちに袋叩きにあってしまう。そこへ通りがかった川津と水島。川津は高品たちを叩きのめす。森繁はこの時の川津の動きをヒントにリアルな殺陣を考える。これが評判になり森繁は殺陣師として活動を始める。新国劇は東京・明治座で『国定忠治』の公演を行う。新国劇では経費節減のため森繁は一足遅れて東京へ行く事になるのだが、『国定忠治』は東京では受けない。一時は大阪で足止めを食う。そんな時、五十鈴の具合が悪くなる。森繁に傍に居て欲しい五十鈴はホッとする。しかし東京に来いという電報が届く。具合の悪い五十鈴だが気丈に振舞って森繁を送り出す。東京ではやはり『国定忠治』が受けなかった。左から五十鈴の具合が悪いから森繁に帰って欲しいという手紙を受け取った川津は森繁を帰そうとするが怒った森繁は劇団を飛び出してしまう。やがて五十鈴は亡くなってしまう。失意の森繁は劇団から姿を消す。昭和3年京都。森繁は中風を患い寝たきりの生活をしていた。左が面倒を見ていたがもう舞台に立つ事は出来ない。そんな時、昔の仲間・兵庫市(森健二)から新国劇が京都で『国定忠治の最後』を描いた舞台を公演する話を聞く。どうしても観たい森繁は森の手を借りて見物に行く。そこで公演されていたのは中風になった忠治の最後を描いた話。森繁の居ない立ち回りはちっともリアルではなかった。それは川津も水島も感じていた事。森繁に帰って欲しいのだが二人とも居場所を知らなかった。殺陣をつけたい森繁は森に使いを頼む。川津から殺陣の依頼を受けた森繁だがもう体がいう事をきかない。病床で森繁は左に「お前は自分の本当の娘だ。」と吐露する。そして左に殺陣を教える。公演直前、森繁の代わりに左がやって来る。左は川津に森繁の殺陣を伝える。それはリアルで素晴らしい物だった。舞台は大成功。しかし森繁はそれを見届ける事も無く亡くなってしまう。悲しみにくれる左や川津たち。左はずっと森繁のことを「大将」と呼んでいたのだが川津に諭され「おとっつあん!」と叫ぶ。ラストは幽霊になった森繁が舞台のそでに立ち河津たちに別れを告げる。そこへやはり幽霊の五十鈴が現れ森繁をあの世へ引っ張っていく。その姿を河津たち新国劇の連中が見送るところでエンド。
 1950年作品『殺陣師段平』をマキノ雅弘が自己リメイク。映画の前半は森繁と山本五十鈴のやり取りが素晴らしい。五十鈴が亡くなってからの後半は森繁の一人舞台。川津や水島は完全に食われていた。上映時間117分と長いが一気に観られる秀作。
(2003年5月16日記)