第15帖

地球を守れ! キングダイバー

 

 

少年時代、特撮モノやアクション物を観る楽しみの一つが、登場人物たちの持ち物をチェックする事だった。とはいえ昔はDVDはおろか家庭用ビデオもなかった。ほんの一瞬画面に映ったのをボクサー並みの動体視力で検知。その勇姿をメモリーしなくてはならなかった。カッコイイ使い方をされていると子供心に「欲しい!」 なんて思ったものだ。特に銃や車、腕時計には注目してしまう。オイラは腕時計大好き野郎。とはいえ専門書もロクすっぽ読んでいないし頭悪いのであんまり詳しくは無い。それでも何となく目が行ってしまう。『青春野郎第9話』 にも書いたが、70年代後半に家庭用ビデオ(ベータマックス) を手に入れた時は、一瞬しか写らない腕時計を何度もリピートして確認したっけ(遠い目) 。実際に商品化されたものを見ると、金も無いのに欲しくなってしまう。

 

ヒーローが使った時計といえば思い出すのは007シリーズか。ロジャー・ムーアが強力磁石付きのロレックスサブマリーナやテレックスの付いたセイコーのデジタル時計をしていた作品があった気がする。最新の『慰めの報酬』 ではダニエル・グレイグはオメガ・シーマスター プラネット・オーシャンを使用しているようだ。原作のジャームズ・ボンドはロレックスを愛用しているらしい。原作といえば大藪春彦の小説で頻繁に出るのもやはりロレックス。『蘇る金浪』 では主人公・朝倉哲也がアメ横でロレックス・オイスターデイジャストを買うシーンが記憶に残る。強引に値切ったので店が保証書を付けないというオチだった。
 ネット社会の現代では携帯やパソコンがヒーローたちの情報ツールだが、昔は腕時計がその役割を果たしていた。時には戦うための武器としても使われていた。この手の作品で登場するのは圧倒的に舶来時計だが、60〜70年代の子供向け作品で頻繁に見かけたのがオリエント製の腕時計。スポンサー提供していたのだろう、オイラの観ていた番組の登場人物たちのほとんどが使っていた。つまりオリエントは地球を守ったエライ時計なのだ!!

 

↑ “スパイキャッチャーJ3” より
「カレンダーオートオリエント  スイマー ワールドトリップ」

 東映『スパイキャッチャーJ3』(65年) でJ3(川津祐介) が愛用の時計は「カレンダーオートオリエント  スイマー ワールドトリップ」 。第4話『SOS火山トンネル後篇』 では竜頭の辺りから針金が出てピッキングに使っていた。劇場版『SOS危機一髪』 では竜頭を回してポチッと押すと爆弾になるという特殊機能を披露していたのも印象に残る。

外側の都市名が書いてあるのは手で回して動かす回転リンクになっている。使い方は知らないが、おそらく都市名を針に合わせて現地時間を調べるというものだろう。内側には24時間目盛りがあるが、24時間針はないのだから意味不明な気がする。それでも文字盤がゴチャゴチャしていると特殊機能が搭載されている感じがしてカッコイイ。スパイが身に付けるのに相応しい時計だ。

 

製造開始は1964年。当時の価格は12000円。都市名表記ではなく経過時間を示すリンクの付いたモデルもあった。これには“ダイバー” のネームが入っていた。ダイバーといっても4気圧防水の性能しかない。当時は防水機能のある時計は珍しくこの程度の性能でもダイバーの名称が使えた。これが内周回転型となり「キングダイバー」 と呼称されるようになる。

 

↑ “光速エスパー” より「AAA−キングダイバー」

そしてこのキングダイバーの代表的モデルが「AAA−キングダイバー」 。東映『ジャイアントロボ』(67年) で登場している。第12話『合成怪獣アンバラン』 では特殊機能こそ出ていないが、ユニコーン機関日本支部の東支部長(伊達正三郎) の左腕に輝いていた。

この「AAA−キングダイバー」 は宣弘社『光速エスパー』(67年) でも使われている。ここでは無線機の役割があったせいか頻繁に画面に登場。盤面に朝川博士(宇佐美純也) の顔が写るのを憶えている人も多いだろう。
 左の写真では分かりにくいが、2時位置にボタンがある。これは日付の早送りボタン。3時と4時の竜頭は、3時位置は時刻あわせ。4時位置は経過時間を計る回転リンクを回すもの。6時位置に見える曜日の早送り機能はないのでこれは時間を進ませて合わせるしかない。このへんは使いにくい。

 

 

発売された65年当時の価格は13000円。裏蓋には潜水士の絵が入っているのだが、これも4気圧の防水性能しかない。このキングダイバーは時代と共にマイナーチェンジを繰り返す。類似モデルも多数出ている。ロボやエスパーで使用された「AAA−キングダイバー」 は曜日表示が6時位置にあるが、9時位置だったり3時位置のモデルもあった。当時は相当な数が出たのだろう。現在でもオークションサイトに出品されていることが多い。ググルと曜日表示の無いものも確認できる。前述したようにこの時計は商品名こそキング“ダイバー” だが、4気圧なので日常防水程度の性能しかない。発売当時は防水機能のある時計は珍しかったらしい。だから日常防水でもダイバーの名前を使う事が出来た。現在はJIS規格準拠200m潜水用防水機能が無いとダイバーとは名乗れないらしい。現在オリエントからはキングダイバーの復刻版が出ている。10気圧防水なので名称はキング“マスター” となっている。ちなみに曜日は9時位置である。

 

キングダイバーは日活映画でも登場。『ザ・スパイダースの大進撃』(68年) の冒頭。スパイダースの面々が税関で係員に「皆さん、おそろいの時計ですね。」 と問われ井上順氏が「日本製オリエント時計・・・」 ムッシュかまやつ氏が「キングダイバー!!」 メンバー全員がジャ〜ンと見せ付けるのだ(笑) 。クレジットを観るとオリエント社は協賛になっていた。録画したDVDの画質がイマイチなので、このモデルは曜日があるのかないのかハッキリしない。あるとすれば3時位置だと思う。

↑ “スーパーロボット レッドバロン” より
素性不明

オリエント時計は70年代に入っても頻繁に登場。宣弘社『スーパーロボットレッドバロン』(73年) ではSSTの隊員たちがはめていた。この時計はキングダイバーなのか。それとも並行して発売されていたクロノエースなのか? ネットのオークションやアンティ-ク時計の展示会でも見かけない。トンボ出版『国産腕時計11 オリエント』 やKKワールドフォトプレス社『国産時計博物館』 にも載っていないので素性が不明なのだ。奇妙なのは回転リンクの目盛りである。写真を見れば分かるが0〜7。60分または24時間を8分割しているのだ。これってどうやって使うの? 『レッドバロン』 では25話『レッドバロン7つの秘密』 で大郷キャップ(大下哲矢) がバロンの改造計画の設計図フィルムを腕時計の中に隠す。それを保積ぺぺ扮する大作隊員にはめさせるのだが、鉄面党に奪われて大郷キャップが命がけで取り返す。こんな重要機密を最前線の隊員に持たせるのは不自然だと思うが、時計の出番があるのは嬉しい。しかし大作隊員と大郷キャップはこの戦いで殉職してしまうのは子供心に衝撃だった。 

 

↑ “電撃!ストラダ5” より
上と同じく素性不明

面白いのは8時と10時位置にボタンが付いている。実際の商品にこんなボタンは付いていない。おそらく何かの機能を持たせる設定で番組スタッフが付けたのだろう。6時位置にある網みたいな柄もマイク&スピーカーという設定で後から付けた物と思われる。スゴイのは文字盤のORIENTの下にSSTのマークが貼られていること。これ風防を外してシールで貼ったのか? それとも書いたのか? こんな一瞬しか写らない小道具にまでこんな細かい作業がしてある。当時は家庭用ビデオもない時代。じっくりと確認する術が無かった。にもかかわらずここまで丁寧に作ってあるとは、スタッフに何か思い入れみたいなのがあったのだろうか? 数十年後にこうやって検証されるとは、当時は思いもしなかっただろう(笑) 。
 左の写真は日活製作のスパイアクション『電撃!ストラダ5』(74年) 。『レッドバロン』 で使用されたのと同型である。これも6時位置に網目の柄が入れてある。第3話『秘密兵器イメージビジョン』 でルナ(小野進也) が回転リンクの竜頭を回すと、セットしてあった爆弾が発火するというシーンが印象に残る。

 

 

 

 

 

 

60年〜70年代のオリエント時計には意味不明の機能の時計が目立つ。他にこんなカラフルなのもある。文字盤にはKDの文字があるから、これもキングダイバーの一つなのか。しかし0〜15秒(分) が20M。30までが30M。45までが35M。45から0までが40M。何のために? どうやって使うのだ? 潜水時に使うのだろうか? でもこの時計も日常生活防水程度の機能しかないのだ。写真の時計はオイラの私物。77年頃に上野のディスカウントストアで購入。バーゲンで9800円だった。これは海外モデルで今も発売されているらしく、時々新品を見かける事がある。

 

 

 

左の写真もオイラのコレクション。下の2つはキングマスター。00年頃に出ていた復刻版。現在発売中のとは色違い。現役バリバリ!
 上の2つが「AAA−キングダイバー」 。右側のは05年にヤフオクでゲットした。輸出モデルらしく曜日表記は英語。オーバーホールにも出したのだが、湿気のあるトコに行くとすぐに文字盤が曇ってしまううえに一日に2〜3分進む。古い国産時計だから仕方ないのかな。

左側のは05年に銀座松坂屋で開催された『世界の腕時計博』 で見つけた。こちらの曜日は日本語表記になっている。前オーナーは大事に使っていたのだろう。傷も少なく程度も良さそうだったので購入。何故かベルトがゴムのものに付け替えられていたので、オリエント社へオーバーホールに出したついでに現行品のステンレスベルトに替えてもらった。こちらは右側のと違い、実使用上は何の問題もない。時々使っては悦に耽けっています。これをすると気分は光速エスパーなのだ(恥笑) 。ただし、もう防水性はないので天気の悪い日は使いません。
 

 

これらの時計は竜頭が大きいうえにあまり堅くないので、服の袖や手袋などに引っかかるとすぐに引っ張られて針が動いてしまう。この辺は気を使ってしまう。ねじ込み式ならこんな事はないのに。唯一の短所だ。


 オリエント時計はセイコー、シチズンに次ぐ“業界の3男坊” なんて言われるが最近はどうなのだろう? カシオの電波時計に押されてはいないのだろうか。輸出モデルが豊富だから海外では強いらしいけれど、少年時代にオリエント時計にロマンを感じたオタク野郎としては心配(笑) 。かつてはヒーローたちの左腕で共に戦い、時にはピンチを救ったエライ時計なのだ。オタク界ではもう少し評価されても良いメーカーだと思う。

 最近のオリエント製品は昔に比べて趣味が良くなり過ぎてきた感がある。余計な機能はいらないから60〜70年代の雰囲気を感じさせる時計を出して欲しい……ホント。