第4話  小さいけれどキレイな劇場  

三百人劇場 (千石)

 

三百人劇場は都営三田線千石駅から徒歩1〜2分、小石川高校の裏にある劇場でその名の通り、三百人も入れば満席になる小さな劇場である。ここは映画館と言うよりも劇団昴(すばる)の常設劇場で、映画だけでなく芝居の公演に使われる事も多い。ここに来たのは1度だけ。1979年5月12日土曜日、三島由紀夫原作の映画を観ている。
『愛の渇き』(66年、監督・藤原惟繕、脚本・藤田繁夫、
 主演・浅丘ルリ子)、
『不道徳教育講座』(59年、監督・西河克巳、
 脚本・窪田篤人 西河克巳、主演・大坂志郎)の2本である。
 当時学生だったから、学校帰りに制服のまま寄ったのを憶えている。しかし劇場の内装とかほとんど記憶にないんだなぁ、これが!。小さいが
『五反田東映シネマ』のようなキレイな劇場だったと思う。品の良い感じのミニシアターってとこかな。この時はたしか、三島由紀夫特集で何日間かに渡って、映画化された三島作品を日替わりで上映していた。オイラは特に三島ファンというわけではない。正直、難解そうな作品という印象しか持っていない。『愛の渇き』は金持ちの年寄りと結婚した若妻の浅丘ルリ子が使用人の石立鉄男と不倫する話。ストーリーにメリハリがなく、夜のオカズにもならない。日活で浅丘ルリ子だから観ただけの作品である。映画としては結構名の通った作品であるが、娯楽性が乏しいのでオイラにとってはつまらない作品でしかなかった。逆に映画としては全く無名の作品である、『不道徳教育講座』の方が面白かった記憶がある。細かいストーリーは憶えていないが(面白かったのなら憶えてろよ!)、白黒ながら毒のある喜劇で映画の最初と最後に三島由紀夫本人が解説者として出演していた。

 

土曜の昼下がり、孤独なオタク野郎のオイラは機会があると映画館にいた。上映時間の都合で家へ帰る余裕が無かった為、ここへは学校帰りに寄った。さすがに浅草のような無法地帯?は制服では行かないが、ここはキチンとした劇場なので、学校帰りでも安心して観に行く事ができた。無名の三島映画の上映会であるから、土曜日とはいえ館内はガラガラだった。そのガラガラの客席で学生カバンを膝の上に置いて、暗闇の中で息を殺してスクリーンを見つめていた。『愛の渇き』の浅丘ルリ子を夜のオカズにするためである(昭和50年代の高校生が浅丘ルリ子をオカズにするなよ!!)。映画の中の浅丘ルリ子の美しい姿を二つの眼(まなこ)に焼きつけていたのだ。当時、オイラはビデオを持っていなかったし、ビデオソフトも現在の様に豊富なラインナップと低価格で発売されていなかったので、銀幕の女優さんの姿を脳裏に焼き付けるしかなかったのだ。しかしこの時、前述したようにオカズになりそうなシーンはなかったのでガッカリしたのを憶えている。映画が終わったのは夕方。あたりは薄暗くなっていた。電車だったし、他に寄るところも金もないので、まっすぐ家に帰ったっけ。

 土曜日、オイラは映画のない時は、まっすぐ帰宅して当時開局して間も無いテレビ埼玉を観ていた。当時のテレビ埼玉は、午後から60年代後半〜70年代のテレビドラマの再放送や日活映画を頻繁に放送していた。オイラのような友達のいないオタク野郎にとって夢のようなテレビ局だった。
何もかもみな懐かしい・・・・by宇宙戦艦ヤマトの沖田艦長

                       

三百人劇場
住所 文京区本駒込2−29−10
電話番号 03−3944−5451