あゝひめゆりの塔(68年白黒、脚本・八木保太郎 岩井基成 石森史郎、監督・舛田利雄)
第2次大戦末期、沖縄の従軍看護婦ひめゆり学徒たちの最後を描いた作品。53年に東映で巨匠・今井正監督が撮った作品のリメイク。リアルな生死描写の今井作品に対し、舛田作品は主演が吉永小百合だからか?青春物的な味付け・・・・それでも充分に泣ける。(実際、オイラは泣いてしまった。)
 出演は浜田光夫、和泉雅子、和田浩治、東野英治郎、青木義朗、小高雄二、渡哲也、二谷英明の豪華キャスト。他に浜川智子、高樹蓉子、音無美紀子、笹森みち子、伊藤るり子
柚木れい子、太田雅子、秋とも子、北島まやのB級女優陣多数出演の大作映画。
2001年3月13日記)

          愛しながらの別れ65年80分白黒 原作・藤原審爾 脚本・国弘威雄 監督・江崎実生) 
森本勝太(浜田光夫) はバー・ジトムのバーテン。マダムの秋子(上月佐知子) は新生会のボス若山(阿部徹) の情婦。ある夜、浜田は上月とはずみで関係してしまう。爛れた生活から抜け出そうと、これを機に店を辞める。アパート多久美荘に部屋を借り、西村家具店に就職。堅気の暮しを始める。浜田はアパートで根岸光枝(和泉雅子) と知り合う。和泉の家はここ管理人をしているのだが、大工だった父は亡くなり、継母・政枝(東恵美子) には西田(近藤宏) という愛人がいる。祖母・カネ(原泉) は寝たきり。兄・利夫(山内賢) がいるが、グレて家出。叶組のチンピラをしていた。浜田と和泉は親しくなり、お互いの事を話すようになる。浜田は4年前に鹿児島から上京。北千住の木工所で働いていた。大学受験を目指していたようだが挫折。バーテンになった。和泉は近藤に夢中の東に代わって、寝たきりの原や幼い妹の面倒を見ている。和泉と付き合っている事を知った山内は仲間を使って浜田を暴行。家具店の前に屯して営業妨害。山内と和泉は兄妹だが、血は繋がっていない。和泉は終戦直後に祖師谷の大工現場で拾われたらしい。山内は和泉が好きなようだが、その気持ちが苦しくてチンピラになったようだ。日曜日、和泉は原に送り出されて浜田と後楽園遊園地でデート。おばけ屋敷に入って盛り上がる。二人は将来を誓い合う。二人で小さくても良いから家具店を開く事を夢見る。帰宅した和泉は東から叱責を受ける。このことで家を出た和泉は浜田のところに行く。浜田はジトムの女給・藤江(茂手木かすみ) のアパートにかくまってもらう。血眼で和泉を捜す山内。二人のことや家のことを話し合おうと、浜田と和泉は喫茶店の二階に東、近藤、山内を呼び出す。激昂した山内と東? 近藤? が言い争いになり、止めようとした和泉が階段から落ちてしまう。足を骨折した和泉は手術、入院となるが、治療費がない浜田。金策に走る浜田。上月に断られ阿部のところに行くが、山内から当たりをつけて叶組との抗争を考える阿部は、浜田に手を貸すように言うが逃げ出す。切羽詰った浜田は、自分を追ってきた新生会のチンピラから奪ったナイフで、通行人から金を取ろうとするが騒がれて失敗。逃走するが通行人や駆けつけた警官に捕まってしまう。強盗未遂で懲役1年4ヶ月の判決を受ける。その事を知らない和泉は病院で浜田の帰りを待っている姿にエンドマーク。

原作は藤原審爾『いつも二人ぼっち』 。終盤、骨折した和泉の治療費を稼ごうと強盗未遂とは無茶な展開。前半の和泉と浜田の描写など雰囲気があって良かっただけに残念。強盗に駆り立てられ、未遂で街を逃げる浜田の姿は、『太陽は狂ってる』 を思わせる。『泥だらけの純情』 の亜流のような作品。原作者は同じだから当然か。悲恋物がラストで破滅型青春映画になってしまった妙な作品。それでも隠れた巨匠、江崎実生監督の語り口は巧みで面白く観られる。
(2010年8月31日記)

          愛情(56年85分白黒 原作・石坂洋次郎 脚本・池田一朗 監督・堀池清)
 画家の成田英輔(清水将夫)は東北の温泉町を訪ねる。ここは20年前に甥っ子・野上太郎(長門裕之)が自殺した町。長門が自殺した梅の木の近くで絵を書いていると松山浜子(現在=坪内三詠子、女学生時代=浅丘ルリ子)に再会する。清水は長門の自殺の理由に心当たりは無かった。坪内は清水に長門との間の事を語り始める。20年前、17歳の女学生だったルリ子は姉・信子(山根寿子)、その娘・澄子(二木てるみ)と湯治に来ていた。長門は平均98.5点を誇る県下一の秀才学生で受験勉強のために旅館に泊まりこみで勉強していた。同じ旅館だった事から仲良くなるルリ子と長門。最初は互いに意識してしまってギコチない。山根は二人の仲を取り持とうとする。一度はケンカしてしまうのだが長門は花を摘んでプレゼント。急速に親しくなる。長門は「親の期待で外交官を目指しているが本当は船乗りになりたいんだ。」と将来の夢を語る。夜、風呂に入っているルリ子たち。女湯がぬるいから男湯に入ろうという事になる。男湯には長門が入っている。混浴となる。山根の亭主・松山圭吉(金子信雄)がやってくる。金子とセックスするので山根はルリ子を長門の部屋に泊めさせる(当然何もなし!)。翌朝、ルリ子の使った枕の匂いをかぐ長門。金子から貰ったという香水の良い匂いがする。長門とルリ子は近くの山(丘?)に登る。歌を歌いながら手をつないで登る二人。樹木の伐採の人夫・小池(土方弘、他)たちにからかわれる。ビビる長門だが怒ったルリ子は土方たちに石を投げる。土方たちに追われた長門とルリ子は運搬用のトロッコに乗って逃げようとする。しかしスピードが出すぎて止まらなくなる。人夫たちに助けられるのだが大騒ぎとなってしまう。人夫の頭の田村主任(田島義文)が旅館に文句を言いに来るのだが絵を描きにきていた清水がとりなし事なきを得る。益々親密になる二人。子供たちの祭りの練習を見物したり梅の木の下でデートしたり歌を歌ったり。そして山の中で抱き合う(キスはなし)。抱き合っている所を山根に見られてしまう。二人の間を心配?した山根はルリ子に長門とは付き合うな、と言う。今まで散々二人の仲を取り持とうとしたのに豹変した山根を不振に思うルリ子。夜、半鐘の音がする。近所の家が火事になる。あわてて外に出るルリ子と二木だが山根の姿が無い。すぐに山根が現れる。「こんな夜中にどこに行ってたの?」とルリ子。山根は同じ旅館に泊まっているお恵さん(藤代鮎子)の所にいたと答える。火事で旅館の人間は全員出てきたのに長門の姿は無い。不振に思っていると長門が現れる。長門は火事を見ながら無言でルリ子の手を握る。ビックリするルリ子。お恵さん(藤代鮎子)は村山泰三(天草四郎)の妾だった。長門との交際を反対する山根を「あれはヤキモチだな。年増女は美少年を可愛がるもの。」と分析。とは言うものの金子がいるのでルリ子を長門の部屋に泊めて欲しい、と山根。夜、悶々とした長門はガマンできずにルリ子にキスしようとする。目が覚めて驚いて長門を拒否するルリ子。「火事の晩、来てくれたじゃないか。」と長門。ルリ子は長門のところには行っていない。ルリ子は藤代の所に行く。「火事の晩、姉(山根)はここにいた?」藤代は来なかったと答える。長門のところにいたのは山根であった。暗闇の中、長門はルリ子と同じ香水の匂いで山根をルリ子と思いこんで関係したのだろう。ルリ子は長門を「汚い!そばに寄らないで!」と非難する。山根を殴るルリ子。雪の降る中、旅館の中庭に立ち尽くし泣きじゃくる。翌朝、急に帰ろうと言い出す山根。金子、山根、二木、そしてルリ子は旅館のバスに乗り帰ろうとした時、清水は長門を呼ぼうと部屋に行く。長門の姿は無かった。机の上に遺書があった。「さよなら、僕は本当に遠いところに行く。僕は外交官にも船乗りにもなれなかった。」ルリ子、バスを降りて長門を捜す。二人の思い出の場所である梅の樹に行くとカミソリで手首を切って倒れている長門の姿があった。ラストは再び現在に戻る。話し終わった坪内、清水は山根の現在を尋ねる。「2〜3年してから恋愛事件(不倫)して蒸発してしまいました。」。清水は坪内に言う。「勉強ばかりで(長門に)負担をかけ過ぎた。(長門は)神経衰弱で死んだ。あなたはそう思わなくていけない。」旅館の者が坪内を呼びに来る。見送る清水、エンドマーク。
 山根は好色な年増女なのだがルリ子と長門を同じ部屋に泊めさせたりと、最初は仲を取り持とうとしてたのに二人が恋仲、それも子供っぽいママゴトのような恋人関係になると、急にヤキモチを焼いたりして石坂洋次郎原作にしては安っぽい人物描写。原作は短編、読んだ記憶があるけどこんな話だったかなぁ、もう覚えていないので不明。作品の出来は大したことはないが今となっては当時16歳の浅丘ルリ子の姿を拝めるだけでも貴重な作品。セーラー服姿のルリ子しゃんは人形のようにメンコイ!これだけでもじょんじょろりん!!
(2003年8月5日記)

          愛するあした(69年82分 脚本・中野顕彰、斉藤耕一 監督・斉藤耕一)
 水沢洋子(伊藤ゆかり)、矢代美智子(松原智恵子)は女子大生。二人の行動スケジュールや盗撮写真は学内で取り引きされるほどの人気者だ。松原には学生運動をしている阿部信一(和田浩治)という恋人がいる。伊藤は潰れかけた孤児院に住み込み。孤児たちの面倒を見ている。松原は海外を夢見ていて世界中にペンフレンドがいる。ある日、その中の一人・宮原咸太郎(中山仁)が日本にやって来る。中山はブラジルの大金持ち。松原に会いにやって来たのだ。中山が日本にいる間、和田に知られないようにするために、松原は伊藤の孤児院に預ける。孤児たちを甲斐甲斐しく世話をする伊藤に惹かれる和田。面白くない松原。二人の関係が微妙になる頃、孤児院の存続が危うくなってくる。和田、伊藤と松原は孤児院存続のためにチャリティコンサートを開く。松原は中山に寄付を頼む。中山は「自分は金持ちではなく、本当はただの船員。」 と言うが、コンサート後にホテルのフロント係(左とん平)が中山に頼まれて手紙を持ってくる。中には多額の小切手が入っていた。中山は本当に大金持ちだった。15時の飛行機で日本を去っていく。伊藤が歌う主題歌『愛するあした』を学生や子供たちと合唱。松原と和田が結ばれるのを暗示してエンド。
 69年5月3日に公開された歌謡青春映画。連休に観るのにピッタリの爽やかな作品。松原智恵子は鼻っ柱の強そうな美人が適役。特筆なのは伊藤ゆかりである。愛らしくて子供たちの面倒を見る姿もハマッている。ワイルドワンズが二人をパパラッチする学生役、他にも曽我町子、杉山俊夫&元兄弟、内田裕也も学生役で出ていた。面白かった。主題歌『愛するあした』は名曲!!
(2008年10月6日記)

          あいつと私(61年、脚本・池田一朗 中平康 、監督・中平康)
 大学生の浅田けい子(芦川いづみ)はクラスメートの黒川三郎(石原裕次郎)と親しくなる。裕次郎の母親・モトコ桜井(轟夕起子)は有名なデザイナー。父親の宮口精二は生活力のない男で主夫をしていた。ストーリーはクラスメートの笹森礼子が結婚したり、60年安保闘争があったり、夏休みに同じクラスの小沢昭一、
伊藤孝雄、中原早苗、高田敏江らと旅行に行ったりというお気楽な(脳天気な)日常が芦川の視点で描かれていく。映画の終盤、アメリカでホテル王となった滝沢修が現れた事で、裕次郎の出生の秘密が轟の口から語られる。20数年前、轟は優秀な子孫を残すために逞しい肉体と明晰な頭脳を持つ滝沢と数日間ベッドの生活を耽溺、裕次郎を身ごもったのだ。裕次郎はその事を知っても滝沢に絡みもせず、腕相撲を挑む程度で終わってしまうのだから大人である。ラストは唐突に芦川いづみと婚約宣言したところで映画は終わる。少年時代の裕次郎の性欲処理係で轟の助手に渡辺美佐子、芦川の妹に吉永小百合(顔見世程度の出番しかないのが残念!)が扮した。
石坂洋次郎の同名小説を映画化。石坂作品らしく当時としてはセックスに対するキワドイ台詞がサラっとした感じで出てくる。原作が長編のせいか映画の方はやたらとテンポが早い。出演者の台詞まわしもこれでもかというくらいの早口である・・・・・この辺は中平らしい。この映画はスキーで骨折した裕次郎の復帰作。61年の興行収入トップを記録した大ヒット作。観ていて楽しい作品。
(2001年3月17日記


          愛と死の記録(65年、脚本・大橋喜一、小林吉男、監督・蔵原惟繕)
広島を舞台にした悲恋物。レコード店に勤める松井和江(吉永小百合)は、オートバイに乗った三原幸雄(渡哲也)とぶつかりそうになったのをきっかけに急速に親しくなる。渡は印刷工場に勤める勤勉な青年であったが、幼少期に被爆した過去を持っていた。将来を誓い合う2人だが、渡は発病し入院してしまう。一度は退院した渡だが、ある日突然症状が再発、再入院した渡は見る見るやせ衰えて息を引き取ってしまう。渡の死後、一度は明るさを取り戻し周囲をホッとさせた吉永だが、渡の後を追って自殺してしまうのであった。渡の上司に佐野浅夫、医師に滝沢修、吉永の義理の姉?(近所の娘かも?)に芦川いづみが扮した。親しくなった2人が広島湾の砂浜で愛を語らうシーンはなかなかロマンチックであった。また吉永の献身的な看病シーンは涙もの。激痛でやせ衰えた渡の体を優しくさすってやったり、千羽鶴を折って全快を祈るシーンはジーンときます。この手の作品はえてして反戦、反核ものに走ってしまいがちだが、本作は吉永、渡の2人に焦点をあてている。結果としてこれは成功で、吉永の献身的な姿が涙を誘った。タイトルの『愛と死の・・・』はおそらく、大ヒット作『愛と死をみつめて』の人気に便乗したものであろう。男が死に、女が生き残る(結局、自殺してしまうが・・・)から、逆パターンだね。
(2000年10月6日記)

          愛と死の谷間(54年117分白黒 脚本・椎名麟三 監督・五所平之助)
竹内愛子(津島恵子)は大澤診療所に勤める女医。津島は黒い帽子をした謎の男に付回されていた。身に覚えのない事で気味が悪い。診療所の経営者の大澤(宇野重吉)は医者ではないので金儲け主義で運営している。宇野は独身だが内縁の妻・望月栄子(高杉早苗)がいる。他には看護婦・今野桃代(乙羽信子)とも愛人関係にあるのだが宇野は医者の津島にもプロポーズしてくる。もちろん津島は相手にしない。黒い帽子の男は高杉に雇われた探偵・風見潔(芥川比呂志)であった。被害妄想の気のある高杉は津島が宇野をそそのかして診療所を乗っ取ると誤解していた。その証拠を掴んで欲しいと芥川を雇ったのだった。津島の身辺を探る芥川だが津島にはそんな素振りは無い。ある日、近所のスラム街・黒川町の少年・和男(桜井将紀)が母親・しず江(田中筆子)が病気だから見てくれと、やって来る。宇野は黒川町の人間は貧乏だから治療費が払えない。診察は断るように言うが、津島は病院とは関係なく個人的に往診に行く。田中の様態は大したことは無かったが、津島が無料で診察してくれた事に気を良くした桜井は次の日から黒川町の人間たちを診療所に引き連れて行く様になる。困惑する津島は初日こそ無料で見るが毎日診察するわけには行かない。次の日からは断ってしまう。怒る桜井は診療所近くの操車場で遊んでいて汽車に撥ねられてしまう。偶然通りがかった芥川が診療所に運ぶ。このことで津島と芥川は親しくなる。津島は自分を尾行していたのが芥川とは気づかない。夜、ビアホールで酒を飲んで波止場をデートする二人。しかしある日、遊覧船に乗る津島は自分を尾行していたのが芥川だと知る。芥川に惹かれていた津島は悩む。そして診療所を辞める決意をする。宇野は乙羽と結婚する事に決める。用なしの高杉は気が触れてしまう。津島と芥川は操車場にかかる鉄橋の上で再会を約束して抱羅、握手をして別れる所でエンド。
出演は他に黒川町の住人でマネキン工場で働く娘・坂田律子(安西郷子@メンコイ)、その母・松代(飯田蝶子)、診療所の医師・松村(伊藤雄之助)。戦前からのベテラン監督・五所平之助が日活で撮った唯一の作品。ストーリーは何という事もない作品で2時間も時間をかける程のものではない。しかし妙に重厚感のある作品。ストーリーの随所に鉄道の操車場が映る。走っているのは全て蒸気機関車。操車場にかかる鉄橋の下を通る度に鉄橋に白煙がかかる。これが日本映画らしからぬ雰囲気を出していた。しかし津島と芥川の具体性の無い男女関係は今日から見るとまるで説得力が無い。また宇野の愛人・乙羽信子は宇野が“軽蔑すべき(乙羽の台詞)“人物なのを理解しているのだがそういうところが好きだという変わった?女。善人役の多い宇野だがこの作品ではセコイ男を好演していた。これといって特徴が無くとらえどころの無い印象の作品。
(2003年7月1日記)

          愛は惜しみなく(67年、脚本・才賀明、丹野雄二 監督・森永健次郎)
『ヤングレディ』誌に連載された川内康範原作の小説を映画化。園まりの同名ヒット曲に乗せて描いた歌謡メロドラマ。山本ミサ(園まり)は洋裁店で働きながら長崎県小浜温泉で人形劇団の劇団員をしている。父親・庄三(佐野周二)と平和に暮らしているが、地元のトップ屋・小原(中台祥浩)が何かとチョッカイを出してくる。そんな時、遠征で九州に来ていた大学ボクシング部員の楠田年男(杉良太郎)と知り合う。杉はアマチュアボクシング界のKOキングの異名を持つスター選手。佐野は中台から園を遠ざけるために東京でデザイナーをしている山本伊津子(鳳八千代)に預ける。 東京で偶然再会する園と杉。定石どおり二人は恋におちる。ある日、大学の学園祭を見に行った園はフォークソングのイベントで歌を歌う。偶然、会場にいた音楽プロデューサー・園井啓介にスカウトされ歌手になる。野心家の杉はボクシング部を辞めプロ入り。二人は愛を育みながらお互いの道でトップを目指す。ある日、杉の前に中台が現れる。中台は園の出生の秘密をネタに杉に八百長試合をする事を強要する。園は私生児であった。園の母親は元は歌手だったのだが、強姦しようとした男を殺して刑務所に入った。そして出所後に戦争で死んだ愛人の後を追って自殺していた。鳳は園の母親の妹だった。赤の他人の佐野が園を引き取り育てていたのだ。流行歌手として成功している園の将来を考えた杉は八百長試合をしてボクシング界を追放されてしまう。更に中台は落ちぶれた杉に付きまとい博打で200万円の借金をさせる。そしてその肩代わりを園にさせて金を引き出そうとする。怒った杉は中台を殴り殺して警察に逮捕される。園の前で連行される杉。園は野次馬や大勢の記者の前で自分の出生を吐露するところでエンド。
中台の徹底的な悪党ぶりはなかなか憎々しいが映画の出来は平凡なもの。園まりはキレイだし歌も上手いのだが、湿っぽい話の合間に園の歌が義理で入る感じであまり面白くない。出演は他に山本陽子が園のスタッフ役で出ていた。しかし石坂洋次郎の『若い人』もそうだったが、60年代までは私生児がそんなに問題だったのか?現在でも良家の縁談や大会社への就職には関係あるのかな?杉の役はボクサーなのにボクシングシーンが殆んどないのはご愛嬌。
(2001年9月11日記)

          青い乳房(58年白黒、原作・一条明 脚本・鈴木兵吾、津路嘉郎 監督・鈴木清順) 
大金持ちの父・大森義夫、若い後妻・渡辺美佐子、息子・小林旭。旭は表向きは継母の渡辺になついているが、実は不良で渡辺から金を巻き上げている。渡辺は8年前、女学生の頃に強姦された過去を持っていた。旭や他の不良たちの溜まり場は池袋のクラブ。ここの雇われマダム・高友子のヒモ・小高雄二が彼らのボス。小高は悪い男で女を強姦してフィルムに撮ったり、旭に知恵を付けて渡辺を恐喝させたりしている。旭は日曜日、池袋東口で女子高生の稲垣美穂子をナンパ、親しくなる。稲垣の家は薬屋なのだが、父は死に母親の初井言栄は若い薬剤師・小沢昭一と出来ている。しかし小沢は金目当てで気持ちは初井には無い。初井と小沢に反発した稲垣は小高のところに入り浸りグレようとするが、根が真面目な稲垣は不良にはなれない。ある日、渡辺のところに画家の二谷英明の個展の招待状が届く。面識の無い二谷の個展に行った渡辺は自分が強姦された現場の絵が飾られているのに驚く。自分を強姦したのが二谷では?と思うのだが、8年前は二谷は外国にいた事がわかり疑いは晴れる。二谷は誠実な男で渡辺は二谷に惹かれていく。小沢の事を稲垣に責められ自分が金づるだという事を知った初井は小沢を殺してしまう。その上、稲垣は小高に乱暴されフィルムに撮られてしまう。絶望した稲垣は自殺しようとするが未遂で終わる。高友子は小高の子を妊娠、男の子を出産する。子供を抱いた小高は改心する。そして稲垣暴行のフィルムを旭に渡す。二谷は小高の腹違いの兄であった。渡辺を強姦したのも二谷で、渡辺に近づいたのは大森の財産を引き出す為という事を暴露する。絶望した渡辺だが、旭や稲垣の励ましで元気を取り戻すのであった。複雑な人物関係。映画の序盤はいわゆる良い子だった旭が不良だったり、良い人だと思われた二谷が悪役で、悪役だった小高が子供が出来ると急に良い人になってしまうなど善と悪の入れ替わりが激しい。58年当時の池袋駅前が頻繁に出てくるのは資料映像としては結構貴重だし、セーラー服姿の稲垣もなかなかメンコイ。小高の撮ったブルーフィルムを旭たち若者が食い入るように見るシーンは、AV時代の現代から見ると不思議な感じがする。タイトルの青い乳房はどこにも出ない。クドイようだが、小高が急に良い人になるのは変だ(笑)。
(2001年4月26日記)

          青空の仲間(55年92分白黒 原作・獅子文六 脚本・品田喜一 監督・堀池清)
隅野東助・通称“南州”(三橋達也)と渡辺半次郎・通称“北州”(伊藤雄之助)は本郷電話局に勤める電話線工事士。毎日電柱に登っては電話線の工事をやっている。二人は幼馴染みで月島?のアパートで共同生活。毎朝電話局まで都電で通勤している。高い所に登っているとイロイロな物が見える。ある日泥棒を目撃。住民たちに追われて隠れているところを警官に教えて手柄を立てる。二人の憧れは行きつけの天狗食堂の娘・お春ちゃん(新珠三千代)。タクシー運転手をしている鈴木英一(宍戸錠)は恋のライバルだ。毎晩仕事帰りに寄るのだが新珠は宍戸と良い感じになっているので気が気でない。公休日に二人は新珠をデート?に誘う。剣劇芝居(浅香光代一座)を観てボートに乗って遊ぶのだが夕方雨に降られてしまう。タクシーで帰りたいところだがもう金はない(二人の給料は1万500円という台詞あり)。そこへタクシーで通りがかった錠が新珠を乗せて行ってしまう。美味しい所を持っていかれ雨の中でずぶ濡れの二人。泥棒を捕まえて金一封が出るという話を聞いた二人は3000円くらいか!?と期待するが貰ったのは300円。またまた落ち込む二人。ある日三橋は服毒自殺を図ろうとした中里梅子(南寿美子)を助ける。数日後、南の母親・よね(村瀬幸子)がお礼に来て家に招待される。南の美しさに魅せられてしまう三橋。南は元は銀座の宝石店の店員だったがダイヤが紛失、その疑いをかけれられて店を辞めたのだった。この宝石店には南の恋人・川村新吉(長谷部健)がいたがこの事件が原因で捨てられていた。しかも宝石の値段10万円弁償も要求されていた。これらの事から自殺を図ったのだった。村瀬が奔走し7万円作ったがあと3万円足りない。出してやりたい三橋だが無い袖は振れない。そんな時、錠を尋ねて天狗食堂に芸者・乙丸(高友子)がやって来る。錠に惚れている新珠は内心穏やかでない。出前に行った時に神社の境内で錠と高が親密にしているシーンを目撃、ショックを受けてしまう。伊藤は仕事で島田代議士(殿山泰司)の家に電話工事に行く。殿山の妻で“大日本婦徳昂揚会”の会長でもある栄子夫人(岸輝子)は長谷部と不倫していた。不倫現場を伊藤に見られたと誤解した岸は長谷部に5万円で口止めするように指示。伊藤に5万円渡そうとする。伊藤は理由も無く金は受け取れないので断ろうとするが強引に金を押し付けられてしまう。困る伊藤だが金は欲しい。三橋は3万円。残りを伊藤が取りそれぞれ南&新珠にプロポーズしようとする。三橋は屋台の飲み屋で長谷部と知り合う。長谷部は岸と不倫、南を捨てたことを後悔していた。長谷部が南の恋人だったという事を知らずに長谷部を励ます三橋だが話を聞いて相手が南だと知り驚く。しかし南もいまだに長谷部に惹かれている事を知り長谷部を南の家に連れて行く。そして3万円を渡し二人を祝福する。伊藤は新珠とデート。プロポーズする。錠には高という恋人がいることから諦めて伊藤のプロポーズを受けようとする新珠。その時タクシーで通りがかった錠がトラックと追突事故を起こし重症を負ってしまう。高は錠の姉だった。錠のために車を買って独立させようと殿山の愛人になろうとしていた。殿山としけこんだ料亭に岸が乗り込んで修羅場となる。そこへ錠が事故の報せが入り病院に駆けつける高。高から錠は独立できたら新珠にプロポーズするつもりだった事を聞く新珠。錠に付き添う新珠の姿を見た伊藤はプロポーズは諦めて2万円を治療費として新珠に渡しアパートに帰る。部屋には三橋がいた。失恋した二人は物干し台で酒を酌み交わす。そして星が瞬いている空の下で南と新珠の幸せを祈るのであった。ラストは電柱の上で元気に仕事をする二人。カメラは水平にパンして街の風景(おそらく御茶ノ水?本郷辺りか?)が映りエンドマーク。
垢抜けないが人の良い二人のドタバタ失恋劇。出来の方は平凡でソツのないものだが二枚目の三橋がこういう寅さん調の役を演じるのは珍しいのでは?宍戸錠が型どおりの二枚目役をしていたり銀座を走る都電など55年当時の街並みが拝めるのは貴重な資料映像。
(2003年7月8日記)

          赤い蕾と白い花(62年、脚本・池田一朗、監督・西村克巳)
高校3年生のクラスメート吉永小百合と浜田光夫は家も近所で、親が片親同士なので仲が良い。吉永の母親(高峰三枝子)と浜田の父親(金子信夫)とを交際させようと奮闘したり反発したりの姿を爽やかに描いた青春映画。クライマックスは吉永と浜田がプチ家出?して旅館に泊まるシーン。お互いを意識して、照れ隠しに部屋で勉強するシーンはなんとも微笑ましい・・・のだが、今観ると少し陳腐な感じがして、観ているこっちが照れくさくなる。原作は石坂洋次郎の『寒い朝』。過去に何度かテレビ化された作品だが、他の石坂作品の中では地味なためか映画の出来もやや低調であった。吉永の歌う主題歌『寒い朝』(レコードデビュー曲)はヒットした。現在でも毎年、冬になるとラジオから流れる事の多い名曲である。
(2000年9月24日記)

          赤いハンカチ(64年、脚本・小川 英、山崎 巌、舛田利雄  監督・舛田利雄)
横浜で刑事をしている三上(石原裕次郎)は同僚の石塚(二谷英明)の拳銃を奪って逃走しようとした麻薬事件の参考人、平岡(森川信)を射殺してしまう。この事件がきっかけで刑事を辞めた裕次郎は放浪の旅に出る。4年後、裕次郎は刑事の金子信雄から二谷の近況を聞かされる。裕次郎が旅に出た後、二谷も刑事を辞め、実業家として成功していた。二谷は麻薬組織に買収され、4年前の事件も二谷が仕組んだ可能性があるというのだ。しかも二谷は平岡の娘、令子(浅丘ルリ子)と結婚していた。裕次郎はルリ子への思いから横浜に舞い戻る。真相が明らかになりラスト、二谷は裕次郎を思うルリ子に撃たれるが、二谷はルリ子から銃を奪い、自殺してしまう。裕次郎はルリ子と結ばれる事なく、再び旅に出るのだった。舛田利雄の演出は職人芸的で、濃密な雰囲気は邦画の枠を越えていた。裕次郎、ルリ子、二谷、金子の演技も素晴らしく、この時期量産された日活ムードアクションの傑作。
(2000年12月7日)

          赤木圭一郎は生きている 激流に生きる男(67年 監修・吉田憲二 ナレーター・波多野憲)
 61年に赤木が事故死したために未完となっていた『激流に生きる男』の撮影済みシーンを中心にスター赤木圭一郎を紹介した作品。『激流に・・・』で共演していた芦川いづみや他の出演者たちの証言や街頭インタビューで当時の若者達の声が聴けるのは資料映像として貴重である。『激流に・・・』は元ボクサーの槇竜太郎(赤木)が横浜で船員となるがエンジントラブルで出港が10日間延期してしまう。赤木は街で偶然、車に轢かれそうになった子供(江木俊夫)を救った事で江木の伯母・さかえ(芦川)と知り合う。芦川はブラジル旅行中の兄夫婦に変わってナイトクラブ『サファイア』を取り仕切っている。しかし地元の地上げ屋に目をつけられてしまう。赤木は船に乗るまでの10日の間、『サファイア』でバーテンとして働く事になる。そして地上げ屋を倒し船に乗って去っていくという日活アクションにありがちなストーリー。赤木は試合で相手を殺してしまい引退、敵の用心棒(葉山良二)が殺されたボクサーの兄というのが作品に陰影を付けていた。印象に残っているのはクラブで赤木は葉山に「バーテンをやる前は何をしていた?」と尋ねられ、「知りたいか、じゃあ教えてやる。」と答えてトランペットを吹いて挿入歌「俺にまかせろ」を歌うシーン。音痴スターの赤木だが、この時はカッコ良かったし上手かったと思う。また芦川には渡航中の婚約者がいるのだが、次第に赤木に惹かれていくというのは定石通り。型通りのヒロインだが芦川いづみは相変わらずで良い!甥っ子役の江木俊夫がチョイトばかり羨ましいゾ。上映時間46分の小品ながら赤木ファン必見の作品。他に赤木の仲間のバーテンに杉山俊夫が出ていた。この作品は62年に当時の新スター高橋英樹主演で映画化された。芦川の役を演じたのは吉永小百合。
(2001年8月21日記)

          悪太郎(63年白黒、原作・今東光 脚本・笠原良三 監督・鈴木清順)
大正初期、神戸で恋人の女学生の手を握ったという不貞行為?をして長岡の旧制中学に転校してきた 紺野東吾(山内賢)。父の旧友で中学校長の芦田伸介の学校に編入した山内は風紀部のクダラナイ校則に抵抗、医者(佐野浅夫)の娘・恵美子(和泉雅子)と恋愛をする。しかし佐野の怒りに触れた山内は退学となり上京。一年後、苦学生となった山内の所に和泉の親友・芳江(田代みどり)から和泉が病死したという手紙が来る。失望する山内だが、悲しみにもめげず強く生きていくのであった。山内の同級生に杉山元、母親に高峰三枝子が扮した。名コンビとなる美術の木村威夫と組んだ最初の作品、マニアの間では傑作の誉れ高い作品で清順自身もワイズ出版発行の書籍『清順スタイル』で傑作と語っているが、オイラから観ると金持ちの軟派学生のチャラケタ話しという感じであまり面白くない。硬派な傑作『けんかえれじい』と比較すると雲泥の差。アホな上級生役の野呂圭介は笑える。
(2001年5月11日記)

          悪太郎伝 悪い星の下でも(65年白黒、原作・今東光、脚本・笠原良三、監督・鈴木清順)
スタッフ・キャストは前作と同じだが、設定、ストーリーは全然違う。昭和初期、舞台は河内地方(大阪南部)。鈴木重吉(山内賢)は農家の息子。牛乳配達のアルバイトをしながら旧制中学に通っている。同級生の三島(平田重四郎)が従兄弟の種子(野川由美子)と歩いていたというクダラナイ理由で風紀部に殴られた事をきっかけに風紀部の上級生(野呂圭介)を殴ったり、平田の妹・鈴子(和泉雅子)とプラトニックな恋愛をしたり、野川由美子の魅力に負けてSEXしたりと相変わらず楽しそうな日常が面白おかしいタッチで綴られる。しかし山内の父親(多々良純)が賭場でやくざに袋叩きにされたため、山内は暴行したやくざを刺してしまう。学校を退学し警察に自首した山内だが、住職の三島雅夫が身元引受人になってくれ釈放される。山内が留置されている間に、和泉は親の勧めた家に嫁ぎ、野川の家は火事で焼失し淡路島の親戚の家に引き取られていく。釈放された山内は家を出て自立を目指して神戸で船員になるのだった。出演は他に母親・初井言栄が扮した。精神的恋人の和泉と肉体的な野川の間で揺れ動く山内の心情描写が秀逸という評判の本作だが、和泉はあまり魅力的な感じではない。野川は良いね。この人は任侠物ではそれほどイイとは思わないが、清順作品では『肉体の門』、『河内カルメン』同様に実に魅力的だ。前作と比べると山内の役は結構、硬派だ。それだけでも好感は持てるが、友達になりたいとは思わないナ。オイラの好みでは2作目の方がイイ。今観ると、それほどワルには見えないから『悪太郎』というタイトルは適切ではないような気がする。
(2001年5月29日記)

          アゲイン(84年、脚本、監督・矢作俊彦)
永遠の殺し屋『エースのジョー』がかつてのライバルを捜しながら、日活アクションの名場面を紹介していくザッツ日活シネマとでも言うべき作品。マニア必見!!
(2000年11月24日記) 

          あじさいの歌(60年、脚本・池田一郎、監督・滝沢英輔)
商業デザイナーの河田藤助(石原裕次郎)は道で足を挫いて困っていた倉田源十郎(東野英二郎)を助ける。東野は金融会社の社長で豪勢な邸宅に住んでいた。そこには東野の娘・けい子(芦川いづみ)が住んでいたが、芦川は子供の頃から東野に外出を禁じられて外の世界に出た事がなかった。
東野の母親は東野が幼少の頃に、東野を捨てて若い使用人と駆け落ちしていたのだ。以来、東野は女性を信じる事が出来ずにいた。結婚はしたものの、妻(轟夕起子)もいつかは自分を裏切る。そう思い込んだ東野は轟を追い詰めてしまう。意地になった轟は強引に社員の大坂志朗と駆け落ちしてしまい行方不明となっていた。芦川に対しても外の世界に出せば、いつか汚れて自分を裏切ってしまう。東野は芦川を家から出さず、身の回りの世話は使用人老夫婦(殿山泰司・北林谷栄)に、勉強は高校教師(杉山徳子)に見させていた。芦川の将来を心配した杉山は芦川を外に出す事を提案する。そしてその案内人として自分の教え子・のり子(中原早苗)を紹介する。裕次郎は中原の友人であった。裕次郎、中原は中原の兄で新聞記者の小高雄二の協力を得て、大阪で旅館をやっている轟を捜し出す。轟は大坂とは一緒になっておらず、大坂は轟の使用人として働いていた。轟と芦川は再会を果たす。芦川は「母と友人同士でいたい。」と明るく語り、轟も裕次郎と芦川を祝福するのであった。
石坂洋次郎の同名小説を映画化。当初この作品は巨匠・田坂具隆監督が撮る予定だったのだが、田坂監督の案は『陽のあたる坂道』同様に3時間を越える長い物だった。日活側は長期間、スターの裕次郎を拘束される事に難色を示した。そのため田坂監督は日活を離れ、変わって滝沢監督が撮ることになった。原作がしっかりしているせいか、出演者の描き分けがキチンと出来ていて見ごたえがある。中でも殿山泰司と北林谷栄の会話は笑える。観ていて楽しい作品。 
(2000年12月31日記)

          明日は明日の風が吹く(58年 脚本・松浦健郎、池田一郎、井上梅次 監督・井上梅次)
昭和12年、木場のやくざ・松文字組組長(小林重四郎)は刺客・平戸寅次郎(大坂志郎)に殺されてしまう。小林には3人の幼い息子がいた。時は流れ現代(昭和33年)。3人の息子、長男・良太(金子信雄)は松文字組の跡を継ぎ、次男・健次(石原裕次郎)はサラリーマン、三男・三郎(青山恭二)は音大生となっていた。松文字組は小林の死後弱体化していた。金子は組を守るために仕方なく小林殺しの黒幕の難波田(二本柳寛)の傘下に入っていた。裕次郎は会社の同僚・哲子(北原三枝)という恋人がいたが、三枝の父親で会社の専務でもある雪丘恵介に松文字組の事で交際を禁じられる。ヤケになった裕次郎は金子がマネージャーをしているクラブで二本柳の子分と乱闘騒ぎを起こし会社をクビになる。裕次郎は松文字組の再興を誓い、子分を集め二本柳と対立する。二本柳と裕次郎の板ばさみとなり悩む金子。音大生の青山は同級生の千鳥(浅丘ルリ子)と付き合っていた。ルリ子は二本柳の娘であった。本当の父親は大坂なのだが、ルリ子はその事を知らない。青山とルリ子はお互いの家を嫌い駆け落ちするが、二本柳の命を受けた金子に連れ戻される。この事で二本柳は松文字組を壊滅しようと乗り込んでくるが、裕次郎と大坂の活躍で撃退。裕次郎は松文字組を解散する事を条件に青山とルリ子の関係を二本柳に認めさせるのであった。58年GW公開の作品らしく115分の大作。三兄弟の描き分けもしっかりしているし、裕次郎全盛時代の息吹を感じさせる。浅丘ルリ子が初々しい。
(2001年5月2日記)

          アラブの嵐(61年 脚本・山田信夫、中平康 監督・中平康)
宗方堅太郎(石原裕次郎)は大日本物産社長・千田是也の孫。会社の重役達に煙たがられていた裕次郎は千田の遺言、「狭き日本を出て広き世界に生きよ。」を実行、海外放浪の旅に出る。当ても無くエジプトにやって来た裕次郎はアラヤ国独立を巡る争いに巻き込まれる。ピラミッドや砂漠を舞台にクーデターに関するマイクロフィルムが隠されたペンダントの争奪戦が繰り広げられる。出演は裕次郎と機上で知り合い、戦争中に生き別れになった父親を探しにやって来たデザイナー志望の白鳥ゆり子(芦川いづみ)。後に裕次郎に協力する現地の悪徳ガイド・小高雄二。芦川の父はアラヤ国の革命軍の一人として活動していた。ラストは現地警察に助けられペンダントは革命軍へ、芦川はデザイナーの勉強でパリに、裕次郎は日本へ帰るところでエンド。この作品は61年年末から年始にかけて公開された作品。エジプトロケを敢行、現地の俳優やエキストラを使った豪華版なのだが、映画としては無難というか平凡な出来。裕次郎が海外に出るのも武者修行というよりも温室育ちを嫌った金持ちの道楽みたいだし、日活アクション特有の自己確立テーマも青春喜劇調で薄っぺらな感じに描かれるのが難。しかし芦川いづみはキレイだから、別に構わないヨ。
(2001年6月13日記)

          ある脅迫(60年65分白黒 脚本・川瀬治 監督・蔵原惟繕)
 新潟銀行直江津支店次長の滝田恭介(金子信雄)は頭取の娘・久美子(小園容子)と結婚、出世コースを歩んでいた。本店の業務部長への栄転も決まり、将来は銀行を背負って立つ存在と言われていた。それに比べて、幼馴染みの中池又吉(西村晃)は下っ端。金子の部下として、うだつの上がらない存在だった。元々、小園は西村の恋人だったらしい。金子は西村の妹で芸者の梅葉(白木マリ)と付き合っていたのだが、出世欲の強い金子は白木を棄て小園と結婚したのだった。金子は仕事は出来るが、裏では預金者の印鑑を偽造して預金を横領したり、浮き貸しをしていた。金子の栄転を祝って宴会が盛大に行われた晩、熊木伸二(草薙幸二郎)というヤクザ風の男が訪ねてくる。草薙は金子の横領や浮き貸しの証拠をネタに300万円を強請りに来たのだ.。「そんな金はない。」と言う金子に草薙は拳銃を渡し、「銀行の金庫を襲え。」と強要。拒む金子に「銀行の次長がね、金庫破りなんて。そんなものは探偵小説にも出やしないんだ。」。悩んだ金子は西村が夜勤の日、飲み屋に西村を誘い酒を飲まして泥酔させ、その隙に金庫を襲う。覆面をして小使い・野崎(浜村純)を昏倒させたものの、そこには飲み屋から戻った西村がいた。銃で脅して金庫を開けさせたが、正体を見破られたらしい。観念した金子は覆面を取り、「これは演習だ。」と誤魔化す。銀行を出た金子は草薙のところへ行くが、怒った草薙は横領の証拠を警察に持っていこうとする。金子と揉み合いになった草薙は崖から落ちて死んでしまう。草薙から奪った証拠書類は焼き捨てる。翌朝、朝礼で強盗の真似事をした話を、工員たちの前で得意げに話す金子。西村は他の行員たちの前で笑い者にされる。支店長室でくつろいでいると、西村がやってくる。応接室に死んだはずの草薙が来ているというのだ。焦る金子。応接室には誰もいなかった。浮き貸しや横領の証拠を草薙に渡し、脅迫するように仕組んだのは、西村だった。草薙と金子が揉み合った時に、乗り込んで金子をやり込めるつもりだったのだが、草薙が死んでしまった。金子は観念したのだが、西村は警察には知らせなかった。見逃してくれると思いホッとした金子。本店に栄転のため引越す金子は小園と汽車に乗るのだが、車掌に声をかけられる。隣の車両に銀行の人がいて、金子を呼んでいるというのだ。車両にいたのは西村だった。「銀行を辞めて来た。これからはあんたに面倒を見てもらった方が良さそうだから。」。ニヤリと笑う西村。ゾッとする金子。そこへ刑事(青木富夫)が現れたところでエンド。
 65分の添え物作品ながら、金子信雄と西村晃という名脇役の二人が対決する佳作。銀行を襲うシーンからラストの車中でのやりとりまで緊張感に満ちていて見応えがあった。出番は少ないけど、白木マリはやっぱり良いネ。
(2006年3月13日記)

          暗黒街の静かな男(61年82分 脚本・江崎実生、中西隆三 監督・舛田利雄)
 山下永治(二谷英明)はプロ入りを嘱望された元アマチュアボクサー。試合で対戦相手・梶原(梅野泰靖)を失明させ引退。シンガポールでダム工事の現場監督をしていた。梅野は六本木でレストランを経営していた。このレストランを狙う二つの暴力団。小野塚(垂水悟郎)をボスとする組と高岡(芦田伸介)の組織。二谷が帰国して梅野の店を訪ねた夜、梅野は垂水の組に殺されてしまう。二谷は梅野の妹・ゆかり(和泉雅子・・・新人の表記あり)とその恋人・堅田勝(杉山俊夫)、梅野の恋人で歌手の谷川美保(白木マリ)を助けて垂水と芦田を共倒れさせ、またシンガポールへと帰って行くまでを描いた作品。出演は他に刑事の畑(木島一郎)、情報屋・ヒゲ安(井上昭文)が出ていた。元ボクサーという設定の二谷だが、途中で芦田の手下に拳を刃物で切られて負傷してしまうので、アクションシーンにはその辺は生かされていないのは不満が残る。失明した梅野との関係も、上手く膨らませれば結構面白いムードアクションになったのかもしれないのに序盤で梅野が殺されてしまうし、この辺の影を二谷が引きずっている感じが無いのも勿体無い。芦田はかつて二谷をプロ入りさせようとして失敗したり、白木を歌手として売り出したりという設定がある。全ては梅野の店を手に入れるための伏線だったようだがこれも生かされていない。ラストは芦田の組織に和泉を人質を取られた二谷は井上昭文の協力で垂水の組と相撃ちさせ共倒れさせる。そしてレストランを和泉と杉山に託し、白木に別れを告げて去って行くところでエンド。主演が二谷でヒロインが白木マリとはあまりに渋すぎるキャスト。白木は歌手役なのでダンスシーンはないし歌は吹き替え?。ここも不満だ。しかし和泉雅子のオキャンな感じはイイな!!
(2002年1月11日記)

          暗黒街の美女(58年白黒、原作・脚本・佐治乾 監督・鈴木清順)
宝石強盗の罪で3年の刑期を終えて出所してきた水島道太郎は当時の仲間、芦田伸介、阿部徹を訪ねる。犯行は3人でやったのだが、水島が一人で罪をかぶり宝石は水島が隠していた。芦田はトルコ風呂やクラブを経営し実業家として成功していたが、阿部は犯行時に足を痛め、妹・白木マリと屋台のおでん屋を引いてひっそりと暮らしていた。水島は隠しておいた宝石を金に換え、不自由な生活をしている阿部にやるつもりでいた。芦田の口利きで取り引きをするが、芦田の裏切りで失敗する。阿部は宝石を飲み込んでビルの屋上から転落死してしまう。阿部の遺体から宝石を取り出したい芦田。病院の遺体安置所で阿部の遺体を切り裂いて宝石を取り出したのは白木の恋人でマネキン人形師の近藤宏。水島は近藤から宝石を取り上げる。芦田たちに襲われた水島と白木はとっさにマネキン人形の乳房に宝石を隠すのだが、どさくさにまぎれてマネキンは洋服屋に搬入されてしまう。マネキンの行方を追う水島と芦田。水島は運送会社を騙りマネキンを回収、宝石を手に入れる。芦田は白木を人質に宝石との交換を迫る。水島は芦田の本拠地であるトルコ風呂に乗り込む。激しい銃撃戦の末、白木は無事救出。芦田は水島に撃たれて死ぬ。水島は刑事の二谷英明に逮捕され再び刑務所行きとなるのだった。後半の銃撃戦はトルコ風呂だが奇妙な空間のセットで行われる。登場するトルコ風呂はいわゆるソープランドではなく、健康ランドのような施設。この時代はそうだったのか?水島と芦田一派との宝石争奪戦はテンポが早く、宝石が遺体やマネキンに隠されたりと捻りが効いて面白い。タイトルの『美女』は白木の事なのか?それともマネキンの事なのか?・・・・・しかし白木マリは良い。ホント、たまらないヨ。ちなみに、この作品は鈴木清太郎が清順と改名して撮った最初の作品。
(2001年4月26日記)

          暗黒航路(66年84分、脚本・小川英、三芳加也、野村孝 監督・野村孝)
八百長試合を拒否して試合放棄したボクサー・伊原次郎(和田浩治)はバンコクから強制送還される。しかし乗っていた船・宝運丸が黒柳隆次(宍戸錠)をボスとする海賊一味にシージャックされてしまう。錠の要求はエンジントラブルで動けなくなった自分の船・クエンティ号の修理。船の乗組員・岩田(佐野浅夫)が調べると修理には3日はかかる。錠の船に火薬の原料となる硝酸を発見した佐野は船医の西尾(浜村純)の協力で宝運丸に積んであった硫酸と薬用グリセリンを混ぜニトログリセリンを調合する。佐野は和田を誘いニトロを使って宍戸たちを投降させようとする。ニトロを持った和田は甲板で宍戸と対決する。もう一息で宍戸から武器を取り上げられようとした時、何者かが汽笛を鳴らし邪魔が入る。あわてた和田はニトロを海上に投げ捨てるが、この時に宍戸の部下のサブ(杉山俊夫)が死んでしまう。乗客の一人・屋代(天坊準)は密輸ダイヤの運び屋だった。このダイヤを狙った錠の部下・富樫(深江章喜)は錠と争い撃たれてしまう。傷を負った深江は地下室に監禁される。和田は船長・村岡(雪丘恵介)から佐野の話を聞く。佐野は船会社の金20万円を横領していた。それを知った雪丘は日本へ帰って会社に報告するつもりでいた。錠と和田は浜村を暴行して真実を知る。浜村の供述では佐野は天坊と共謀しダイヤを独り占めにする計画だった。汽笛を鳴らしたのも佐野であった。佐野と天坊は大量のニトロを宝運丸に仕掛け、実は修理が完了していた錠の船でダイヤを持って逃走してしまう。錠や和田たちは船内に仕掛けられたニトロを捜す。船室の浴槽に仕掛けられたニトロを発見する和田。浜村の話ではニトロは酸と油で出来ているため石鹸のようなアルカリ性の物質を混ぜれば溶解させられる。和田は錠の協力を得て船に積んであった粉石鹸を使い溶解作業に入る。長時間の作業は単調だが最新の注意を払わねばならないため精神的に非常にキツイ作業であった。逃走した佐野と天坊だったが隠していたダイヤが何者かにすり取られて仲間割れしてしまう。その時にクエンティ号に仕掛けられた自爆装置のスイッチを入れてしまい佐野と天坊はクエンティ号ごと爆死してしまう。和田と錠は地下室を脱出した深江の襲撃を撃退、中和作業に成功する。ダイヤを奪ったのは天坊の情婦でダンサーの北川理沙(富士真奈美)であった。和田はダイヤを船長に渡し富士を警察に突き出す決意をして錠や乗員、乗客たちと祝杯を上げたところでエンド。錠が海賊、和田が試合放棄の不良ボクサーという取り合わせは面白そうな感じがするのだが、ダラダラとした作品であまり面白くなかった。クライマックスのニトロを中和するシーンも動きもメリハリも無く退屈。大体、宍戸たちのシージャックとダイヤの密輸の話がまるでかみ合っていない。錠たちはダイヤを狙ってやって来たのではなく単純に船の修理の為に来たようだ。この辺の設定からして無理があるような気がする。出演は他に宝運丸の乗員に山田禅二、柳瀬志郎、榎木兵衛、木下雅弘。船客に衣笠真寿男。錠の子分・海坊主(高木均@結構目立つ)が出ていた。
(2002年2月1日記)

          暗黒の旅券(59年白黒、脚本・高岩肇、監督・鈴木清順)
伊吹重夫(葉山良二)はクラブバンドのトロンボーン奏者。同じバンドの歌手・弘美(沢たまき)と結婚。バンドマネージャー・森脇(梅野泰晴)から贈られた旅行のクーポン券で東京駅から新婚旅行に出発する。しかし沢は車内から忽然と消えてしまう。沢を捜す葉山はバンド仲間・勝根(岡田真澄)の協力を得て心当たりを当たるのだが行方が分からない。ヤケ酒をあおり帰宅した葉山だが、部屋には沢の死体があった。刑事の芦田伸介は葉山を疑う。しかも沢のバッグから麻薬が発見される。葉山は単身、ヤケ酒をあおった時の記憶を頼りにクラブやバーを周り手がかりを捜す。梅野、岡田、バーのマダム・白木マリ、バーテン・深江章喜、皆いわくありげで怪しい。行く先々でサングラスでコート姿の謎の男(雪丘恵介)が葉山の様子を窺っているのも不気味だ。葉山は麻薬中毒の元ダンサー・香代子(筑波久子)と出会う。筑波はオカマバー・チロルに出入りしていた。チロルのシスターボーイ・ケニー(ケニー青木)は麻薬組織のボス・フランク(ベルナル・ヴァーレ)のお稚児さんだった。筑波は梅野の妹だった。梅野は筑波を麻薬から救おうと画策していたのだが、組織の殺し屋・榎木兵衛に筑波共々殺されてしまう。ケニーは沢の弟だった。沢は組織のボスにケニーと別れるように頼んだためにボスの命令を受けた幹部・石丸(近藤宏)に殺されたのだった。沢のバッグに麻薬が入ったのは沢がケニーから取り上げたためだった。葉山は近藤の案内でケニーとボスの別荘に乗り込む。近藤に殺されかかる葉山だが、雪丘に救われる。雪丘の正体は麻薬取締官だったのだ。雪丘は組織に加担している岡田を逮捕、岡田に案内されて来たのだが、葉山を救うために近藤、岡田という唯一の証人を射殺してしまいボスを逮捕する事が出来なくなってしまう。ボスはケニーを連れて葉山と雪丘の目前で堂々と空港の飛行機に乗り込もうとするのだが、姉を殺された事を知ったケニーに射殺されるのであった。ラストは再びバンド奏者に戻った葉山が死んでいった沢や梅野のために演奏するところで終わる。テンポも早く、比較的分かりやすい展開で面白かった作品。花嫁が失踪、登場人物それぞれが怪しいのもサスペンスムードたっぷりで良い。難を言えば筑波、白木という2大ヴァンプ女優が出ているのにあまり色っぽいシーンが無かった事か。他に芦田の部下に土方弘が出ていた。
(2001年5月8日記)

          あん時ゃどしゃ降り(58年白黒 脚本・西島大 監督・森永健次郎)
春日八郎の歌う同名の流行歌を主題歌にした歌謡映画で53分の添え物作品。タクシー運転手の秋葉剛(青山恭二)はどしゃ降りの雨の夜、肺炎の女性・西村圭子(香月美奈子)を助ける。これがきっかけで二人は恋仲になる。香月には親の決めた婚約者(弘松三郎)がいたが、香月にはその気はなかった。香月の父親(山田禅ニ)はかつて青山を逮捕した刑事だった。二人の結婚を当然、反対する山田。悩む青山と香月。そんな時、田舎にいる青山の母親が亡くなってしまう。ヤケになった青山は刑務所仲間から 強盗に誘われる。一度は承諾する青山だが、山田に通報。心配して尾行していた春日と協力してム所仲間は逮捕される。この事で山田は香月との仲を認め、二人は結ばれるのであった。共演は青山たち運転手の溜まり場の食堂のウェイトレスで青山に思いを寄せる雪子(丘野美子)、青山の面倒を見る先輩社員・夏目八郎(春日八郎)。青山は前科者という設定なのだが一体どんな罪を犯したのか、青山の母親はどうして急死したのかが語られないのはじれったい。出来も平凡で退屈な作品。
(2001年6月17日記)