第1帖

  ケンカと『夜のバラを消せ』

 

78年5月頃、土曜の昼下がり。オイラは例によって浅草新劇場にいた。この時、観たのが『夜のバラを消せ』 。面白かった! 007風の展開が楽しく、特撮映画を思わせる感じも良かった。日活アクションとしては個に係わる描写が中途半端な為か、大した評価はされていない無名の作品だが、由美かおるも初々しいし裕次郎がこんな映画に出ていたなんて、特撮オタクでもあるオイラとしては驚いたし、嬉しかった。
 映画は夕方頃に終わって劇場を出た。右手に『ぴあ』 を握りしめ、デビュー当時の裕次郎の真似をして右足を少し引きずるようにして歩き、愛車(自転車!) を路駐してある国際通りへと歩を進めた。金も度胸もない、ひ弱で足も短いけれど、気分だけは裕次郎だった。「面白かった、良い映画が観られた!!」 もうゴキゲンである。水野晴夫ではないが、映画って良いもんだ。その時である。「助けてくれぃ!!!」 男の声がした。声のあった方角を見た。ビルの谷間にある小さな駐車場でニコヨン同士が乱闘をしていた。いや乱闘ではない。リンチである。1人に対して4人がかりで30〜40代のニコヨン達が暴行を加えていたのだ。
 これが『渡り鳥シリーズ』 なら「たった1人に大勢で、見っともねぇぜ!」 ってな調子で割って入るところだが、オタクのオイラにそんな腕も度胸もあるわけない。当然?見て見ぬ振りである。あぁ・・・せっかくの裕次郎気分も台無しである(オイオイ・・・・・・) 。見て見ぬ振りをしてその場を離れたが、その後ニコヨンたちがどうなったのかオイラは知らない。しかし『夜のバラを消せ』 というと、このリンチを思い出してしまう。

 浅草に通っていて何度かコワイ思いはさせられた。用心していたのでスリのような被害にこそあわなかったが、毎回ビクビクしながら通っていた。『青春劇場』 にも書いたが、そんな思いをしてまで通っていたのは、当時は定期的に日活映画を観る事が出来たのは此処だけだったからである。現在はビデオがあるし、BSやCS放送で日活映画を観る事が出来るのだから良い時代になったよね、ホント。