才女気質(59年白黒87分 脚本・新藤兼人 監督・中平康)
 京都四条木屋町の老舗表具屋を切り盛りする登代(轟夕起子)は亭主の市松(大坂志郎)を尻にしく勝気でやり手の女将さん。長男は戦死。次男・令吉(長門裕之@長男との二役)は学校は出たものの就職出来ずにブラブラ。末っ娘の宏子(中原早苗)はデパートのホットケーキ売り場の店員をしている。轟は結婚すれば真面目に就職をするだろうと長門の縁談を決めてくる。相手は老舗の呉服屋・織常(下条正巳)の娘・久子(吉行和子@新人の表記あり)。轟は知らないが吉行は中原と女学校時代の同級生で、既に長門とは恋人同士だった。出来レースのようなお見合いをして二人は結婚。長門はTV局に就職する。轟の家の離れには亡くなった大坂の友人の奥さん・スミ(原ひさ子)が居候していた。原は軍手の内職をしながら息子・一夫(葉山良二)が復員してくるのを待っていた。轟は結婚した長門夫婦のために原に出て行ってもらおうと言い出す。大坂、中原、長門たちは反対するがワンマンの轟は意に介さない。ある日、葉山が帰ってくる。葉山は終戦後中国の捕虜収容所にいたのだが、のん気な性格で収容所を出てから中国を放浪していたのだ。轟の弟・洋装店の主人・成次(殿山泰二)は市議会議員に立候補することになる。殿山は葉山に選挙の手伝いをしてもらおうと雇うがあまり役に立たない。結局、大した根回しもしなかった殿山は落選してしまう。葉山と原は轟の家を出る。飲み屋をしている轟の妹・辰江(渡辺美佐子)の家の二階を借りて原は内職、葉山はそのまま殿山の洋装店で働く。葉山と恋仲になった中原は轟に無断でデパートを辞めて原の手伝いをやり出す。一日家にいると轟と顔を合わせているのがツライ吉行は轟に無断で長門の勤めるTV局に遊びに行ってしまう。夜遅く帰宅した吉行を責める轟。大坂と長門が止めに入るが終いには吉行が反撃。実家に帰ってしまう。そこへ中原と葉山がやって来る。轟に結婚の許しを貰いに来たのだがしがない洋装店の店員の葉山ではOKが出るわけも無い。中原はそのまま駆け落ち同然で葉山と出て行ってしまう。長門は吉行を追って下条の家に・・・轟は孤立してしまう。長男の法事が轟、大坂、渡辺、芸者の置き屋をしている大坂の母親(細川ちか子)、長門で行われる。そこへ吉行、中原、葉山がやって来る。大坂が呼んだのだが轟は激怒。法事は何とか済んだものの皆帰ってしまう。結局、大坂の説得で轟が折れて葉山との仲を許し、離れの部屋も長門と吉行のために2世帯住宅に改築する。数ヵ月後、長門たちの部屋はモダンな洋風の部屋に、葉山は警官になる。ラストは警官になった葉山が轟のところへ挨拶に来る。葉山を送り出した轟は新聞で政党のエライさんが京都に来ていることを知り殿山に電話、根回しするように尻を叩く所でエンド。
 老舗の女将さんが周囲の男たちの尻を叩く姿をユーモラスに描いた作品。新藤の脚本はソツが無いし中平の演出はオーソドックスで手堅いので楽しく観る事が出来る。この頃の吉行和子は後にNHK大河ドラマ『風と雲と虹と』でケラ婆を演じるとは思えないほど愛らしくてメンコイ。59年当時の京都の街並みを轟が忙しない調子で歩く姿が映るが現在では貴重な資料映像ではないか?
(2002年10月21日記)

          さすらいの賭博師(ギャンブラー)シリーズ(64〜65年)
天才賭博師・氷室浩次(小林旭)は賭博のもつれで兄・木浦祐三と恋人・松尾嘉代を殺され流れ者となる。行く先々で地元のやくざに泣かされる善良な人々を得意の賭博と鉄拳をふるい助けて去っていく、渡り鳥シリーズの後を受けて製作されたシリーズ物。ラインナップは以下の通り。
 
1 さすらいの賭博師
 
(64年 脚本・山崎厳 監督・牛原陽一 共演・笹森礼子、長内美那子 草薙幸二郎 小池朝雄 山形勲)
2 黒いダイスが俺を呼ぶ
 
(64年 脚本・山崎厳、井田探 監督・井田探 共演・笹森礼子、西尾三枝子、和田浩治、金子信雄)
3 ギター抱えたひとり旅
 
(64年 脚本・山崎厳、坂田安雄 監督山崎徳次郎 共演・松原智恵子、小高雄二、芦田伸介)
4 投げたダイスが明日を呼ぶ
 
(64年 脚本・甲斐久尊 監督・牛原陽一 共演・松原智恵子、金子信雄、浜田寅彦、中台祥浩)
5 さすらいは俺の運命
 
(65年 脚本・山崎厳、井田探 監督・井田探 共演・川地民夫、伊藤るり子、上月佐知子、清水将夫)

3作目は1作目で殺された兄と恋人の仇のイカサマ賭博師・辺見(芦田伸介)を倒す話しで他の4作とは 多少パターンが違う。しかし宍戸錠のようなライバルとの濃密なやりとりもなく、全体的に『渡り鳥シリーズ』の亜流という感は否めない。64年ごろは東映任侠映画の人気に押されだして来た頃。旭映画の神通力も徐々に弱まって来たためか、映画自体に勢いが感じられない平凡なシリーズであった。
しかしこのシリーズは『黒い賭博師』と名を変えてトンでもないシリーズ物として継続される事になる。
(2001年6月3日記)

          さすらいのトランペット(63年88分 脚本・高橋文男、川崎敏夫 監督・野口博志)
 昭島秀夫(高橋英樹)は人気トランペット奏者。彼をスターダムに押し上げた立役者は所属する矢崎プロ社長・矢崎龍二(二谷英明@戦争で左手が無い)。
二谷は上昇志向の強い男で英樹を売り出すためには手段を選ばない。TV番組のスポンサーの重役(天草四郎)に自分のプロの女性タレント・御園麗子(茂手木かすみ)を世話をしたり番組プロデューサー(雪丘恵介)に金をばら撒いたりと売り出しに余念が無い。睡眠時間も2時間しか取れずに働かされる事に不満の英樹。二谷の妹でプロを手伝う真弓(浅丘ルリ子)も心配する。そんな時、英樹は麻薬に手を出して警察に捕まってしまう。二谷は警察に釈放を条件に麻薬を扱っていた暴力プロダクション社長・岡田(近藤宏)の情報を流す。さらに二谷は近藤のプロのバンドや歌手・ジョニー山田(沢本忠雄)を引き抜いてしまう。釈放された英樹は夜の街で仲良くなった花売り娘・谷村恵子(松尾嘉代)とその弟・正一(石井浩)と東京タワー見物に行くが、松尾とのツーショット写真をフォーカスされてしまう。激怒する二谷は今後、松尾とは会うなと命令する。このことで英樹は二谷のプロを飛び出してしまう。山形県の湖畔に流れ着いた英樹はトランペットを捨てようとする。その時通りがかったのが喜代子(松原智恵子)。松原は叔父の雲海和尚(松本梁升)の寺に居候していた。松本と話をした英樹は寺で農作業をしながら住み込み始める。ある晩、英樹は松原に自分の生い立ちを語り始める。英樹は戦災孤児で焼け跡で靴磨きをしていた。GI のチコ・ローランドに誘われジャズクラブに行く。そこは黒人たちがバンドをしていた。彼らは英樹に親切でジャズの手ほどきをしてくれた。やがて朝鮮戦争で黒人たちは戦争に行ってしまう。バンドでペットを吹いていたデュークから餞別で貰ったトランペットを吹いていた所を二谷に拾われたのだった。二谷は元々はバンドのピアノ弾きだったが戦争で左手を失い音楽の夢を英樹に託したのだった。松原は二谷のところに手紙を出す。二谷はルリ子に迎えに行かせるが英樹は断る。怒った二谷は英樹を見限る。この事でルリ子は二谷と袂を断つ。山形での田舎祭りの夜、祭り太鼓のリズムに本当の音楽を感じ取った英樹。「マスコミの作った虚偽のものではない。大衆が作り上げた伝統の力強さ。」に感銘した英樹は祭り太鼓に混じってペットを吹く。そしてもう一度やり直す事を松原に宣言する。松原は二谷のところにまた手紙を出す。英樹が帰ってくる予感を感じる二谷はすぐに仕事の手配を整える。例によってTVやマスコミに金をばら撒く。しかし東京へ帰ってきた英樹は二谷の所には戻らずに流しのギターを弾いたり歌声酒場(@懐かしい!)でアコーディオンを弾いたりしていた。ある夜、ナイトクラブでトランペットを吹いていると偶然ルリ子と再会する。英樹はルリ子をマネージャーに再デビュー。最初は二谷の圧力で仕事が出来なかったりするがルリ子の奔走でのりたまで有名な丸美屋食品がスポンサーとなりリサイタルの開催が決まる。そんな時、近藤は二谷を拉致殺害を企てる。それを知った英樹が駆けつけ乱闘となる。その時、英樹は右手を負傷してしまう。リサイタル開催も危ぶまれる。二谷は自分のプロに戻るように言うが英樹は拒否。二谷は松原を東京に呼び自分の所に戻るように説得するように頼むがやはり拒否。英樹は松原が好きだった。将来は松原と一緒になりたいと考えていた。ルリ子も英樹が好きなのだが松原も英樹に惹かれている事を知ったルリ子は松原を励まし自分はマネージャーに徹する決意をする。英樹とのゴタゴタのためかTVやマスコミから見放され沢本忠雄、等の主力タレントに去られた二谷はすっかり落ち目になってしまう。負傷した手も何とか回復しペットが吹けるようになった英樹はリサイタルのステージに立つ。会場に現れた二谷は英樹に今までの事を詫びリサイタル成功を祝福する。英樹は二谷とやり直す事を誓ってエンド。
 『嵐を呼ぶ男』の高橋英樹版の作品。しかし手を負傷というシュチュエーションは同じだが主人公がピンチに陥るという事も無く盛り上がりに欠けた作品。ラストのリサイタルシーンには結構時間を割いていて松尾和子や小宮恵子&金田星雄(当時の人気歌手か?)、司会がトニー谷。沢本忠雄も歌を歌うという豪華版?。片腕の二谷は結構凄みがあったが急に落ち目になったりラストで突然改心するのはヘンだ。ご都合主義的な幕切れは納得できない。松原智恵子も魅力的だがマネージャー役の浅丘ルリ子はメンコイ。姉のような目線で英樹を見守る姿にはお姉さんフェチのオイラにはタマラン存在。この頃まだ22〜23歳くらい?その若さで美しさに円熟味が出て来るのだからこの人は本当に美人だ。ルリ子しゃんでじょんじょろりん!!
(2003年5月10日記)

          雑草のような命(60年91分白黒 脚本・三木克己 監督・滝沢英輔)
 舞台は金沢。若村待子(浅丘ルリ子)は地元の学校に通う高校生。クラスメート・朝野純一(川地民夫)とは仲が良い。ルリ子は電車通学だが、川地は自転車で通っている。いつもルリ子の乗る汽車と踏み切りで一緒になる。ルリ子の父・伊助(西村晃)は右腕を怪我して工場(青井製作所)をクビになっていた。ルリ子の姉・郁江(吉行和子)も西村と同じ工場に勤めていたが、この工場は労働争議の真っ最中で、吉行は恋人でもある桜井(近藤宏)と赤旗を振っていた。工場をクビになった吉行は近藤と大阪に行くと、出て行ってしまう。ルリ子は母・久子(奈良岡朋子)と、一番下の幼い弟・勇(島田直季)の面倒を見ながら健気に生きていた。川地の家は父・完一(宇野重吉)は会社(古川農器具)勤めだが、結構エライ地位なのか?大きな家に住む金持ち一家。母・光子(高野由美)、幼い弟・信也(島津雅彦)がいる。ルリ子の家は貧乏で、兄の忠蔵(殿山泰司)の家の離れに居候しているが、殿山は西村たちに冷たく、何度も出て行くように言われていた。元々、殿山は子供のいない若村の家に養子として貰われてきたのだが、後から西村が生まれたので、殿山と西村とは血は繋がっていない。しかし亡くなった西村の父は長男として育てた殿山に、若村の家を継がせていた。殿山は美しいルリ子が目当て。自分の養女にして、西村たちを追い出そうとしていた。ルリ子は当然、養女の話を断る。怒った殿山は若い者を使って、力ずくで追い出そうとする。偶然、ルリ子の家に遊びに来た川地や他のクラスメートが止めに入り、乱闘。結局、宇野が仲裁に入り、条件付きで半年間の猶予を貰う。その条件とは、奈良岡に出て行ってもらう事だった。最近、奈良岡は肺病の気があるらしく、イヤな咳をするようになったから、というのが理由。奈良岡は東京に働きに出る。料理屋に住み込み女中となり、働きながら、住むところと西村の働き口を探す。ルリ子も高校を辞めて、地元の織物工場に働きに出る。西村は働きもないくせに、嫉妬深い男で、病気だとウソの手紙を書き、奈良岡を呼び帰す。あわてて帰った奈良岡、西村の働き口も住むところも準備してこなかった事を怒った殿山は一家を追い出す。仕方なく東京に行って、木賃宿に泊まりながら仕事を探すことになる。しかし木賃宿の生活を年頃のルリ子にはさせられない。ルリ子に手紙を持たせ、落ち着き先が決まるまで宇野に預かって貰う。宇野は人格者なので、快く了承する。川地もルリ子が好きなので喜ぶ。その夜、警察から連絡が来る。西村や奈良岡は幼い弟・勇(島田)を道連れに無理心中してしまったのだ。泣き崩れるルリ子。同情した宇野はルリ子を引き取る。殿山はルリ子を引き取ると言い出すが、宇野は相手にしない。宇野はルリ子を自分の娘のように可愛がる。明るく立ち直ったルリ子は洋裁学校に通い、毎日学校帰りに宇野の会社に寄り、一緒に帰るという仲の良さ。本当の親娘のようだが、その姿を宇野の会社の工員・米井実(草薙幸二郎)が見ていた。美しいルリ子をイヤらしい目付きで視姦する草薙。相思相愛の川地、弟の島津もルリ子になついている。この頃がルリ子にとって一番幸せな頃だっただろう。しかし高野は川地との仲を心配。ある日、洋裁学校の主催するファッションショーが開かれる(指導は森英恵)。美しいルリ子は当然、モデルとしてステージに立つ。お祝いに宇野がハイヒールを買ってくれる。本番、慣れないハイヒールのため、ステージ上で転んでしまうルリ子だが、川地は優しく慰める。家に帰ると、医者の車が来ている。宇野が脳出血で倒れたのだ。看病の甲斐もなく宇野は亡くなってしまう。自分に良くしてくれる人は皆、亡くなってしまう、と悲観するルリ子。川地は成績が良く、東大を目指していたのだが、ルリ子と同居するようになって、成績が若干落ちていた。宇野が亡くなったことで更に落ちたようだ。この事で、高野は担任教師(伊藤寿章)から呼び出される。川地を心配した高野は、ルリ子を以前から引き取りたいと言っていた福崎サヨ(清川虹子)のところにやってしまう。清川はルリ子の遠い親戚だった。宇野が亡くなったことで居づらくなったルリ子は清川の家に引き取られる。春、川地は東大に合格する。川地は学校でモテモテらしく、女友達からお祝いのプレゼントを沢山貰っている。ルリ子もプレゼントを用意して川地の家に行くのだが、女の子たちに囲まれている姿を見て行きづらくなったルリ子は、丁度居合わせた島津にプレゼントを託し、川地に会わずに帰る。ルリ子が来ていた事を知った川地はルリ子を訪ね、清川の家に行く。ここで二人は自分たちの気持を確認、週に一度は文通の約束をする。川地は大学を出たら迎えに行く事を誓う。それまでは清い仲でいるようだ。ルリ子が欲しい殿山は何度も清川のところにやって来るのだが、ルリ子は拒む。美しいルリ子は周辺の農家の若い衆から目を付けられていて、清川が留守の夜に4人の若者たちに夜這いをかけられる。危うく輪姦されそうになるルリ子だが、裸足で逃げ出しその夜は川地の家に泊まる。翌朝、清川の家に戻ると、泥棒に荒らされていた。激怒した清川は洋裁学校を辞めさせ、ルリ子に畑仕事をさせ、毎日こき使う。数日後、清川は草薙を連れて来る。男がいないと無用心だからという理由なのだが、草薙は清川の愛人だった。ある晩、畑仕事から帰ると、清川と草薙がセックスしているのを目撃してしまう。そんな状況でもルリ子と川地は文通を続け、愛を育む。川地は友達から合コンに誘われてもルリ子を思い、参加しないで勉強に精を出す。ある夜、清川が頭痛がすると言い出し医者に行ってしまう。酒を飲んでいた草薙。以前から若く美しいルリ子に目を付けていた草薙は、酔った勢いでルリ子の部屋に乱入、力ずくで犯してしまう。ルリ子は川地の家に避難。介抱する高野だが、「起こってしまった事は仕方が無い。」と冷たい。翌朝、清川が迎えに来るが、ルリ子は吉行を頼って大阪に行くと言い出す。ケチな清川は反対、今まで金をかけて面倒を見てきて、ここでルリ子に逃げられては元が取れなくなるからだ。しばらく高野が預かる事になる。清川が帰った後、様子を見に行くとルリ子の姿がない。お膳の上に書置きが置いてある。「お世話になりました、さよなら。」ルリ子は山に入り、沼で入水自殺してしまう。報せを聞いて帰ってくる川地。ルリ子の遺体を前にショックを隠しきれない。葬式代を惜しむ殿山と清川を「あんた達は人間のクズだ!」と怒鳴りつけ、草薙を殺すと息巻くが、「そんな事をしてもルリ子は喜ばない。嫌な世の中だけど、貴方だけは負けないで。」吉行に宥められる。ルリ子が死んだ沼の前に立つ川地の姿にエンドマーク。
 ヒロインが美しいのはこの手のメロドラマ?の定石。美しすぎるルリ子は周囲の男たちの関心を買い、それによってトラブルが起きる。しかしこの頃のルリ子しゃんはキレイ過ぎるよ。こんなコがいたら、気になって何も出来ないよ。映画の出来は堅実で、これと言って特徴の無いモノだが、浅丘ルリ子の美しさだけは特筆に価する。相手役の川地も羨ましいが、面倒を見てもらう幼い弟役の島田と島津も羨ましいゾ。オイラもこんな姉ちゃんが欲しい!!(笑)。
(2005年5月24日記)

          錆びたナイフ(58年90分白黒 脚本・石原慎太郎、舛田利雄 監督・舛田利雄)
 日活アクション初期の代表作。市会議員殺しの現場を目撃した3人のチンピラ(石原裕次郎、小林旭、宍戸錠)は犯人である街を牛耳るボス・勝又(杉浦直樹)から口止め料を貰い足を洗う。裕次郎と旭はキャマラードという店名のバーを開き堅気の暮し。錠は東京へ流れるのだが、再び杉浦を強請ったために殺される。旭も殺され裕次郎は杉浦と対決するが、黒幕は市会議員の間野(清水将夫)だった。
 出演は他に杉浦逮捕に執念を燃やす検事・狩田(安井昌二)。裕次郎の友人で清水の息子・明(弘松三郎)。その婚約者で殺された議員の娘・西田啓子(北原三枝)。旭の恋人・由利(白木マリ)。周知のように田坂具隆監督作『陽のあたる坂道』の合間に撮影された作品。1週間の約束で裕次郎を借りて撮影したそうだ。2005年2月12日(土)ラピュタ阿佐ヶ谷で行われた舛田利雄&渡辺武信トークショーによると、慎太郎の書いてきた脚本は春夏秋冬と四季を通した話でとても1週間では撮れない、舛田利雄が書き直したそうだ。だからクレジットには慎太郎の名前が出ているが・・・名前だけらしい(笑)。実質、裕次郎の出演シーンの撮影に12〜13日。全体は24〜25日でクランクアップ。小林旭と杉浦直樹を抜擢したのも舛田監督。ロケをしたのは九州・小倉なのだが、撮影中は野次馬が多くて、裕次郎や北原三枝を撮影しようにも野次馬が映ってしまうので、カメラを上に向けてアップばかり撮っていたら、小倉で撮っても三軒茶屋で撮っても変わりがない絵になってしまったそうだ。急遽書き直した作品らしく、今観るとストーリーに無理が目立つ。例えば、清水と内通している安井の部下・高石(高原駿雄)が清水と連絡するのに、いちいちアマチュア無線を使ったりする・・・毎晩9時に定期交信していたらしいから、夜遊びも出来ない(笑)。そこまでして姿を現さない黒幕・清水なのにラストで手下も連れずにノコノコ現れるのは解せない。裕次郎にやられて逃げようとする清水が、乗ってきた車の運転手にひき殺されるのはどうして?清水の上にまだボスがいるの?その辺に突っ込みもなく、事件が解決と言う安井はオメデタイとしか言いようがない。警察に捕まった杉浦なのに、清水の部下(山田禅二)が差し入れに毒饅頭を持って来て、自殺するように指示をする。素直に従う杉浦も妙だ。清水の息子・弘松は北原三枝の婚約者と同時に裕次郎の旧友でもあるのだが、途中から弘松は出てこなくなるので、この3人の関係は三角関係にも発展しない。裕次郎の所を飛び出した旭は白木マリと逃げようとして杉浦たちに捕まるのだが、この時、旭は裕次郎に救われる。しかし白木マリは捕まったままでどうなったのか全く触れられない。過酷な撮影条件で作ったせいか、細かい設定が未整理&未消化。しかし裕次郎全盛期に作られた作品だけに、そんな細かい事はどうでも良いのだ。裕次郎が観られて、歌があって、アクションがあればそれで良し。当時はそれさえ守っていれば、監督の好きな事が出来たらしい。
(2005年2月16日記)

          沙羅の花の峠(55年113分白黒 脚本・監督・山村聡)
野口三郎(宍戸錠)、竹中俊子(南田洋子@日活入社第1作)、岡本茂(中西清二@現・睦五郎
 )、林英五郎(田口計)は幼馴染み。映画は検察庁萱野支部から呼び出しを受け出頭するところからスタート。萱野駅に降り立った彼らは“ふるさと村”(映画の中で錠が名づけた)の連中とバッタリ、一緒に出頭する。検事(清水将夫)の用件は先日、盲腸の少年を助けた事だった。清水の質問に錠が話し始める・・・4人は社会人となりなかなか会う時間がとれないのだが何とかやり繰りをして中西の妹で女学生の房子(芦川いづみ)、田口の弟・邦夫(野口一雄)を連れて山へキャンプに出かける。沙羅の木がある峠(映画の中で南田が“沙羅の花の峠”と命名)にやって来た彼らは山間にある小さな村(部落)を発見する。この時、錠が“ふるさと村”と命名。錠、中西、田口は南田に惹かれていた。錠はキャンプの準備の時、河原でツーショットになった時に南田にプロポーズする。そんな時に村の子供が腹痛を訴える。小さな村の出来事なので村中が大騒ぎ。様子がおかしい事に気づいた錠たちは村へ行ってみる。村には医者がいないために村人たちは“ひきつけ”と勝手に素人判断。研修医をしている南田は盲腸ではないか、と判断するのだが閉鎖的な村人たちは南田たちを“よそ者”扱いして信用しない。塩水を飲まそうとしたり怪しげな薬を持ってきたり、祈祷師・おろく婆さん(東山千栄子)が祈祷を始めたりする。錠たちは村人たちを説得、手分けして近隣の村へ医者を呼びに行く。苦労して探し当てた医者は年老いて痛風で使えない。結局、精米所の店主・八字髭(平田末喜三)の情報で元軍医・榊原軍之進(山村聡)を見つける。ところが山村は酔っ払って酩酊状態。リアカーを借りて山村を乗せ、山村の内縁の奥さんから治療器具の詰まったバッグを受け取り村へ向う。村では本当に医者を連れて来られるか分からない。分からないものをいつまで待つんだ!と村人たちが騒ぎ出す。南田も不安になったのか子供を運ぶ事にする。何に乗せるか?という話になると村人が「戸板で運ぶもんだ!」「(子供は)まだ死んでねぇぞ!」という声が飛ぶ。結局、戸板に乗せて運ぶ事になるのだが、大人も子供も含めて村中の連中がハイキング気分で付いて来る始末。おまけに疲れて来ると「どこまで行くんだ!あても無く進んだって仕方がないぞ!」と南田たちを責める。子供の母親・お咲(利根はる恵)も心労で倒れてしまう。とりあえず沙羅の花の峠で小休止していると錠たちの声が聞こえる。山村を乗せたリアカーを引く錠たちが近くにいたのだ。酔いから醒めた山村が診療、やはり盲腸だった。沙羅の花の下で手術をしようとするとまたまた村人たちが「(山村は)信用できない。」と騒ぎ出す。怒った山村は手術はしない。利根は「この子は戦死した主人の忘れ形見。手術してください。助けてください。」と涙ながらに懇願。山村は南田を助手に手術を行い子供を助けるのであった。その夜は昼間とうって変わって村中が山村や南田たちを大歓待する宴が開かれる。宴会が終わり泊まっていけという村人たちの誘いを断り南田たちは自分たちのキャンプしているテントに戻る。南田は錠たちに「今日のことを教訓に立派な医者になる!」と宣言する。・・・清水に尋問されるシーンに戻る。部屋には南田や錠の他、部落長・浜村純、村の連中、そして山村がいる。山村は正規の医者ではなく獣医だったのだ。子供を助けたことは緊急避難ということで不問になるのだが山村は以前から村人が病気になると治療を行っていたらしい。山村は元々は地元の人間ではなかった。戦争が終わって亡くなった戦友の遺品を持って村にやってきたのだが戦友の奥さん(氏名不詳)と出来てしまいそのまま村に居ついたのだった。山村が無免許医ということをチクったのは八字髭(平田末喜三)。平田は村会議員に立候補、村の人間を買収したのだが山村を買収しなかったために票が足りず落選していた。この事を恨んでの事だった。山村のしている事は医師法違反だよ、と清水。

山村 「惚れた女房と野良仕事をして静かに暮らしたい。医者がいないのが悪い。」
清水 「なぜ医者がいない?」
山村 「営業にならんから。」
清水 「医者は営業かね?」
山村 「営業じゃないの?」
清水 「さぁ私に尋ねられても・・・」

清水と山村が顔を見合わせる。錠や南田たち周囲の連中もお互いに見合わせるが答えは出ないところでエンド。
 山村聡監督3作目の力作。医者を探しに奔走する錠たちの奮闘ぶりはバタバタしているものの汗だくになって走り回る姿には好感が持てる。南田も胸から上が汗でビッショリ(シャツが濡れてました。)。閉鎖的な村人の姿も可笑しい。映画の序盤で沙羅の木の下で錠たちは歌を歌い踊るのだが観ていて妙な感じ。チャチなミュージカルかよ、と思ったら上記のように医者探しとなり、ラストは無医村の問題っぽい台詞のやりとりが出る。一体何がしたかったの?と言いたくなる気もないわけではないが、結構面白くまとめているので2時間近い上映時間も苦にはならない。今ではお婆さんの南田だがこの頃はメンコイ。セーラー服姿の芦川いづみは出番が少ないし、この頃は未整理な顔立ちでM女っぽいからイマイチ。
(2003年8月13日記)

          サラリーマン物語 大器晩成(63年74分白黒 脚本・高橋二三 監督・春原政久)
 ライターを作っている会社・関東発火器の若手社員・百地金太(桂小金治)、平賀吾助(山田吾一)、伊東明(野呂圭介)の3人は未来の社長を夢見る若手社員。山田の特技?はソロバン占い。野呂は『サラリーマン出世読本』なる本を愛読している。朝、3人が出勤してくると会社には課長の土井(河上信夫)しかいない。皆、アメリカに遊説した星社長(小川虎之助)が帰国するので、皆出迎えに行ったらしい。そこへバイヤーと名乗るピタゴラス(オスマン・ユスフ)がライターを100万個買い付けにやって来る。意気上がる小金治だが、ライターを1個1ドル、名称も『ピタゴラスライター』にするという条件を聞いて「ウチのライターは玩具じゃない。」と独断で断ってしまう。軽飛行機に乗った小川は多摩飛行場に降り立つ。小川は生き別れになっていたという娘・不二子(松尾嘉代)を連れていた。社の男性社員たちは美人の松尾にメロメロ。小川は向こう3ヶ月間の間に一番成績を上げた社員を松尾と結婚させると宣言。男性社員たちは色めき立つ。中には奥さんや恋人と別れようとする者が出てくる始末。社内では渥美専務(雪丘恵介)と畠山常務(天草四郎)がしのぎを削っていた。小金治たちは天草派だった。3人は天草から松尾のハートを射止めるように指示を受ける。ある日、小金治のところに幼馴染みの花村花子(久里千春)が田舎から出てくる。小金治のところに押しかけ女房になりに来たのだ。松尾の事でそれどころではない小金治は相手にしないで、逃げ回る始末。社長から社内アナウンスが流れる。向こう3ヶ月間を「PR強化月間」とし、一番成績を上げた社員には金一封と松尾とのキスが付いてくる。野呂はCMソングを作ろうと、売れっ子作曲家・三津木トリ之助(トニー谷)のところに通いつめる。山田はポスター作ろうとライター売り場の女の子をモデルに写真撮影。小金治は直接松尾に売り込もうとデートに誘うのだが、3人とも失敗してしまう。ライバルのスターライト社がピタゴラスと契約の噂。3億円の仕事を小金治が勝手に断ったことを知った小川は激怒。一ヶ月減俸にされてしまう。関東発火器では新製品『サロメガスライター』を出す。イメージキャラクターに採用されたのは何と、久里。久里はこれで一躍人気者になってしまう。そんな時、世界一のライター王のバルブ(EH・エリック)が来日。エリックとの契約を絶対に取り付けるように支持された3人はエリックを探す。山谷のドヤ街に潜伏していたエリックを確保した小金治だが、エリックから接待を要求される。小金治たちと同席していた松尾が気に入ったエリックは「松尾をよこせ。」。それは出来ない小金治。久里のポスターを見たエリックは今度は「久里をよこせ。」今や売れっ子になった久里、小金治は久里のマネージャーに頼み込み、夜3時間だけ時間を作ってもらう。しかし久里はセックスまで要求するエリックにブチ切れて、エリックをぶん投げてしまう。結局、ライター各社で耐久テストをして、一番優秀な会社と契約する事になる。このテストに関東発火器は勝利するのだが、エリックの接待費が膨大だった事が問題となる。前月で200万、今月が500万円。土井課長(河上信夫)が責任を取らされて札幌に飛ばされることになる。河上の息子は私立の幼稚園に合格したばかり。息子の家庭教師をしていた野呂は、河上の代わりに自分が行くと言い出す。実はこの接待費は雪丘が着服したものだった。河上はその罪を着せられたのだった。怒った3人はエリックの泊まるホテルに殴りこむ。鼻で笑ったエリックに天誅!大暴れ。その後、河上の家で辞表を出そうと盃を酌み交わす3人。田舎で百姓をする決心の小金治。そこへ小川がやってくる。何故か契約が取れたらしい。小川の話ではエリックとオスマンは日本の企業を調べるためにやって来た調査員だった。小金治たちの行動は合格。海外を相手にするため社名もサロメライターKKと変わる。会社の金を横領した雪丘はクビ、河上の札幌行きもなくなる。松尾は小川の娘ではなかった。社員をテストするために連れて来ただけで、アメリカには婚約者がいるらしい。仕事は取れたが恋に破れた3人はガッカリ。しかし小川にはアメリカに本当の娘がいるらしい。既婚者だが、この娘には3人の孫娘がいる。日本にやって来た孫娘たちだったが、まだ幼稚園児。「もう一ぺん、幼稚園からやりなおすか。」という小金治。3人が園児たちと遊ぶ姿にエンド。
 春原監督お得意の喜劇映画だが、平凡な出来であまり面白くなかった。松尾嘉代はメンコイが、出演者が地味(笑)。しかし野呂圭介や山田吾一が主役クラスの扱いなのは珍しいのでは?こうやって書いておかないと3日で忘れてしまう程度の作品。
(2005年11月11日記)