第6話 映画館じゃないけれど・・・・・ |
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映画館ではない。ご存知、本屋の三省堂である。 しかし80年代前半頃、映画を観る事が出来た。5F?6F?辺りに個室ビデオの部屋があったのである。 個室ビデオというと、何やら淫靡な響きがあるが、ここは天下の三省堂。エッチなものはありません。洋・邦画のビデオソフトを有料で鑑賞する事が出来たのだ。 ここに置いてある映画のライブラリーは実に充実していた。普通のビデオ屋では置かないような作品を置いていたのだ。オイラがここで観たのは84年頃。しかも日活映画ではない。東宝映画、三橋達也主演の『国際秘密警察シリーズ』であった。(こんなマニアックな作品、普通の店は置かないよ!)1963年〜1967年にかけて東宝で製作されたシリーズ物である。タイトルから分かるように、当時流行った007映画の安っぽい模倣作品である。 国際秘密警察のエージェント北見二郎(三橋達也)が悪の シンジケートやテロリスト達と戦うスパイアクションである。話がそれるが、この手の作品は洋・邦画問わず、この時期本当に多かった。洋物では『0011ナポレオンソロ』、『スパイ大作戦(ミッション・インポッシブル)』、『サイレンサー部隊シリーズ』。 |
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邦画では東映の『スパイキャッチャーJ3』(原作・脚本・都筑道夫)東宝では『国際秘密警察シリーズ』の他にも宝田明主演の『100発100中シリーズ』(脚本・都筑道夫)が。そして我らが日活では『野郎に国境はない』(65年作品、脚本・高岩肇 宮川一朗 福田陽一郎、監督・中平康、主演・小林旭)、『俺にさわると危ないぜ』(66年作品、脚本・都筑道夫 中西隆三、監督・長谷部安春 主演・小林旭)、『アジア秘密警察』(66年作品、脚本・山崎厳、監督・松尾昭典、主演・二谷英明)『夜のバラを消せ』、『爆破3秒前』等々・・・007シリーズの成功に触発されて製作された物であるが、いずれも本家に負けない面白さを持っていた。 何故、三省堂でわざわざ観たのかと言うと、83年頃に池袋文芸座で毎週土曜に行われていたオールナイトで『国際秘密警察シリーズ』全作一挙上映大会をやった事があった。オイラは高校時代、映画評論家の西脇英夫著『黄昏にB級映画を観てた』を読んで、「ぜひ観たい!」と思っていた。しかし無名のB級邦画である。なかなか観る機会が無かった。そんな時に文芸座で全作観られる。オイラは土曜の夜に出撃した。しかし基本的にオイラは夜更かしはダメなのである。1作目までは何とか起きていられたのだが、零時をまわる頃、2作目辺りでダウンしてしまった。そんな訳で、クヤシイ思いをした作品なのである。ここで見つけた時は、ビックリした。正直、もう観る機会はないだろうと思っていたからだ。一本の鑑賞料金はいくらかだったか、もう忘れてしまった。夏休みだったか、冬休みだったかも記憶に無い。とにかく長期休暇中だった気がする。この時はバイクの免許を持っていたので、親父のスーパーカブに乗って、三省堂に通った。国際秘密警察シリーズのラインナップは下記の通り。主演は全て三橋達也。 1、国際秘密警察 指令第8号(63年作品、脚本・小川英 間藤守之、監督・杉江敏男 2、国際秘密警察 虎の牙(64年作品、脚本・安藤日出男、監督・福田純 3、国際秘密警察 火薬の樽(64年作品、脚本・関沢新一、監督・坪島孝 4、国際秘密警察 鍵の鍵(65年作品、脚本・安藤日出男、監督・谷口千吉 5、国際秘密警察 絶体絶命(67年作品、原作・都筑道夫、脚本・関沢新一、監督・谷口千吉 1〜3作目くらいまではシリアスなスパイアクションであった。それはそれで面白いのであるが、やや単調で観ていて疲れる事があった。ところが、4作目から徐々にコメディアクション的な展開になり最終作になると、完璧なコメディとなった。例えば三橋の所属する日本支部が刑務所の中にあって、三橋は出入りの度に囚人の格好をしなければならなかったり、刑務所の中に『国際秘密警察日本支部』と書かれた電飾の看板が掲げてあったり・・・等々。この時期製作されたほとんどのスパイ物には、活字の魔術師の異名をとる作家の都筑道夫氏の名前が入っている。コメディになったのはこの人のアイディアかな?何作目だか忘れたが、特撮を円谷英二が担当していた気がするんだけど・・・気のせいか。オイラは全5本を、1日1本ずつ観る為に三省堂に通った。今では個室ビデオがあった形跡はかけらも無いが、オイラにとって三省堂というと『国際秘密警察』である。 |