うちのおばあちゃん(55年97分白黒 脚本・柳沢類寿 監督・春原政久)
 東京近郊に住む岡本家。家を切り盛りしているのはあさまおばあちゃん(田村秋子)。息子の鍋作(佐野周二)は男やもめ。3人の娘と2人の男の子がいる。双子の正子、槇子(北原三枝@二役)、長女の正子はおとなしいがしっかり者でタイピストをしている。勝気な次女の槇子は新聞社で記者をしている。受験を控えた高校生の長男・千曲(牧真介)、その下には17才の高校生でソフトボール部に入っている渚(島田文子)、幼児の木工(香川良久)がいる。佐野の妻は木工を生んだ時に亡くなってしまった。だから命日と香川の誕生日は一緒。幼い香川にはこれが理解できていないようで田村に「どうして?」と無邪気に尋ねてしまう。家族みんなは苦笑するしかない。正子&槇子は双子のせいか、街で度々間違われるようだ。ある日、槇子は街で医師の佐貫次郎(安井昌二)に声をかけられる。安井は正子と間違えたようだった。数日前、正子は扁桃腺を腫らせて会社の3Fにある診療所で治療を受けていた。診察したのが安井。安井は正子に一目惚れ。間違われる事に慣れている槇子は正子に成りすましてランチをご馳走になる。安井は島田の高校の校医もしている。槇子には社会部記者・安藤三郎(長谷部健)という恋人がいるのだが今度は長谷部が間違えて街で正子に声をかけてしまう。長谷部は間違いに気づくのだが槇子と違って清楚で慎ましい正子に惚れて初対面でプロポーズしてしまう。田村は近所の人気者。隣家の庄田善吾(東野英治郎)、きり(山岡久乃)が夫婦喧嘩の度に田村のところにやって来ては田村に仲裁してもらう。佐野の妻の命日がやって来た。家族で墓参りに行く予定だったのだが佐野は仕事の都合でダメ。そんな時に島田がソフトボールの試合で足を骨折してしまう。治療をしたのは安井だった。安井は校医や診療所の医師をしていたが実は父・千田是也が院長を務める佐貫病院という大病院の御曹司であった。島田は佐貫病院に入院。島田が骨折したニュースを聞いた田村はショックで倒れてしまう。田村を介抱したのも安井。佐野の会社は業績が悪く社員のリストラが避けられない状況だった。佐野の部署からも5人切らなければならなかった。人の良い佐野には苦しい決断だ。家族で島田の見舞いに行く。千田は佐野に「お嬢さんを息子の嫁に・・・」。北原三枝が双子と知らない千田。安井も街で声をかけたのが槇子の方と知り驚くがハッキリした性格の槇子にも惹かれてしまう。正子、槇子両方好きになってしまう安井と長谷部。ある日、長谷部が田村のところにやって来る。正子、槇子のことでやって来たのだが、東野&山岡夫婦がまたまた乱入。あまり話も出来ずに喧嘩の仲裁に追われてしまう。夕方、会社帰りの佐野と駅でバッタリ会った東野は佐野を飲みに誘う。行った先は最近、通っているという居酒屋。そこの女将さん(藤間紫)は戦争中、佐野の上官の奥さんだった。上官は既に亡くなり未亡人となって女将をしていたのだった。これを機会に通い出す佐野。部下をリストラ出来ない佐野は自分が会社を辞めようと考える。藤間の店でヤケ酒、帽子を忘れてしまうのだが翌日、藤間が届けてくれる。長谷部が白光ゴムに不正があるという情報を仕入れてくる。佐野は長谷部の協力で不正を暴く。資材の横流しをしていた重役&管理職を一掃。リストラしなくて済むばかりでなく佐野のポストも上がる。数日後、正子&槇子と安井、長谷部の集団見合いが行われる。佐野や東野&山岡も同席するものの合コンのノリでジェネレーションギャップを感じる佐野たち。その頃、田村は家で日課の昼寝。そこへ香川が外から帰って来て一緒に昼寝。田村は香川に「新しいお母さん欲しくない?」。「わかんないや。」と津村。佐野と藤間も上手く行っているようだ。田村は昼寝で夢を見る。正子&槇子が安井、長谷部と結婚式を挙げている夢(どちらがどちらと結婚するのかは不明)。田村と津島が並んで昼寝しているところでエンド。
 おばあちゃん(田村)を中心に家族や隣家の様子を淡々とした調子で描いたホームドラマ。ラジオ東京で放送された連続ラジオドラマの映画化。北原が双子の役というのは面白い。こんな美人が二人いたら迷ってしまうよ。安井や長谷部の気持ちはよく分かる(笑)。しかし兄弟間のやり取りがあまりない。枕投げのようなシーンはあったものの兄弟という感じがしなかった。何より末っ子の津村が他の兄弟の間で浮いていたような気もなくはない。映画の出来は可もなく不可もなく。取り立てて評価するほどのものではない。
(2003年8月24日記)

          美しき抵抗(60年59分白黒 脚本・原源一 監督・森永健次郎)
 大学の助教授・松波亮輔(北沢彪)、妻・ゆき子(高野由美)には3人の娘がいる。長女・智恵子(香月美奈子)、次女・都紀子(沢阿由美)、三女・久美子(吉永小百合)。香月は栄養士、沢は外資系製薬会社の英文タイピスト、小百合は速記士を目指しながら演劇に熱中する高校生。北沢は薬学の研究で家庭を顧みることは少ない。元々、学者肌で8年間兵隊に取られていたので取り返すために必死だ。高野はそんな北沢に不満を漏らすことも無く、内職のミシン編みをしながら家庭を切り盛りしている。3人の娘たちはそんな両親の姿に不平を言いながらも理解している。映画の冒頭、沢の会社の社員が3000ドルの高給で引き抜かれて、アメリカに転勤していくのを羽田で見送る。研究に没頭している北沢の安い給料、高野が内職をして生活を助けている事を考えると気が滅入る。そんな時、社長(小泉郁之助)から研究員として北沢を招きたいと言われる。大学にいるよりも3倍の給料を出すという条件に舞い上がる沢だが、北沢は研究に専念したいと断ってしまう。娘たちは文句を言うが高野は「お父さんにはお父さんの考えがある。」と取り合わない。香月には親の勧める医者の恋人・中田(梅野泰晴)がいた。北沢に似た学者肌の男で、デートの誘いも速達で指定して来たり、食事中なのにビールを3本飲んで酔っ払った梅野は「日本人が柔道に強いのは和式便所だから。」とデリカシーがない。日曜日、デートから帰ってきた香月は家族に梅野の悪口を言うが、北沢と高野は「飾り気がなくて良い。」と言って取り合わない。口では嫌う香月だが内心はまんざらでもないようだ。小百合は休みの日に奥多摩でキャンプをして農村で人形劇の公演をする計画を立てていた。人形の衣装の裁縫を高野にしてもらった日、速記の学校に行くために人形劇の稽古に行けないために衣装を部の仲間の三川(浜田光夫@デビュー間もないため本名の光曠で出演)に取りに行かせる。その際、生徒だけで泊りがけ公演に行く事を知る高野。その夜、北沢と高野は反対して小百合と喧嘩となる。そこへ友人の松本寿子(堀恭子)に誘われてダンスホールに行った沢が帰ってくる。夜遅く酔っ払って帰る沢を「お前は不良になったのか!」とビンタする北沢に「お父さんの研究を支えるためにみんな働いているのよ。少しは楽しんだって構わないはず。」と言い返して喧嘩となる。それが発端となり娘たちの北沢に対する不満が爆発。「(北沢は)横暴だ。」という娘たちの声。その夜、思い直した高野は北沢に「小百合のキャンプを許してやろう。」と取り成す。この事で家庭を顧みなかった自分を反省した北沢は旧友で斉藤医師(伊藤寿章)から、誘われていた病院の内科部長のポストに就く決心をする。部長になれば給料も大学の3倍貰える。生活も楽になる、という北沢に高野は「娘たちも口で言うほど気にしてはいません。遠慮なさらなくて良いのよ。」と答えるのであった。あくる朝、何事もなかったように3人の娘たちは、元気に身支度をして会社や学校に出かけていくという日常の風景がラストシーン。
 上映時間59分のホームドラマ。松波一家の家は小田急線喜多見駅近くという設定。60年当時の喜多見駅周辺が映るのは貴重な資料映像だ。現在の喜多見駅は特に特徴の無い駅舎だが、当時は山小屋風の一戸建ての建物。小田急線も当時は高架線ではないローカルな感じ。高野は典型的な良妻賢母の母親役を好演。こんな奥さんがいたら家庭円満間違いなし。それにしても描かれる男女関係や家族形態は今日から見ると古めかしく納得できない描写が目立つ。例えば北沢は家庭を顧みない学者肌の男なのに、キチンと結婚して子供も3人も作っている。そんな男(オタク)がどうして結婚できるんだ。しかも香月と付き合う梅野もそんな感じでどう見てもモテるタイプではない。こんなオタク男が香月のような美人と付き合えるなんて映画とはいえ納得できない。昔はオタク男に対して世間は優しかったのかな? OLしている沢が酔っ払って帰ってくる事を咎めて、女は純潔であることが大事と沢を諭す高野も言う事が古臭い(親としては当然か!)。毎度の事ながら高校生役の吉永小百合はメンコイ。人形劇では女王様役を演じるようだが、小百合サマが女王様になってくれるのならオイラは奴隷にでも何でもなるゾ!!(またこれかい!)。出演は他に北沢家の隣家の大学生で沢の幼馴染みの良雄(沢本忠雄@顔見世程度なのは残念)が出ていた。沢と沢本は幼馴染み以上恋人未満の関係という感じなのだが、これといった恋愛描写が出てこないないのは不満。ラストの出社シーンで沢と沢本は連れ立って喜多見駅へ向う程度。映画の出来の方は可も無く不可も無いもの。3姉妹一人一人に絞って描いても面白いものが出来そうなので59分という時間は勿体無い。

(2003年7月4日記)

          乳母車(56年、脚本・沢村勉、監督・田坂具隆)
 女子学生のゆみ子(芦川いずみ)は父親の宇野重吉に愛人(新珠三千代)がいる事を知り、 新珠の家を訪ねる。新珠には宇野との間に女の子の赤ん坊がいた。 芦川はここで新珠の弟の石原裕次郎と出会う。愛人としての後ろ暗いところもなく堂々としている新珠の姿に感銘を受けた芦川は裕次郎と協力して赤ん坊の力になることを決意する。
 石坂洋次郎の同名小説を映画化。映画は2時間近い長い作品だが、原作は短編である。沢村、田坂コンビは石坂ワールドを壊すことなく上手く膨らませることに成功、文芸物として一級品の作り。特に登場人物たちが心情吐露する台詞は秀逸。
(2000年10月22日記)

          海の純情(56年 46分白黒 脚本・田辺朝巳、真弓典正 監督・鈴木清太郎(清順))
 春日八郎の歌う同名の流行歌を主題歌にした歌謡映画。舞台はある港町。捕鯨船員の春海八郎(春日八郎)は歌が上手くて女にモテモテ。芸者・鈴菊(明美京子)、バーの女給・由美子(小田切みき)、漁業会社の横山部長(天草四郎)の娘で女子大生・美代(高友子)たちから求愛されている。しかし春日が好きなのは船長・織田栄三(小林重四郎)の娘・和枝(高田敏江)であった。春日と高田は相思相愛なのだが二人ともシャイで告白できない。小林は腕の良い鯨取りだったが歳のせいか?ここの所、モリの鉄砲撃ちに失敗。引退を考えている。春日がモテモテの噂を聞いた小林は春日にツラク当たる。ある日、捕鯨に出た小林は鉄砲モリを撃つが誤って海に落ちて鯨を逃がしてしまう。救助されたもののダメージを負いモリが撃てない小林の代わりに春日が射手を務め、見事に大量の鯨を仕留めてみせる。この事で女たらしの疑いが晴れ、小林は天草に辞表を出しモリ撃ちの跡目を春日に譲る。そして春日は高田と結ばれるのであった。
 『勝利をわが手に・港の乾杯』に続く、清順監督第2作。映画の出来は大した事はない凡作(愚作)で自主映画レベルの作品。しかしユニークなのはタイトルバックで高友子がカメラ目線で「私は大学で鯨の勉強をしています。」と言って持っていた紙を広げるとチープな感じの鯨が泳ぐアニメになりそこへタイトルが被る。ラストシーンは捕鯨船の船首に立つ春日と高田が接吻しようとすると二人の姿が鯨のアニメに切り替わり、2頭の鯨の間から子供の鯨がポンと出てエンドマークが出るというもの。46分の小品にしてはアニメ処理とは凝っている。春日に求愛する女性陣の性格設定も変わっている。芸者の明美は別名・柔道芸者。着物を脱ぐといきなり柔道着姿になり酔っ払いを投げ飛ばす。(客を投げて良いのか?)。女給の小田切みきはドライで男の価値を年収で決める。(現在では珍しくないだろうが、当時としては先駆者だったのか?)、3人の中でまともなのは高友子くらい。映画の序盤は春日の2枚目ぶりが陳腐だ。宴会の席で明美が春日に得意の柔道で挑むがあっさり倒されたり、小田切が春日の気を惹こうと海に身投げをしたりとアホらしい展開。歌謡映画だから春日がやたらと歌を歌いまくる。歌の合間にストーリーが入るという 感じで清順はムキになって歌のシーンを入れたのか?実弟の鈴木健二がナレーターを担当していた。しかし鯨取りという職業が時代を感じさせる。
(2001年10月29日記)

          海の鷹(63年88分 脚本・長谷川公之、宮田達男 監督・古川卓巳)
 桂木秀男(高橋英樹)は商船大学生。実家は横浜で海運会社を経営している。亡くなった父親の後を継いで兄・進一(小高雄二)が社長を務めている。卒業航海まで1週間の休みに英樹は実家に帰ってくる。実家の会社は谷(二谷英明)が社長を務める谷海運に押されていた。二谷の部下の室戸(大坂志郎)とその子分・五郎(郷^治)は暴力と脅しで日雇い人夫を独占。桂木海運には回さないように画策したり荷を抜いたりして営業妨害していた。小高は何度か二谷に苦情を言うが二谷は取り合わない。証拠もないため泣き寝入り状態だ。事故続きのため先代からの得意先の多くが二谷の会社に移ってしまう。小高は一週間後には航海に出て行く英樹を気遣い、会社のピンチは知らせない。何も知らない英樹は昔馴染みの友人でクラブバンドのペット吹き・杉本(杉山俊夫)の手伝いでトランペットを吹いたりする。ある日、英樹は郷のグループと争っていた百合子(和泉雅子)と知り合う。危うく郷に犯されるところを英樹が救う。和泉は二谷の妹だった。グレてトニー(平田大三郎)たちとヨタっていた和泉だが定石通り英樹に惹かれ始める。会社のピンチを番頭の甚吉(佐野浅夫)から聞いた英樹は荷揚げの現場を見に行く。大坂と郷の妨害はエスカレート。爆薬を仕掛けて船ごと爆破されてしまう。この爆破で佐野は亡くなってしまう。英樹は和泉を呼び出し二谷の会社の悪行を問いただす。和泉は二谷を責めるが二谷には憶えが無かった。全ては大坂が仕組んでいた。二谷が問いただすと大坂は開き直ってしまう。二谷は10年前、東京の飯場で働いていたが些細なことで愚連隊の恨みを買ってしまう。この愚連隊のリーダーが大坂。二谷は愚連隊の一人ともみ合っているうちにあやまって一人を射殺してしまう。銃は愚連隊の持っていたものだった。二谷は幼い和泉を思うと自首できずに大阪へ逃走。真面目に働いて2年前に横浜で谷海運を起こしたのだった。ある日、二谷の前に大坂が現れ二谷を脅迫、会社に居座ったのだった。桂木海運では得意先が次々に谷海運に寝返っていく。積荷も沈んでしまったため得意先(小泉郁之助)から翌朝9時までに同様の品物を用意しろと要求されてしまう。英樹も協力して東京からも取り寄せるが品物を運ぶトラックが足りない。英樹は二谷に頭を下げる。二谷は口では悪く言うが英樹の会社にトラックを回してやる。そして警察に自首をする。何とか品物の搬入作業にかかる小高と英樹。谷海運乗っ取りを企む大坂は郷を使って搬入作業中のダルマ船に爆薬を仕掛けていた。船上で殴りあう英樹と郷。大坂を発見した小高は港で大坂と殴りあう。英樹は爆弾の解体に成功。作業は予定通り再開される。しかし小高は大坂に撃たれ重傷を負う。計画が失敗した大坂は車で逃走。追いかけた英樹と対決、そこへ自首したはずの二谷が現れる。警察の話しでは10年前の銃の弾は佐野が爆死したときの船に撃ち込まれた弾と一致していた。10年前の殺しは二谷がやったのではなく大坂が後ろから撃ったものだった。大坂は警察に逮捕され英樹は二谷と和泉、杉山、吉行たち見送られ練習船に乗って卒業航海に出るのであった。
 出演は他に二谷の恋人で杉山の姉・マリ子(吉行和子)、クラブ支配人(弘松三郎)、出番が最初だけ商船学校長(二本柳寛)等。吉行は杉山の働くクラブでホステスをしていた。映画の出来は平凡なモノであまり面白くない。解せないのは二谷である。大坂が小高の会社の人夫を暴行したり積荷を抜いたりして小高から抗議を受けても一笑に付してしまうのは納得できない。自分の部下くらいキチンと監督しろよ、と言いたい。良い人ぶりやがって納得できんゾ!!
(2003年2月7日記)

          海は狂っている(59年88分 脚本・石原慎太郎、古川卓巳 監督・古川卓巳)
 ヨットハーバーの管理事務所で働く牧夫(川地民夫)は日系二世のヒガ夫妻(二本柳寛、楠侑子)の助手で大島周航のヨットレースに出場していた。明け方、舵を握っていた川地は船に飾りつけてある妖精?(女神?)の幻覚?夢?を見る。驚いて二本柳たちの部屋を覗く。ベッドに横になっている楠と二本柳。見てはいけないものを見て興奮!?した川地は、「自分だけのヨットを持とう。」と決心する。以来、川地は貯金を始める。同じ事務所に勤める初枝(清水まゆみ)は川地が好きらしく、何かと世話を焼いてくれる。清水の弟・時次(山崎雅美)は川地の弟分だ。川地は事務所ではあまり親しい友人はいないよう。唯一、心を許せるのが山崎だった。ヨットを買う決意をして貯金を始める川地だが、事務所の給料だけではとても無理。川地は時間貸しのヨットの延長料金をピンはねしたり、恐喝したりで小金をせしめ郵便貯金していく。給料日、同僚の浜口(木浦佑三)、君島(武藤章生)たちにナイトクラブに誘われた川地は、ここでホステスの春子(南田洋子)と知り合う。酔い潰れた川地は南田の部屋に泊まるのだが、初めて知った女の体に溺れた川地は頻繁に南田のいるクラブに通うようになる。郵便貯金も切り崩して通い詰める川地を心配する清水。ある日、金を作るために川地はチンピラ相手にギャンブル。勝つのだが、チンピラたちは払おうとしない。乱闘になるのだが、通りがかった二本柳に救われる。(南田の事は言わず)自分のヨットを買うために金を作ろう、と言う川地に同情した二本柳は、知り合いで帰国予定の米人のヨットを川地に紹介。安い値段で譲ってもらう。念願のヨットを手に入れた川地は南田を誘う。南田にしてみれば、単なる客の一人にしか過ぎない川地の誘いに乗り気ではないのだが、熱心に口説かれて川地のヨットに乗る。それを見ていた木浦や武藤たちは嘲笑。事務所の責任者の松川(西村晃)は「(南田は)情があって良い子なんだよな。」。西村の話では、木浦や武藤たちも南田に「筆おろし」して貰った過去があるらしい。南田を笑った木浦や武藤たちに怒った川地は復讐を誓う。台風が近づいたある日、修理の済んだヨットを届けるために木浦や武藤たちは出航していく。川地はヨットのメーンステーに切れ目を入れて、航海途中に切れるように細工をしていた。暴風雨の夜、木浦たちは遭難してしまう。内心ほくそえむ川地だが、弟分の山崎も同行していた事を知りショックを受ける。そして荒れる夜の海へ、自分のヨットで飛び出していくのであった。
 石原慎太郎の『ヨットと少年』を映画化。慎太郎は川地民夫をイメージしてこの作品を書いたそうだ。風俗の女に入れあげて、貯金を切り崩していく川地の気持ちは、王者のオイラには良く分かるし、身につまされる(笑)。清水まゆみという彼女(にはまだなっていないようだ)がいるのだから、いい加減にしろよ、と言いたいが、この映画の南田洋子は色っぽい美人。おそらくセックスも上手だったのだろう。童貞という設定(だったはず)の川地が夢中になってしまう気持ちは良く分かる。
(2005年5月7日記)

          浮気の季節(59年白黒 脚本・松浦健郎、山崎厳 監督・阿部豊)
 定年まじかの人事課長・桐野省三(益田喜屯)には3人の娘がいる。しっかり者の長女・直子(吉行和子)、テレビ局に勤めるやり手の次女・マキ(中原早苗)、空手をやっている大学生の三女・桃子(沢村みつ子)。3人の気がかりは益田の事。自分たちが結婚して家を出たら益田の面倒を見る人間がいない。そこで密かに見合いを計画する。相手は飲み屋の女将の村越君子(奈良岡朋子)。中原の恋人で警官の石毛虎太郎(小沢昭一)の紹介。奈良岡も8年前に夫を亡くしていた。益田の誕生パーティに連れて来て、さりげなく見合いさせようという作戦。当日、ケーキを買った沢村は店の入り口で印藤良平(赤木圭一郎)とぶつかって、ケーキを落としてしまう。赤木はケーキを弁償、車で家まで送る。その夜、益田の家でパーティが開かれる。3人娘の他、集まったのは吉行の恋人で益田の会社の発送部で働く宮本一郎(岡田真澄)、小沢、そして奈良岡。益田と奈良岡は良い雰囲気。奈良岡が帰った後、娘たちは益田に奈良岡の印象を尋ねるが益田は素っ気無い。しかし妻の仏壇に申し訳なさそうに「何だか“よろめき”そうになってきたよ。」赤木は益田の会社の社長・印藤慶吾(小川虎之助)の息子であった。小川は息子を住吉銀行頭取(小泉郁之助)の娘・令子(葵真木子)と見合いさせようとしていた。しかし赤木はストリッパーのジェニィ原田(白木マリ)と付き合っていた。赤木に白木を紹介したのが岡田だと知った小川は益田の反対を聞かずに岡田をクビにしてしまう。吉行は岡田をかばい切れなかった益田に反発、家出して岡田と暮らし始める。益田は小川の命令で赤木と白木を別れさせようと菓子折りを持って白木のところに行くのだが、白木は赤木とは別れないと宣言。白木の部屋のTVでは中原が作った『その犯人は私が挙げる』が放送中。中原が映る。番組では吉行が情報提供者として電話出演していた。TVで紹介していた住所から吉行の居所(新宿区四谷4−21セイワ荘・・・住所をTVで言って良いのか?)が分かった益田は白木の部屋を飛び出す。中原は『その犯人は・・・』の情報提供者に岡田と吉行をヤラセで使ったのだった。この賞金は20万円。失業している岡田と吉行には有り難い話。中原はカメラマンを連れて吉行にインタビュー。そこへ益田が吉行を連れ戻しに乱入。さらに小沢が仲間の刑事を連れてやって来る。中原は犯人(弘松三郎)の共犯者を捕まえてTV局で保護していた。小沢は犯人隠匿の罪で中原を逮捕してしまう。小沢が言うには「中原は自分よりも給料が高いからバカにしている、お灸をすえるつもりで留置所に入れた。」そうだ。益田は「良いクスリだ。」と感心。数日後、赤木と葵の婚約パーティが開かれる。赤木は小川の会社の融資のために婚約はしたものの、葵と結婚する気はなかった。パーティに乗り込もうとした白木だが、益田は「赤木が待っている。」と騙して熱海の旅館に連れて行く。赤木はパーティを抜け出し、白木を捜しに益田の家に行く。留守番をしていた沢村と仲良くなる赤木。熱海の旅館では酔った白木は大暴れ。女中(若水ヤエ子@オヤエさんか!?)に慰められてしまう始末。白木と酒を酌み交わす益田は意気投合。白木は益田に心中をせがむ。二人は白木の持っていた毒を飲んで心中してしまう。そこへ小川と藤村が現れて大騒ぎ。しかし二人は死んではなかった。白木の持っていた薬は毒でも何でもなかった。白木は酔うと死にたくなるので持っていた苦りクスリだった。赤木に愛想をつかせた白木は小川に諭され益田と結婚する事に(笑)。心中が一転、祝言に変わる。TVの懸賞金で旅館に泊まっていた岡田と吉行も現れ、またまた大騒ぎ。熱海の旅館に車を飛ばす赤木と沢村。途中、二人はケンカして沢村は車を降りて一人で帰ってしまう。チンピラ5人組にカラまれる沢村だが、得意の空手で追い払ってしまう(笑)。そこへ赤木が戻ってくる。赤木の胸で泣きじゃくる沢村だった。翌朝、旅館から白木の姿が消えていた。残されていたテープレコーダーに白木の声が録音されていた。「・・・ひょんな事から結婚しちゃったけど、私たちが一緒になっても上手く行きっこない。手切れ金の50万円と(小川から貰った)100万円は頂いていきます・・・」。白木は姿を消したものの、今度は赤木と沢村が結婚したいと言い出す。益田は小川にこの事を話すが、激怒した小川は益田をクビにしてしまう。更に赤木を連れ戻しに、部下を引き連れ益田の家に乗り込む。怒った沢村は空手で小川の部下たちを蹴散らす(笑)。ショックで倒れてしまう小川を開放する沢村。この事で小川は赤木と沢村との結婚を認め、岡田は営業課長に抜擢、益田も人事課長に復帰。岡田&吉行、小沢&中原、赤木&沢村の結婚式が盛大に行われる。益田も奈良岡と良い雰囲気。ラストは3組が乗るオープンカーが海岸線を走る。そこへ何故か新婚だというカミナリ族たちと併走、エンドマークが被る。
 意味深なタイトルだが、これといって悩ましいシーンの無い他愛のない喜劇。こんな作品でも白木マリがダンサー役とは定石通りでタマラン(笑)。まだ主演スターとなる前の赤木がボンボン役をやっていたのは記憶に残るが、観るべきところのない凡作。出番が少ないが、若水ヤエ子がオヤエさん役で出ているのはご愛嬌。
(2004年4月28日記)