15話
夜の最前線・東京マル秘地帯

 

夜の盛り場は楽しそうな奴らが多くて腹の立つ事が多い。特に週末の夜は最悪だね。どいつもこいつも世の中楽しくて仕方が無いという風の奴らばかりだ。
 数年前の金曜の夜、オイラは新宿にいた。当時、南口にあった名画座で映画を観た。名画座といえば聞こえは良いが、ここは邦画ヤクザ映画3本立ての映画館。客層はマニアとニコヨンばかりだ。この時に観た一本は渡哲也の『東京流れ者』だった。映画は22時頃に終わってオイラは劇場を出た。新宿駅へ歩く。気分だけは映画の主人公『不死鳥の哲』だった。
「流れ者には女はいらねえんだ。」
イカス台詞だぜ。この台詞をかてに今日も生きていく・・・トホホ。その時であった。「GUTSさ〜ん!」女の声がした。何だ?オイラを呼びとめる女なんて、この地球上には存在しないはずだゼ!振りかえるとそこにいたのは会社の同僚、雅子チャン(25才)だった。第11話でソリマチ君やヒトミさん達と一緒にプールに行ったコである。普段は銀縁のメガネをしているが、実は素顔は神田うの似の美人であった。この頃、オイラにとって精神的なヒロインはヒトミさんだったが、肉体的には雅子チャンだった。プールに行った時も実は雅子チャンの水着姿をメモリーして夜のオカズにさせて頂きましたぁ!(その節は大変お世話になりました)。しかし金曜の夜にこんな所で一体どうしたんだ?「GUTSさん、飲みに行こうよ。」雅子チャン、既にどこかで飲んでいたらしく、ちょっと酔っていた。でも周囲には雅子チャンの連れらしき男もいない。「良いけどどうしたの?誰かと一緒じゃないの?」オイラは尋ねたのだが雅子チャンは「良いの、良いの。」と言うばかりで答えてくれなかった。
 会社での雅子チャンはオイラには冷たい存在だった。ソリマチ君等とは気さくに会話していたが、オイラには事務的な会話しかなかった。オイラはブサイクだからネ、仕方がない。声をかけて来たのは酔っていたからだろう。夜の街で偶然会ったとしても素面なら無視していたはずだ。まぁ良いや、上手くすれば雅子チャンのスレンダーな体に触れる事が出来るかもしれない、ナ〜ンテ妄想に股間のコルトをモッコリさせてどこに行こうかと思案した。雅子チャンは「行こう!」と言うとスタスタ歩き出した。仕方なく雅子チャンに付いて行った。通りに出ると雅子チャンはタクシーを拾った。乗り込むと運ちゃんに六本木に行くように言った。雅子チャンに尋ねると知っているクラブがあるそうだ。クラブ・・・しかも六本木かよ。自慢じゃないがクラブなんて行った事ないヨ。出来れば人の多い所じゃなくて静かな所で二人っきりってのが良かったんだけど・・・やっぱりエッチは無理かナ。そんな事を考えていたら車は六本木に付いた。「GUTSさん、早くお金払ってヨ。」オイラが払うんかい!そう思ったが仕方が無い、全額払いました(悲笑)。
 タクシーを降りると雅子チャンは飯倉片町方向に歩き出した。そこから裏通りに入ると雑居ビルの中にあるクラブに入っていった。いやスゴイね。中は山手線のラッシュ時みたいにメチャ混みだった。六本木のクラブってデカイ外人ばかり、ピーターアーツやアーネストホーストみたいな連中ばかりだ。ここ日本かよ。TVとかでは観るけどホントにこういう世界があるなんてカルチャーショックだよ。いや、まて・・・感動している場合じゃないナ。雅子チャンは!っと見るとアーツみたいな外人と何やら会話してる。何語で喋ってるんだ?そう思っていたらその外人とどっかに消えちゃった。後を追うにも人ごみがスゴクて見失ってしまった。 こんな所で置き去りなんて心細いじゃねえか!独りでこんな所にいても仕方が無いのでオイラは外に出た。しかしマイったね。オイラは何しに六本木まで来たんだ。仕方が無い、せっかく来たのだからオイラはこの辺を探索する事にした。路地裏を一の橋方向に歩いた。高級住宅街を抜けると広い通りに出た。そこには一軒のラーメン屋があった。
 オタクのオイラはラーメン大好きです。マニアと言う訳ではないが美味い店も数軒知っている。この店はS軒と看板が出ていた。雑誌等でも見ないから無名の店だな。味には全く期待していなかったが、腹が減ったから食べて行こう。案外無名の名店かもしれないし。オイラは暖簾をくぐった。ラーメンと炒飯のセットを食べたら何と!両方とも美味いヨ。ヨシっ!ここはオイラだけの秘密の店にしておこう。それ以来、月に1〜2回ぺースで食べに通った。この頃は大江戸線が開通していなかったから、この辺は交通機関のない陸の孤島だった。オイラは夜、バイクで食べに通っていたのだ。雅子チャンには見捨てられたけど、こんな店を発見出来たのだから良しとしよう。
 それから数ヶ月たったある土曜の夜だった。オイラは例によってバイクでこの店に来た。時間は23時近い。店は混んでいたが運良くオイラは席に付く事が出来た。しかし土曜の夜に独りでラーメンとはミジメだね。あぁ・・・でもいつもながら美味いヨ。この時、季節は冬。寒い時には熱いラーメンだね。ヘソまで温まる。味を堪能していたその時、オイラの隣で食べていたカップルが食べ終わり席を立った。隣の席が2つ空いた。いつもならオイラの後ろの客が座るところだが、座って来なかった。おかしいなと思ったら女の声がした。「こんな所で食べなきゃ良いのに!」チラッと後ろを見た。そこにいたのは男二人、女一人、20歳前後のチーマーだった。つまり2つ席が空いたけどオイラがいるから3人並んで食べられない。邪魔だから早く退けって事か。何て女だ。「順番だ、オイラが食べ終わるまで待ってろ!」オイラは怒鳴ってやった。(もちろん心の中で。)オイラはヘタレだから喧嘩する腕も度胸も無いヨ。手早く食べて店を出た。気分が台無しだ。毎度の事だが自分の意気地の無さが情けなかった。
 ところで雅子チャンだが、六本木で置き去りにされた半年後、突然会社を辞めていった。ソリマチ君の話では外人と結婚したらしい。もしかして相手はクラブにいたピーターアーツ似の奴かな。しかし夜の新宿での出会い、そして六本木のクラブと一体、雅子チャンはどういう人だったのか?謎だ。