抜き射ちの竜 拳銃の歌(64年92分 脚本・山崎厳、佐藤道雄 監督・野口晴康)
水原(藤村有弘)がボスの水原興行の組員が相次いで射殺される事件が起こる。何れも一発で心臓をぶち抜いていた。警察は死体から摘出された弾丸がオートマチックルガーである事から、この銃を使う拳銃使い・抜き射ちの竜こと壇竜四郎(高橋英樹)の仕業と断定、手配する。しかし英樹を個人的に知る前田刑事(菅井一郎)だけは「竜は相手の肩を撃つだけで殺しはしない。それに一年前に足を洗って今はどこかの街で堅気の暮らしをしているはず。」と主張するが却下される。そんな時、東京駅に英樹が降り立つ。改札口でかつての弟分・岡本健次(岩谷肇@新人、後の谷隼人)の姿を見かける。声をかけるのだが逃げてしまう。後を追うと黒木梨江(山本陽子@新人)とぶつかり見失ってしまう。山本の落とした口紅を拾った英樹は声をかけようとするが二人組の男に拉致されそうになるのを目撃、男たちを殴り飛ばし助ける。山本の顔を見た英樹は黒木(金子信雄)の組に殺された恋人・房江に瓜二つなのに驚く。「南條房江(字合ってる?)という女性をご存知ですか?」と尋ねるが山本は知らないと答え立ち去る。英樹はタクシーで岩谷のマンションへ行く。岩谷は借金があるようで借金取りが運送屋を雇って家財道具を運び出そうとしていたので英樹は借金を肩代わりして止めさせる。借金取りの話では岩谷はバンド(スカイラインバンド)の有望な専属歌手だったのだがタチの良くない女に引っ掛かってダメになってしまったらしい。借金取りたちが帰った後、電話が鳴る。女(山本)からのようだが電話に出たのが岩谷でないと判ると切ってしまう。マンションを出た英樹は男たちに襲われるがこれを救ったのが永遠のライバル・コルトのジョウ(宍戸錠)。しかし結局捕まってしまいマンションの一室に監禁されてしまう。そこには水原興行の幹部の死体があった。警察に捕まり取調べを受ける英樹。林刑事(雪丘恵介)たち捜査陣は英樹を疑う。英樹は一年前に房江の仇である金子を倒し(左足をカタ輪にしただけ)、足を洗ってダム工事現場で働いていた。肩代わりした岩谷の借金は一年間真面目に働いて工面したものだったが雪丘たちは信用しない。菅井は英樹をかばう。一晩、留置されるがアリバイが成立して英樹は釈放される。英樹が東京に戻ってきたのは死んだ房江の墓を建てるため。菅井は「東京にはお前を倒して名前を上げようというバカ野郎がたくさんいる。墓を建てたら早く東京を出ろ。」と忠告する。英樹は岩谷と山本を押さえ岩谷のマンションで話を聞く。山本は金子の娘であった。一年前に英樹が金子の組を潰した後、金子は水原(藤村有弘)から莫大な借金を作ってしまう(何で?)。その借金のカタに山本は藤村の経営するクラブで働かされていた。借金は後150万円あるようだがクラブでの稼ぎでは返せそうもない。それに同情した岩谷は山本を逃がそうとした。東京駅での一件はその時の事だった。そこへ三津田(垂水悟郎)の子分たちが乗り込んでくる。岩谷は捕まってしまう。捕まった岩谷を追ってたどり着いたのは六本木の中華レストラン・明華飯店のビル。2階までは行けるのだが上に行く階段がない。あるのは廊下の突き当たりにある大きな鏡。鏡を叩いたりして探っていると垂水の用心棒・りゃんこの銀(小高雄二)に追い出されてしまう。実は壁の隠しボタンを押すと鏡がせり上がり中にエレベーターがあるという仕掛けになっていた。英樹は房江の墓を建てる。墓前で手を合わせていると金子の子分で英樹に撃たれ左腕のない金子の子分・両刃の源(郷
^治)に襲われる。郷は背広の左袖に隠し持っていたナイフで襲って来た。さらに小高たちも襲ってくる(小高はルガーP08を使用している事から冒頭の殺しは小高の仕業)。郷は小高たちに射殺され英樹もピンチに陥る。そこへ木の棒に吊り下げられたルガーが英樹の頭の上に。草むらから錠が差し出したものだった。英樹は錠と協力して小高たちを追い払う。錠の弾は小高の子分の一人を打ち倒す(小高たちは乗用車の他に何故か霊柩車で乗ってきていて倒された奴を霊柩車で運ぶというオチあり)。英樹は錠と車で六本木の中華飯店にやって来る。そこには小高たちの使った車が止まっていた。自分たちを襲ったのは三津田組だと悟った二人は郷の死体を小高の車に放り込む。錠の話ではこの中華飯店の3階には会員制の賭博場があり2階の鏡の奥にエレベータがありそれで移動するらしい。三津田組の本拠地はその上の階にあるようだがそこは錠も行った事がなかった。垂水は麻薬の取り引きを企んでいた。神戸の麻薬組織の代理人・大沼(天坊準)とその秘書・みどり(香月美奈子)がやってくる。スケベな垂水は取り引きが終わるまで香月を人質代わりに置いて行く様に交渉。香月は垂水の所にいる事になる(言い寄られてピンチになるが切り抜けるシーンあり)。英樹は錠と共に藤村の組に厄介になる。藤村に借金のある金子は藤村の手下状態だ。錠の提案で天坊と垂水の取り引きを襲って金もブツも強奪しようと言う事になる。藤村のナイトクラブでは山本がホステスをしていた。英樹は金子に取り引きで金が入ったら借金を藤村に返して山本を岩谷と一緒にさせるように交渉。金子は藤村を倒して縄張りを取り戻したい。協力しろ、と言う。仕方なく了承する英樹。英樹に惹かれ始めた山本は「危ない事は止めて。」と頼むが懐のルガーを示して「もう遅い。」。英樹は垂水たちに連れて行かれた岩谷を救うために明華飯店に乗り込む。岩谷はイカサマ博打でここでも借金(30万円)を作っていた。英樹は「博打の借りは博打で。」と小高とポーカー勝負をする。そこへ錠が飛び入り。3人で勝負するが錠と小高はイカサマをしていたことから勝負は流れてしまう。小高がイカサマをしたのだから岩谷を返せと言う英樹に対し垂水は「錠が入る事を了承したのはあなた(英樹)だ。イカサマはお互いさま。」と譲らない。結局、5日待つからそれまでに30万作るという事になる。賭博場からエレベータで帰る時、錠は香月とすれ違いざま香月から紙片を受け取る。錠は香月と密通していた。紙片には取り引き場所と日時(3日後、山伏峠の立体交差店)が書かれていた。英樹はその紙片を錠の尻ポケットからスリ取る。藤村は英樹と錠に取り引き現場に乗り込みブツと金の強奪を指示。3日後、取り引きが行われる。英樹と錠は覆面をして現場に乱入。錠は天坊とも内通しているようで麻薬の積んであるはずの車を爆破。小高の車に自分の使っているライターを放り込み金を持って逃げた天坊を逃がす。しかし英樹は天坊の持っている金の入っているバッグの取っ手部分を射ちカバンを奪う。錠の動きに疑問を持った英樹。英樹は金の入ったカバンを藤村のところに持って行く。中には3000万円入っていた。藤村から謝礼の100万貰う。英樹はこの100万から藤村に金子の借金を払い山本を解放する事を約束させる。英樹は誰もいないキャバレーでスリ取った紙片を突きつけ錠を問い詰める。天坊&香月は錠の仲間。麻薬の取り引きというのは真っ赤なウソだった。錠は垂水と藤村を共倒れさせて縄張りを奪い大もうけを企んでいたのだった(ライターを放り込んだのは水原興行の仕業、これで共倒れを狙う)。錠は英樹に仲間に加わるように誘うが英樹は断る。錠は「本当は山本に惚れているくせに弟分の女だからと手を出さない。今どき珍しい浪花節。情けない野郎だ。」英樹は「どうしようと俺の勝手だ。」。二人の会話は藤村たちに聞かれていた。英樹が出て行った後、錠は藤村たちに捕まってしまう。英樹は藤村から貰った金を手紙を添えて山本に託す。手紙には「借金は払った。お父さんとも話をつけた。岩谷は朝までには戻るから岩谷の部屋にいるように。この金で遠くへ行って出直し給え。」内心、山本も英樹に惹かれているだけに悲しい。その頃、小高たちは藤村のナイトクラブに殴りこむ。錠は盾にされるが英樹が助ける。ドサクサに紛れて奪った3000万円を持ち逃げしようとする金子だが藤村の子分に射ち殺される。藤村は錠に倒される。形勢不利になった小高は車で逃げ出すが後部座席には英樹が。英樹は小高を銃で脅し明華飯店に案内させる。隠しエレベータは最上階にあるために昇る事が出来ない。ロープをつたって上がろうとする英樹だが小高に撃たれそうになる。そこへ駆けつけた錠が小高を倒す。錠は様子を見るために降りて来たエレベータに乗り込み最上階へ。そこには岩谷と香月が人質に取られていた。ピンチの錠をエレベータの天井部分に潜んでいた英樹が飛び出し垂水の左肩を射抜く。英樹は岩谷をエレベータに乗せ「山本が待っている。今度こそ離すんじゃないぞ。」。錠は垂水の金庫から札束を奪おうとするが瀕死の垂水に撃たれそうになる。気づいた英樹がルガーを撃つが弾が無い。錠の身代わりに香月が撃たれてしまう。錠は香月の仇と垂水を殺そうとするが英樹は止める。「香月が死んだのはお前のせいだ。」カッとした錠は英樹と勝負しようとする。英樹は垂水のリボルバーを取り錠を撃つ。錠はわざと撃たれる。驚く英樹。「どうやらこの辺が年貢の納め時らしい。俺はお前の事を知りすぎたらしい・・・良い奴だって事をな。」そこへ菅井たちが乗り込んでくる。錠は英樹の銃を奪い「やったのはこの俺だ。」と英樹をかばい一人捕まる。表に出ると山本がいる。菅井は「山本が知らせてくれた。お前(英樹)を助けてくれとな。」英樹は岩谷が待っていると山本を諭し警官隊の車に乗って去っていく。見送る山本に英樹の歌う主題歌「抜き射ちの竜」が被りエンド。
 赤木圭一郎主演の『拳銃無頼帖シリーズ』を高橋英樹主演でリメイク。宍戸錠がコルトのジョウ役で出演しているのは嬉しいが出来の方は平凡なものであまり面白くない。暗黒街の暗い雰囲気もイマイチだし高橋英樹ではトニーと違って明るい感じでとても拳銃使いには見えない。ヒロインの山本陽子もこの頃は垢抜けないからこれもイマイチ。それでも新人時代の谷隼人が見られるのは貴重な作品か?(下手クソな演技)。主人公の役名がトニー版では剣崎竜二だったのだが今回は壇竜四郎。壇竜四郎という名前は竜崎三四郎と並ぶ城戸禮作品のヒーロー名。英樹の恋人が金子の娘とソックリなのに金子は平気で殺してしまうという設定はチョット無理があるような(こういう陳腐な設定はいかにも城戸禮だ)。今回の竜の愛銃はウッズマンでも日活コルトでもなくホントにルガー(P08)だった。『抜き射ちの竜』のような緊張感もなく『明日なき男』のような軽妙なやり取りもなく観ていて退屈な作品。
(2003年12月10日記)