第5帖
ルガーは俺のパスポート

 

 

 

 

赤木圭一郎が演じたヒーローで代表的なのは『拳銃無頼帖シリーズ』の主人公、『剣崎竜次』こと『抜き射ちの竜』であろう。このシリーズの原作者は城戸禮。城戸は1909年11月26日生まれ。戦前からユーモア小説作家として活躍していたらしい。そんな人がどうして『抜き射ちの竜』というキャラクターを作ったのだろう。この人は源氏鶏太の小説や東宝のサラリーマン映画が流行るとサラリーマン物を書いたり、007映画が流行るとスパイ物を書いたりと時流に乗る(サル真似する?)のが上手だから、案外日活映画が流行っていたから作ったのかも知れない。
 この人の作品はタイトルがスゴイ!調べただけでも下記の通りだ。例外はあるものの『・・・・三四郎』というのが殆んど。バカバカしいタイトルから内容を想像する事は出来ない。(全部、似たり寄ったりなんだよね。地方都市に流れついた拳銃使いの竜がライバル?のコルトの譲と協力して地元の人々を苦しめる暴力団を壊滅させる、という日活アクションのお馴染のパターン。ハードボイルドではなく、どこか牧歌的なムードが漂う不思議なタッチが魅力。)
全ての作品に共通しているのは『はりきりスピード娘』以外の主人公の名前は竜崎三四郎。剣崎竜次ではないのだ。設定も作品によってバラバラ。初期の頃は大学柔道部の猛者だったり新米サラリーマンだったのが、早射ちの竜の異名を持つ拳銃使いになり(脱サラしたのか?)、タクシー運転手、警視庁の敏腕刑事、探偵、国際警察の秘密捜査官。何故か市長にもなる。そして暴力団やテロリスト集団と戦うのだ。しかし刑事や秘密捜査官が戦うなら話は判るが、どうしてサラリーマンや運転手が? ちょっと強引過ぎやしないか? 最後は警視にまで大出世! 警察庁の特別チーム「竜崎軍団」を率いて悪と戦ったりと変幻自在。多羅尾伴内や銀座旋風児・二階堂卓也よりもスゴイ!「竜崎軍団」はおそらくTVで『大都会』や『西部警察』が放送された頃に書かれたのだろう。何でも貪欲に取り込んでしまう・・・・・・このパワー恐るべし。他に同一の名前の人物がこれだけ設定を変えて登場する作品をオイラは知らない。設定を変えたとはいえ、1950年代から80年代まで活躍したわけだから息の長いキャラクターである。
 何故、『拳銃無頼帖シリーズ』の主人公が竜崎三四郎でなくて剣崎竜次なのだろう? 思うに竜崎三四郎という名前は既に『大学の暴れん坊』で使われたからではないのか。(シリーズ化するつもりだったのかな?)
 この城戸禮という人。小説を書くときあまり下調べをしないで書く人(と思う)。竜が使う拳銃や車の描写が非常にいい加減。竜の銃は「オートマチックルガー」、コルトの譲の銃がただの「コルトオートマチック」のみ。竜崎軍団の時に乗っていた車が「マセラッティ・ギブリクーペ」・・・・・・・ただこれだけである。大藪春彦の真似をしたつもりなのかなぁ。調べもしないで書いたからか?それとも基本的に描写力がないのか?とにかく稚拙である。大藪作品だと犯行に使用する車や銃や弾を手に入れるプロセスから緻密に描かれているのに、城戸禮作品だとそういうのは全く無し。弾を装填するシーンすらない。おまけに三四郎はやたらと女にモテる。ちょっと安易すぎやしないか、と思うのだがこれが城戸禮の持ち味。文句は言うまい。城戸禮の作品は以前は春陽文庫で読む事ができたのだが、残念な事に現在は絶版となっている。80年代くらいまでは書店で見かけたのだが・・・・・いつ無くなったんだろ。

城戸禮作品のラインナップ
『かけだし三四郎』、『いなずま三四郎』、『旋風三四郎』、『猛襲快男児』、 『タックル社員』、『大学の快男児』、『はりきりスピード娘』、『竜巻三四郎』、『流星三四郎』、『拳豪三四郎』、『地獄に賭けた三四郎』(『俺の命は地獄へ賭けた』改題)、『無鉄砲三四郎』、『熱血爆弾児』、『よしきた三四郎』、『拳銃街を行く男』『大学の人気者』、『十字火撃ち三四郎』(『十字火撃ちの男』改題)、『大暴れ快男児』、『爆発喧嘩社員』、『早撃ち三四郎』(『夕陽を背にして立つ男』改題)、『大学のつむじ風』、『拳銃に生きる三四郎』(『地獄への弾丸』改題)、『三代目社員』、『つむじ風社員』、『鉄拳風来坊』、『つむじ風男一匹』、『超特急三四郎』、『ぶっ飛ばし三四郎』、『はやぶさ三四郎』、『つむじ風鉄腕三四郎』、『地下鉄三四郎』、『痛快三四郎げんこつ市長伝』、『突撃三四郎』(『向こう見ず三四郎』改題)、『狙い撃ち三四郎』(『拳銃右手に流れ者』改題)、『若旦那三四郎』、『無敵男性三四郎』、『銃撃三四郎』(『嵐を呼ぶ男三四郎』改題)、『のんびり三四郎』、『不敵三四郎』、『抜き撃ち三四郎』『拳銃無敵三四郎』、『早わざ三四郎』、『野良犬三四郎』、『風車投げ三四郎』、『ご意見無用三四郎』、『はっ倒し三四郎』、『命を賭ける三四郎』、『地獄行き三四郎』、『鉄腕三四郎』、『闘魂三四郎』、『けんか三四郎』、『弾丸三四郎』、『危機一髪三四郎』、『拳銃刑事三四郎』、『殴り込み刑事三四郎』、『抜き射ち刑事三四郎』、『ぶっ飛ばし刑事三四郎』、『猛撃はみ出し刑事三四郎』、『突撃マイト刑事三四郎』、『熱血スーパー刑事三四郎』、『不敵バイオレンス刑事三四郎』、『必殺ダーティ刑事三四郎』、『大暴れアウトロー刑事三四郎』、『爆発メガトン刑事三四郎』、『鉄拳エキサイト刑事三四郎』、『激闘パワフル刑事』、『爆走ファイティング刑事』、『壮絶ワイルド刑事』、『闘魂マグナム刑事』、『血戦マイティ刑事』、『強襲ストロング刑事』、『危機一髪特命刑事』、『弾丸クラッシャー刑事』、『激烈ジャガー刑事』、『出撃バズーカ刑事』、『大反撃ショットガン刑事』、『撃滅コマンド刑事』、『殺人特命刑事』、 『ガッツ武装刑事』、『勇猛ダイナミック刑事』。

 

これで全部なのか、まだ他にもあるのか不明。全部は読んでないけど、半分以上は読んだと思う。後年の『竜崎軍団』物(『・・・・刑事』ってやつネ。)は日活っぽくないから、あんまり読んでない。今回これを書くのに押入れの中にしまってあった春陽文庫発刊の城戸禮の本を引っ張り出してみた。それが上の写真のものなのだが、13冊しか見つからなかった。もっとあるはずなのだが・・・・『拳銃街を行く男』や『げんこつ市長伝』とか読んだ記憶があるから、物置でも探せばあると思う。
 これでもオイラは学生時代、結構読書家だったのヨ。といっても高尚な本は全然読まなかった。いや読めなかった。映画と同じで難しいのはどうもね・・・・・・・一般向けでないものはパスである。城戸禮の他によく読んでいたのは大藪春彦、江戸川乱歩、島田一男、三好徹、都筑道夫、生島治郎、石原慎太郎、等である。一番高尚なもので石坂洋次郎というレベルであった。
 全てTVや映画で映像化されたものばかりである。いつも通学の時に電車の中で読んでいた。城戸禮作品は書店で偶然見つけたものである。名前は映画のクレジットでなんとなく知っていたが、まさか70年代〜80年代頃に、書店で売られていたとは思わなかった。裏表紙に作品の紹介が書いてある。
「年のころは26か27、180センチ余りのガッシリした体格にジャガーを思わせる精悍さを漂わせている男。その男こそ拳銃無宿の風来坊“抜き射ちの竜”ことわれらが竜崎三四郎!・・・・・・かつて赤木圭一郎ほか幾多の青春スターを世に送り出した痛快アクション傑作編!」
日活アクションファンなら絶対に読みたくなる紹介文。しかしながら内容はホントにくだらない。でもB級映画の原作本だよ。くだらなくて当然!三文小説としてはこれでイイのだ。くだらないけど面白い。面白いから止められない。しかし読んだ後、何の感銘もない。時間を無駄にしたと思う時さえある。でも読まずにはいられない。これこそがB級映画、三文小説の醍醐味なのではないだろうか(・・・そうかなぁ、やっぱり時間の無駄だよ。)。

城戸禮は1995年8月11日に亡くなっている。享年85。死因はもちろんどういう顔をしていたかもオイラは知らない。オイラにとって城戸禮という人は幻の作家で終わってしまった人だ。でも通学途中にお世話になった思い出の作家さんだ。心からご冥福をお祈りします。