第19話
俺は銀座のオタク野郎

 

ある週末の夜の事、オイラは銀座にいた。晴海通り沿いにある名画座へ小林旭主演の『太平洋のかつぎ屋』を観に行ったのだ。夜9時からのレイトショー上映。遅れては大変だ。ウルトラホーク2号(ホンダリード90)で出撃、15分前に到着。夜9時からの上映にも係わらず劇場前は長蛇の列だった。ざっと見ただけで100人近く並んでいる。ヤバイ!入れなかったらどうしよう(笑)。ここではさっきまで洋画を上映していた。何をやっていたのかは知らないが終了して中から客が数人出てきた。映画マニア(おたく?)風の奴の他、若いカップルが数組いた。週末の夜に銀座で映画を観てこの後はオシャレなレストランで食事。その後はホテルでセックスか?なかなか充実したナイトライフだね!カップルの女の方が行列を見て男に尋ねた。「これ何の行列?」男は劇場入り口の立て看板をチラッと見た。アキラ映画だと知った男は何食わぬ顔で「さ・・・さぁ、何だろうね。」と言ってゴマかした。彼女がこれから上映される作品が天下のアキラ映画だと知ったら「観たい!」なんて言い出すに決まっている(ホントか?)。ホテルでセックス出来なくなったら大変だ。男は看板を彼女から見えないように自分の体でさえぎって通りに連れ出した。上映10分前になり開場入りが始まった。座れるかどうか心配!だったが何とか座る事が出来た。館内は超満員だった。映画が始まりタイトルやスタッフ、出演者がクレジットされる。小林旭の名前が出ると観客から拍手が沸く。スゴイ人気&熱気だ。最近はアキラを次の内閣総理大臣に!という国民の声もあるくらいだ。
 

200X年、空前の日活映画ブームがやって来た。裕次郎やアキラを語ると道行く人が羨望のまなざしで振り返る。職場で語れば出世街道驀進だ。学校で語れば人気者。クラスメートの女の子から告白されちゃう。キャバクラで語ればモテモテ。キャバ嬢に「抱いて!」と迫られ無料でやることも可能だ。猫も杓子も日活映画だ。みんなモテるために日活映画の勉強に余念が無い。『モテる男の日活映画』なんて本まで出てベストセラーだ。増刷も決定。景気回復の起爆剤とまで言われている。時代は変わった。かつては浅草新劇場のような映画館でニコヨンやホモの痴漢&スリ等を警戒、ビクビクしながら鑑賞していた。日活映画なんて年寄り以外誰も知らない。そんなマニアックな作品が好きなんて言ったら変人扱いされるだけ。オイラは隠れ日活オタクとして孤独な活動を続けていたものだ。それがどうだ。テレビでは毎日のようにゴールデンで作品が放送されるし、DVDや写真集、ムック本も発売。週刊誌では毎週のように日活映画の特集が組まれている。特集を組むと売り上げ部数が30%アップするというからこのブームは本物だ。渋谷や原宿あたりの女子高生たちの間では裕次郎やアキラの噂話でもちきりだ。ファンクラブも結成される勢い。会員証を見せれば女子高生が無条件で股を広げてくれる。21世紀は日活映画に詳しいという事がモテル男の必須条件となった!!このサイトを見ている日活フリークの中には良い思いをした人も多いのではないかな。日活映画を語れる評論家が少ないためか、ネット上で語っていた連中もマスコミに登場する機会も多くなった。中にはタレントや作家になった者もいる。おかげさまでJOA王者としてゴキブリ人生を歩いてきたオイラも今ではちょっとした有名人だ!!駅でOLにサインや握手を求められたり。女子高生に「一緒に写真良いですかァ!」なんて言われたゾ!あぁ・・・日活ファンで良かった。この人気を土台にして都議会に打って出る。将来は石×慎○郎を蹴落としてオイラが東京都知事となる。そして東京を日本から独立させオイラは東京国の皇帝となるのだ!!そうしたら金正日みたいになって喜び組を作ろう。酒池肉林しまくってやる!!夢は世界征服だ!!
 

「もしもし・・・映画終わったんですけど・・・」係員に肩を揺り動かされた。どうやら眠っていたらしい。周囲を見渡すと映画館の中にいた。そうだ。『太平洋のかつぎ屋』観てたのに眠ってしまったのだ。映画は既に終わっていた。客は誰もいなかった。元々上映中も客なんてほとんどいなかった。オイラと同じおたく風の奴らが数人いただけ。まっ、週末だというのにこんなマニアックな映画観に来る奴なんてマニア(おたく!)くらいなもんだ(笑)。
しかしせっかくのアキラ映画観逃しちゃったヨ。仕方がない、また明日来るか。
あ〜あ、しかしヘンな夢を見た。